幸せな家庭

がんざき りゅう

幸せな家庭

「おいしいものが食べられるはず・・ですよね」


 真向かいに座っているマイちゃん、いや、田中主任がコップの水を口にしながら訊ねてきた。中の氷がコロンと涼しげな音を奏でる。


「まあ、たぶん、そのはずです」


 ファミリーレストラン準大手の元締め、リバークーラー本社内にあるメニュー開発室の調理場。

 田中主任がこれから口にするのは、僕がこの夏の新メニューとして開発中のデザート。


「太郎君の料理じゃ食べなくても結果は見えてるけどね」


 少し小馬鹿にする言い回しに俺はささやかな反攻を試みる。


「マイちゃん、そんなこと言わずに・・・」

「仕事場ではその呼び方禁止って言ってあるでしょ。もう!」


 プイと横を向いて口を尖らせながら注意するが、頬が赤くなったのを俺は見逃さなかった。

 俺は冷蔵庫からお皿にのったイチゴのショートケーキを取り出し、小さなスプーンと一緒に差し出した。


「さあ、召し上がれ、主任殿」


 なんでイチゴなのと文句言いながら、ケーキを頬ばる顔を見れば結果はわかった。


「主任、なぜイチゴなのかというのはですね。それはイチゴの花言葉が・・・」

「待って、待って、私、調べるから」


 主任はスマホを取り出した。どうやらイチゴの意味がわかったらしい。嬉しそうに微笑んで俺の目をじっと見つめて言った。


「そうね。私達、そろそろ結婚してもいいころね」

「そのセリフは俺のセリフですよ」


 そう言いながらポケットから指輪の入ったケースを取り出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せな家庭 がんざき りゅう @ganzaki-ryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ