白@teamリッピン♡きりえ推し

第12話 #がんばれいら

「なちゅりさん、『がんばれいら〜』ありがとうございます! あっ、ふーたさん、また投げてくれてる。《がんばれ》10個もありがとう〜。ミケニャンさん、Skymartさん、なかしーさん、あと、ちーちゃんさん? エノモトさん、みるくさん、お星さまありがとうございまーす。お名前呼べてなかった方は言ってくださいね。そして初見の皆さまもほんと、星1つ! 1つでもいいのでご協力お願いします!」



エース@TheaterAct13期生応援:仲間引き連れてきたよ〜


コミ@VenuSチャトレ推します運動:《かわいい》×10


500GP ▷ 虹のアロウライト(にじあろさん)@平澤れいらꕤガチイベ中!!:生クリーム専門店creama!!イメージガール決定戦に挑んでます! 星投げお願いします! 丁寧なレスくれますよ〜^^


川田チキン/HoneyWand'sMagic:初見です!


ちゃんえり@限界vオタ:ハート×100


ちゃんえり@限界vオタ:めっちゃかわいい〜


レブン@TheaterAct13期生応援:《ファイトくま》×1


れもん(平澤れいらꕤ推し):《ファイトくま》×10


ミケニャン@りんご好き:1位まで5万ポイント切りました!



 おしゃべりアイドルを自称する〝みゆん〟たちには敵わないが、コメント欄があまりに早く流れていくため、平澤れいらも必然的に早口になっていく。

 イベント期間中はこんなふうにして一日三回配信、合計で2時間。かなりの体力勝負だろう。まったく、この細い身体にどれほどの力が秘められているというのだろう。


 ガチイベにおける毎回の配信では常に「変化」が求められる。【白@teamリッピン♡きりえ推し】として幾度となくガチイベに参加してきた武雄はそう考えている。

 普段のまいにち配信と違い、企画をやったりカラオケ配信をするといった内容の変化もそうだし、メイクや服装を配信ごとに変えるのもそう。なるべく多くの人に毎回きてもらうようにするためには変化が大切なのである。


なちゅり@ASBOリズミック♪:部屋着姿かわいいね!


 例えば今日の〝みゆん〟は一回目と二回目の配信の間隔が狭かったので同じ私服での配信をしていたが、平澤れいらは一度目と二度目の配信に着ていたニットのワンピースから、今はラフな部屋着姿に黒縁の眼鏡を合わせている。さすがはモデルだけあって、確かにそんな格好でも様になっている――というのはいいとしても、たったそれだけの変化でもファンのコメントやギフティングスタンプ(《かわいい》や《似合う!》の文字スタンプなど)が活発に投げられるし、「#がんばれいら」を添えてスクショなどをSNSに投稿してくれる人もいる。


「えー、ありがとうございます。今回ガチイベってことで色々な時間に配信もあるし、深夜配信は完全オフ姿でいこうと思っていたのですが……よかった〜。手抜きとか言われちゃったらどうしようかと思ってたんです。めがねどう? 似合ってるかな?」


コミ@VenuSチャトレ推します運動:《似合う!》


山岡デンキ@しふしふ、平澤れいらꕤ:《似合う!》×10


虹のアロウライト(にじあろさん)@平澤れいらꕤガチイベ中!!:《かわいい》×30


 モデルのファンがどうなのかを武雄はよくは知らないが、アイドルの場合、ライブ会場にプレゼントを持参するファンは少なくない。そこで化粧品や服などをもらい、配信で着用すればまず間違いなくプレゼントしたファンはお礼に投げ銭をするだろう。


 もちろん、〝みゆん〟も明日以降の配信では色々な衣装や髪型を披露したいと言っていた。まだ見ぬ推しの魅力を発見できるのはファンにとっても最高のイベントだし、まだ彼女をよく知らない人たちに興味を持ってもらういいきっかけにもなる。



300GP ▷ エース@TheaterAct13期生応援:○初見の皆様、Miltyモデルの貴重なパジャマ配信回ですよ


「え、ちょっと待って。山岡さんまた投げてくれてます? えー、ほんと次、できるようになったら撮影会とかきてね? 直接お礼言わせてください! そして、えーっと、南さん、れもんさん、ジェストさん、エースさんも星投げ三周目ありが……え、スパチャもくださってる! ありがとうございます。神回でしょ? それからケイりんさん、ひーたそさん、マガ……えっと、マガンドランケさん? ニシハさん、こんばんは。星集めかな? よかったらガチイベやってます。道玄坂にある生クリーム専門店――」


 確かに平澤れいらは強い。一回一回の配信でちゃんと変化をつけてファンを飽きさせないように努力しているし、そのおかげか、ほんの少し見ているだけでも投げ銭やスパチャが飛び交っているのがわかる。先ほどファンの一人が〝みゆん〟までのポイント差を5万と言っていたが、ほんの数分経った今ではその差は3万ポイント台まで縮まっていた。

 まして三周目の星投げが終わるこのタイミングは普通であれば投げ銭もやや鈍くなってしまうのだが、勢いはほとんど衰えていない。それが深夜の強さなのか、このモデルの本来の力なのかは武雄には図ることはできないが、大方の予想通り、この平澤れいらに勝利することが今回のイベントの鍵になるのは間違いないだろう。



 そんななか、武雄の脳裏には先ほどの〝みゆん〟の配信が浮かぶ。


「あっ、そうそう。見てみて! ふみたんに買ってきてもらったの、風船。すごくかわいいんですよ〜」


マキノ@みゆん激推し垢:出ました! 天の川投げてねアピールw


吉川せいじ@teamリッピン♡:《ファイトくま》×10


マキノ@みゆん激推し垢:《かわいい》×40


「え、ちょっと待って、マキノさん。アピールではないから! ってせいじさんほんとに投げてくれてるし! それ、天の川だよね? え、マキノさんもかわいい40個もありがとう? なんで40個なんだろ? これね、かなちゃんに結ってもらったんだ、髪」


きりえ(本物):かわいい40個も天の川だよ!


レンレン@清水のパンダ:あーちー配信から星をお届け!


エイト@北関東アイドル連合:みゆん、かわいいスタンプは250×40で10000です


 平澤れいらの配信にはなくて、〝みゆん〟にはあるもの。そう、それはメンバーという存在だ。配信の準備はもちろん、専属のヘアメイクがおらず、モデルのように知識もない彼女たちにとって、毎回衣装を変えるのはいくらプレゼントでファンから洋服や化粧品をたくさんもらうとはいえ、容易なことではない。

 それにそれぞれのメンバーを単推しするファンもこのときばかりは一つの配信に集まってきて、サポートをしてくれる。だからと言って不安がない訳ではないが、SNSで「#がんばれいら」で検索すると出てくるたくさんの応援の声と同じかそれ以上に彼女にも仲間やファンがいるのだ。



 いつのまにか、ポイント差は更に縮んでおよそ29000ポイントになっていた。


 だが、武雄は平澤れいらの配信が終わるのを待たずして寝ることにした。何しろ明日も朝早くから捨て星をしなければならない。そして早くその差を離さなければならない。


 妻や娘が未だにローカルアイドルについて懐疑的であるその気持ちもわからなくはないが、まさか誰かを推すだけでこんなに規則正しく健康的な日々を過ごすことになるなんて自分でも思ってもみなかった。


白@teamリッピン♡きりえ推し:おつかれさま。明日も頑張ろう


 武雄は〝みゆん〟の配信の最後に送った自分のことばを思い出しながら目を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星を投げるひと 大宮れん @siel-n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ