第11話 インターネット小説

 生きてる時は、常に苦しいと思う。

 生まれてきた赤子はずっと泣いている。きっと生まれてきた時から、赤子は傷つけられる。


 人間の心に傷をつけることは、宝石を磨くことに似ている。宝石を磨くことと、宝石の表面の汚れを削り、傷つけることに、どこに違いがあるんだろう。


 今日もインターネットには、知らない人間の言葉がたくさん流れている。

 インターネットの悪口、女性と男性のこと、政治のこと、不倫のこと、毒親と子育てのことが、全部が関係ない私のところへ流れている、本当にどうでも良くないか。


 私がインターネットを見なければ良いだけの話だ。それができないのには、私の意思が弱いからだろう。

 しかし、言わせてもらうなら、意思が弱いからじゃない。人間の意思は元々弱い。

 人間の意思よりもより本質的な行動原理で、インターネットに向かわせる仕組みがある。Twitterを開かせる一瞬のローディングに、脳が気持ち良くなる快楽物質が出る。

 そういう方向に向くように、個人よりも大きな社会が進んでる。


「…というタイトルの小説を考えてまして」

 私は社会システムになってしまった先輩に聞いた。


 社会システムになった先輩が社会システムになった経緯については、まぁ、過去の話なのでそれぞれ調べていただきたい(2019年2月5日公開「先輩が社会システムになった」参考)。


 パッド端末から先輩の声が聞こえた。

「社会システムになった俺に聞いてどうする?」

「いや、先輩なら分かるかなと思って」

 この先輩は、学生の頃から何か近い匂いを感じていた。

「うーん、確かになぁ、ネット社会のことは、自分のことを聞かれてるみたいで答えに窮するんだ」

「そうなんですか?」

「君は君のことを聞かれて答えられるか?」

「いや、答えられますけど……」

「……そうか」

 先輩は黙った。

 ちなみに画面上に写る先輩は、流行りのVtuberみたいになっている。先輩に聞いたら「コロコロ見た目が変わるのは愉快」なのだそうだ。

 先輩は、意味ありげに言った。

「何も答えられないから、君は小説を書くと思うんだ。でもそれでいいんだと思う」

「急に真面目なこと言いましたね」

 驚く私に先輩が言った。

「私はインターネットだからな。インターネットらしいこともできる」

 

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3121年までの1100年間のランデブーに添えるショートショート短編集 水乃 素直 @shinkulock

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