第7話 理不尽な悪も、理不尽な正義も、誰かにとっての刃に他ならない。

モドキ「正義と悪って、ようは視点の違いでしかないと思うのよね」


ハグレ「なんだよ藪から棒に」


モドキ「いや、ハグレを見ているとどうもね、『俺は正義を貫くぜ』とか逆に『正しいことなんてクソくらえだぜ』とか言いそうだなって。見た目かしら」


ハグレ「ヤンキーって言いてーの? それとも熱血って言いてーのか? ·····まあ、そこまでのことを言ったことねーけどよ、そうだな、ヘッドとして、校則はある程度守れって言ってるし、とにかく法律は絶対遵守しろとは言ってるぜ。例えば、俺はこんな髪してっけどよ、式典の時はちゃんとスプレーで黒くするし服の前も留める、関係ねえ奴には危害を加えない、みたいな。それって、明確な規定――本当は守るべき正義を基にちゃんとそれを守れよって言ってるだけだから、その正義に視点なんか関係なくね? だってよ、それを悪だって騒ぐ奴がいるとしたら、そんなもん、騒ぐ方が悪だろーが」


モドキ「うーん、校則――社会人になれば社則? を全肯定するとしたらそうかもしれないけれど、でも、ちょっと視点を変えてみましょう? 例えば、化粧やパーマは校則違反だから、本来は如何なる場合でもダメなの? 〝注意されたら従うべき悪〟なの? でも、化粧をしないと前を向けない、人前に出られないぐらい塞ぎ込んでいる子っているのよ。パーマだってそう。髪質で虐められる子はたくさんいる。あと、整形は悪だなんだと宣う人は多いけれど、そうでもしないと生きられない人っていうのはごまんといるわ。

耐えられないコンプレックスは人それぞれで、主観に立ってみないと仕方がないことかどうかなんて分からないじゃない。その主観に立って、それを肯定すると、自分が生きるために纏った鎧を剥ぎ取って丸腰で戦地へ向かえって言ってるような校則遵守な考え方はただの悪でしかないわ」


ハグレ「式典の時だけでも守れってだけじゃん。特にうちの高校は緩いし、普段はそこそこ気をつけろよぐらいだろ。ただ、そういう要所要所の決まりすら許しちまったら、規律がなくなる。規律がないと、集団社会として纏まらねえし、統率がとれねえ。規律がないと守れって注意できない分、悪い奴らがのさばるだろ、そうなると、学校としちゃあ、生徒を守れない、イジメを無くせないんじゃねーの」


モドキ「元からイジメなんて無くす気ないわよアイツら。それにね、抵抗ができないぐらいに虐められてしまう顔の作り――だと自分のことを思い込んで俯いてしまう人って本当にいるのよ。その態度がさらにイジメを助長させたり·····。そんな、直すことができれば解決するはずのことを、規則だから仕方がないと思うことなんか出来ないわ。コンプレックスは人それぞれだと言ったけれど、他人から与えられるものだってあるもの。悪口を言われたり、ね。その他人から与えられたコンプレックスは、自分で思うことよりも根強く残ってしまうものよ」


ハグレ「でもその悪口だって、所詮は言った方の主観じゃんか。なら耳を貸すだけ野暮ってやつじゃねー? 言われた方は毅然とした態度でいればいいだろ。それか、お前がいつも言うように――いつもやるようにって言った方が合ってるか·····? そんな奴とは関わらないようにすれば、二度と言われたりしないし、そうしたらいいじゃん」


モドキ「たしかに私は、嫌な人がいたら存在を自分の中で抹消して関わらないようにするわ。ただね、私だって別に、響いてないわけじゃないし、気にしてないわけじゃないのよ? 私は聡明だから、嫌な人と同じことを考えているであろう人間がごまんといることをよく知っているだけ。変わり者で嫌われやすいことをちゃんと把握しているかこそ、あなたは少数派で間違っている! とその場の大多数から糾弾される前にいなくなるようにしている――って考え方、あなたに理解できる?」


ハグレ「自分で聡明とか言う·····? つーか、そもそも理不尽に悪い奴だって言われたのなら、悪いのは向こうじゃんか。そこに少数派だとか多数派だとか、数なんて関係ねーだろ」


モドキ「そんなことないわ。あなただってさっき仕方がない人の意見を許して規律を無くせば社会では統率が取れないって言っていたじゃない。それって、大多数の規律に重きを置いて、少数派を切り捨てたってことよ。少数派からの視点では悪くない、仕方がないことを、規律違反の悪だと、ハグレは今、区分したの。つまり、数が多い方をとる、というのはある種の正義とも言えるのよ。で、一番初めの『正義と悪は視点違い』って話に戻るけれど、いつの時代も悪って少人数なのよね。少数派は当たり前のように周りに馴染めず、悪いことをしていなくとも悪く言われやすく、決めつけられやすい。けれど、少数派を大事に! ってそちらに視点を合わせると、合わせた人間の分だけ少数派ではなくなるわけだから同じ方向の視点が多くなって、悪ではなくなる。

だからそうね、正しくは視点の違いというより『視点の数の違い』なのかな」


ハグレ「つまりどちらを向くか、じゃなくて、どちらを向いている人が多いかで人は判断すると言いてーのか? そんなわけなくね? 一人だろうと正義を勝ち取った人間はいるだろーが」


モドキ「あら、じゃあ勝ち取る前は悪だと言われてたんじゃないの? それは、世の中の視点が傾いただけで、その人が元から世の中の正義だったわけじゃないわ」


ハグレ「それは屁理屈だろ。元から変わっていないってことは、その人が元から正義だったってことじゃねーか。他人がそれに気づいたのであって、常識が悪から正義に変わったわけじゃない。イジメと同じだろ。アレって虐められてるのは一人とか少人数じゃんか、でもよー、イジメられている人間は悪ではねーじゃん? 最終的に、ちゃーんと『イジメは悪いこと』で『イジメられている奴は悪くない』ってなるだろ」


モドキ「いや、限界を迎えない限りは、社会的にはイジメとは認識されず、悪になるわよ? 虐められている人間は、社会的には間違いなく迷惑な存在で、蓋をしたい臭いもので、責任のすべてをソレに押し付けたい存在だもの。でも限界を迎えて死んだり登校拒否したり、〝我慢していた〟という〝認められやすい弱さ〟を見せつけることで、悪ではなかったのでは、と思う人が出てくるだけで、そうなる前までは、社会的に浮いてるだけって片付けられたりするじゃない。で、社会は浮いてる方を問題視――つまるところ悪だと定義するわ。ほら、よく聞くでしょ? 『イジメられる方に原因がある』って」


ハグレ「それは、『悪』の言っていることで、正義ってやつの前じゃあ、そんなものまかり通らないだろ。弱いものいじめは良くないってのは常識じゃん。ようは少数派って、そういう弱者であることが多いだろ? いくら虐めている側が悪くないと主張して、それを肯定する奴が――例えば傍観者が多かろうと、変わんねーよ。そんなことを言う方がおかしいっての」


モドキ「そうかしら。虐めている側が全員『○○さんが嫌な奴だから注意した』と言った場合、多数派の言葉はまったく違う意味を持つわ。みんなに危害を加える原因を注意しただけで、イジメでは無い。注意をするのも嫌だから『無視をした』。これは、イジメかしら? そうなると、私の『関わらないようにする』も他人を無視乃至軽視している――つまり虐めていることになるわね。だって、人と合わないのは私の方だもの。自己防衛として、あなた達が扱ってくれるそれは、社会的にはいじめかしら?」


ハグレ「いやいやいや、それは、周りに危害を加えるほうが悪だろーが。ただ、過剰に無視をしたりするのも悪じゃん。注意をするなら真剣に向き合うべきだし、最初から何も言わないならそれを徹底するべきだ。中途半端に自分勝手に言うからいじめになるんじゃねー?」


モドキ「たかが他人に中途半端もクソもないでしょうが。今の時代、その人の人間性を否定したらモラハラよ。だからある程度『注意して』ある程度が過ぎれば『関わらない』になるの。その人数が私は死ぬほど多いじゃない? じゃあ、虐めているのはどっちかしら? 私を否定した周り? それとも他人を拒絶している私?

ハグレの定義でそれが測れる? 測れないのよ。もし測るとしたら、あなたの主観のみ。あなたがどちらに理解を示すか――ハグレがどっちを主体において、どの目線で考えるかのみでしかそれは測れない。今は私の方を見てくれているかもしれないけれど、周りの話を聞いてみなさいよ、絶対に多くの人が私を悪くいうわ。『あの子は冷たい』『なんか怖い』『人と違う』『普通じゃない』ってね。そしてそれを――言われているのを知っているから、私は人を拒絶する。拒絶した先にあるのは『関わってこないから怖い、冷たい』、かと言って取り繕っても『嘘くさい』『本音を言わないから信用出来ない』という具合になるわ。結局最初から私は人と馴染めないから、何をしたって評価として挙げることって変わらないのよ。あなたがさっき言った『元から何も変わっていない』。どちらも言い分も変わってないのに、善悪だけが発生する。

それでも何故、私の存在が嫌悪として広まるのか。それはね、別件で嫌なことがあった時に、少人数に責任を押し付けるほうが、その他集団の団結力が上がるからよ。だから全ての、原因が分からないふわっとしたイライラを少人数に押し付けて『あの子が冷たいから嫌な気持ちになった』『あの子が怖いから授業に集中できない、教室にいたくない』『あの子が輪を乱すからだ』って理由付けして、団結力のための明確な悪を作り出すの。

やってる事も言ってることも、何一つ変わらなくても、味方や無関心から突然『悪』へと多数の主観が変わる。こういう事案は少なくないわりに、正義を勝ち取ることができないの。だって何度も言うように『元から』『何一つ』『変わっていない』んだから。

でも、私はこれを――この主観が変わった後のこれを、明確ないじめだと思う。相手が悪だと思う。けれど、世間は『言われている方に原因がある』という。視点が多い方が、道理になるから、私が直せば、私が言われるようなことをしなければ解決するはずだと責め立てるの。まあ少数派の人の方を向いた時に『人それぞれ』『色んな人がいるんだから認めるべき』って言葉を使う人がいるわよね。耳触りのいい言葉ですこと。けれどこれを肯定し、正義としてしまったら、ハグレが最初に言った自論である『全てを認めると規律がなくなり、統率が取れなくなる』と思うのよ」


ハグレ「たしかにそれはそうだけど·····。うーん、少し違うかもしれねーが、その環境には合わなくて少数派になっちまっているが、環境を変えれば、お前――いや、そいつだって多数派になることもあるだろ。何も少数派がいつまでも少数派で、いつまでも非常識な悪だと言うわけじゃねーじゃん」


モドキ「·····あなたそれ、さっき言った『正義は数』っていう私の言葉と同じじゃないの。まあ? 結局そうなのよ。あなたが今、正義だと掲げているものも、悪だと罰したものも、全部、この環境にあなたが馴染めていてあなたが凡庸で、あなたが多数派の人間だから安心して掲げられているだけのふわふわしたものでしかないのよ。ハグレが本当に否定される一匹狼なら、明るい言葉で正義うんぬんなんて言えないと思う。自分の正義を信用出来ないから」


ハグレ「え、何。俺は今責められてんの?」


モドキ「そんなことはない·····とも言いきれない、かなあ。ようは善悪は視点の違いだから、切り捨てて全否定はしないで、悪だと言わないで。ここで否定するなら逃げ道をあげて――って思うの。もちろんハグレに対してだけじゃなくて、そういう事を言う社会に対してよ。私も、逃げ道が欲しいなーって。けれど、正義や悪、少数派多数派ってようは『人間』が主体の話になっちゃうから、私みたいにどこに行っても大多数と交われない主体そのものである人間が苦手な人は逃げ道がないとも言えるのよね。それってどうなのかしら、結局どこに行っても少数派で、人間から見た悪ならば、それは、絶対的な悪になるのかしら」


ハグレ「お前の持論を受け止めるとしたら、絶対的な悪なんてねーよ。現にお前のことを、俺やナニカは認めているし、悪いと思ってねーもん。たしかに直してほしいところはあるけど、それは皆同じだろ? 欠点のない人間なんかいねーし。人はそれぞれ、それを受け入れて注意して生きていくんじゃん。意見を聞き入れないで身勝手な振る舞いをしているわけじゃないのなら、必ず正義として報われる。悪だと切り捨てられることはないはずだろ。それは視点の違いではなく、根本的な――最終的な道理のはずだ」


モドキ「他人の意見を聞き入れても、気を使っても私のことを説明しても、根底の人間性っていうものは変われないわ。だから直せと言われてどうにか繕って人前で直して振舞っても、所詮は仮初、結局は否定されるわ。私の私たる人間性がどんな環境にも馴染めないものなら、受け入れることもできず、受け入れてもらうこともできず、異物として扱われ、悪として切り捨てられるしかないわ。だって私の中の小さいものを『直した方がいい欠点』として注意乃至、切り捨てている訳じゃないもの、それは。周りは、私の私たる大部分の人間性を否定しているのよ。そういう根本的なところが大多数からみた悪ならば、それは犯罪と一緒じゃないかしら。社会的に『原因があるから虐められる』『悪いのは少数派の私』になると思わない? でも、今ハグレは私と話をしていて私の主観に立ってるからそれを悪だと言えない、同調しているから。でも知ってるでしょ? 私は根本的に、理由なく、生理的に他人が嫌いで受け付けなくて拒絶している。拒絶反応が出るけど、それって他人からしたらただの虚弱体質で、自分達人間は関係ないと思ってる。私も説明できない。その辺の『正義を掴み取るに足る理由のないモノ』私の人間嫌いは、悪じゃないかしら?」


ハグレ「もー! お前は俺にどう思ってほしいの ! 俺はお前を悪いと思ってねーよ。けど、その人間性が理解できないのも確かだ。でも·····いや、俺は――じゃあ何を正しいと思えばいいわけ?! お前を悪くないという理由が無くなっちまう、でも、お前を悪いという理由もないじゃんそんなん。規則や規律も、正しいと言及できなくなる、そしたら何を基準にすりゃあいいんだよ。どうしろっつーんだ!」


モドキ「ごめん、揺らがせるつもりは無かったのよ。あなたはあなたの正義でいいと思うわ。ただ、あなたの正義は誰かにとっての『理不尽な悪』であることも忘れないで。それは避けられないわ。例えどれだけ環境に馴染めていても、理解を示しても、大多数の正義でも、少数派の正義でも、さらに違う視点の悪であることは忘れないで。絶対的な正義じゃないこと、忘れないで。その上で、自分を貫くのは、悪いことではないから」


ハグレ「·····それもまた、誰かにとっての悪か」


モドキ「そうよ。それでもあなたは自分を信じるならそうしたらいい。そうすれば押し付けがましい『絶対的な正義』によって淘汰される『絶対的な悪』が薄れて、悪になりやすい私が生きやすいもの」


ハグレ「はは、お前が生きやすいから、かよ」


モドキ「そうよ。私も私の視点で生きているんだもの。自分の正義を跋扈させるわ。それが悪でも正義になるまでね」


ハグレ「台詞が完全に悪役じゃねーか」


モドキ「あら、それなら言い方を変えましょうか? 私の正義を皆に浸透させるわ。私にとっての悪を打ち倒してね」


ハグレ「なるほどな、言ってることは変わらねーのに、たしかに正義の視点として言われたらそれっぽく聞こえるわ。まあ、お前はそれでいいんじゃね?」


モドキ「良くはないかもしれないわよ、現に十余年悪役として常に淘汰されてきたんだから」


ハグレ「――ああもう! 終わんねーだろーが!!! せっかくいい感じの雰囲気だったのに!」


モドキ「あはははは!」




後書きとか言い訳とかいろいろごめんやでコーナー。


なんか今回、ハグレがとても真面目な意見側に立っているのが、書いてて違和感がありました。

でもこうするしかなかった·····!

よくよく考えてみたらナニカもハグレも、全員アウトロー。真面目な人が誰もいない。人員不足をひしひしと感じましたね。

あと、コロナワクチン(一回目)を摂取した後に「熱も出てる感じしないし、ゆっくりしながら書こう」と思っていたのですが「なんか話がまとまらないな·····いやいつもなんだけど、いつもより何いってんだ私ってなってるなあ」となってためしに計ってみたら、しっかり熱が出ていました。

わー副反応!


さて、今回の話ですが、分かりやすく校則やいじめをあげてみましたが、いかがでしょうか。

いじめの被害者を被害者たらしめる理由は、被害者であるというおおよそのボーダーラインが世の中に存在し、被害者であろうその規定内の人間が一定数存在し、共感されているからだと私は思います。

たった一人では、何も後ろ盾がなければ、特異的な場合では、どれだけ相手側が理不尽でも、どれだけ悪くないと思っていても社会にとっての『汚点』でしかありません。

だから人は仲間を作り、徒党を組むのではないでしょうか。

そうすることで自分の置かれている立ち位置や価値観は点、ではなく規定や常識の線になるからです。

――まあ、みたいなことを言いたかったわけですが、そもそもこの主張も、本文にあるように、凡庸で大多数の中に無意識に身を置いている人間には伝わらないかもしれませんね。

それは悪いことではないと、私は思います。

そのほうが幸せだからです。幸せは――良い事だからです。

けれど、もし私のこの作品の意味が伝わって、共感してもらえたならば。

私の考えも一つの多数派になるのではないかと、思います。

そういつか認められる日な来たらいいのになあ。


ご拝読、ありがとうございました。

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今日は何を話そうか。 競 琴梅 @Kotome_sousaku

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