第9話

「(作家名) 性描写 なぜ」

 我ながら頭の悪い検索ワードだ。それもそのはず、大した情報が得られないことなんて最初からわかっている。それでも自分の気持ち悪さに名前をつけたくて、誰かに肯定して欲しくて、縋るように海に網を投げる。するとまあ、かかるかかる、ごみのような言葉の数々。

「全然エロくないのに」

 ぼくは記憶を手繰る。幼い日のぼく。ただ性描写があるだけで背後を気にするぼく。この際セックスがメタファーかどうかとか、生と死とか、エロティックかどうかなんてどうでもよかったのだ。そこにはセックスがある。男が女に挿入している。それがおそろしかった。男による女への侵入ととらえていた。女を妊娠させる直接の行為をしている、その事実がおそろしかった。

 侵略される側のぼくは、侵略行為が面白いかとか欲を煽るかとかはまずどうでもよいのだ。侵略されている、それだけで不快感には十分だった。そうか、これがメタファーですか。へえ。空想でもなんでも、女を侵す(犯す)以外に表現方法がなかったんだな、と、繰り返されるたびにぼくは空想の女が流した血のことを思う。ぼくの気持ち悪さの前では、神聖なことなのだとか比喩なのだとか言うことばは、言い訳にしか聞こえない。もうぼくは読んじゃいけないんだと思った。ごめんなさい、と呟いてぼくはそっと本を閉じる。

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透明なぼく 藍川澪 @leiaikawa

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