四
外は大騒動になっていた。
たけのこ派ときのこ派の闘争である。
至る所で論争が起き、乱闘騒ぎになっているところもあった。
私はトランペットを持ったままである事に気づいたが、今更戻ってもいられない。人混みをかき分け、彼女の姿を探した。
この人混みの中で彼女の姿を見つけるのは至難の業かと思われたが、意外にも彼女はすぐに見つかった。
野外ステージ上に彼女はいた。そして彼女はたけのこ過激派にとり囲まれていた。
一人の女性を寄ってたかって襲うとは断じて許せん。
私はステージの周りにいる人々を土台にして、なんとかステージ上にあがると、たけのこ過激派の前に立ち塞がった。
「やめろ! 彼女に手を出したら容赦はせんぞ!」
「なんだ、貴様! おまえもきのこ派か!」
何のことか、と一瞬困惑したが、彼女の手の中にあるものを見て合点がいった。彼女は先日のきのこ頭で紫色の人形を握りしめていたのだ。恐らくこの人形をきのこ一派のものだと勘違いをしたのだろう。
「彼女はきのこ派とは何の関係もない!」
私は叫んだが、たけのこ過激派は聞く耳を持たない。
そして、いよいよたけのこ過激派は拳を振り上げた。
こんなときのために私は楽器の練習の合間に、シャドーボクシングを練習したのだ。
私は渾身の右ストレートを放った。
私の拳は空を切った。
私の拳を華麗に躱したたけのこ過激派は、躱した拍子にステージから足を滑らせて落ちてしまった。
そうして奇しくも私は悪漢から彼女を救い出すという当初の計画を達成してしまったのである。
結果として、たけのこ過激派は自滅したのであるが、どうやらステージ外から見た人々には私が撃退したようにみえたらしい。
たけのこ派は仲間がやられたことで激高し、きのこ派はいいぞ、もっとやれと囃し立てた。
そうして騒動が苛烈になり、ステージにたけのこ派ときのこ派が乗り込んできた。
私は彼女を守ろうと彼らを静止したのだが私の声は届いていないようだった。そこで私は手に持っていたトランペットを思い出し、パァーーッと思い切り吹き鳴らした。
大衆は私を見て一瞬動きを止めた。
私は大きく息を吸い、トランペットを吹き始める。
あれだけ練習をしたトランペットソロだ。
彼らは私に注目し、振り上げた拳を下ろした。
私はソロを吹ききると
「好きなものは好きでいいではないか。争いは無用。他人の好きなものを認めてこそ真の紳士だ!」
と叫び、彼女の手を取ってその場を後にした。
一瞬の静寂の後に、背後から大きな拍手の音が聞こえた。
○
さて、文化祭も終わり、いつもの日常が戻ってきた。
騒動の後、私は吹奏楽部員一人一人に謝罪をした。どうやらアドリブソロは私の代わりに例の後輩が吹いてくれたようで、後輩は「あの状態の先輩よりは私の方がまだいくらか上手ですよ」と言って笑った。
たけのこ研究会ときのこ研究会は暴動を扇動したとして解体された。しかし今度はたけのこ・きのこ同好会を作ると噂で聞いた。
私は文化祭の後、また少しだけ彼女との距離が縮まった。
なんと、悪漢から救ってくれたお礼にお茶でも行かないかと彼女の方から誘われたのだ。
立花曰くこれが噂のデートというものらしい。
当然私はデートの経験がないので立花に助言を求めると、集合場所には約束の一時間前に行き、「待った?」「ううん、今来たところ」という会話をするのが慣例らしい。私は例によってこのシミュレーションを徹底的に繰り返した。失敗などするはずもない。
ではそろそろ時間になってしまった。私のデートの様子はまたどこかの機会に書くとしよう。
それでは読者諸君、ごきげんよう。そして私のデートの成功を祈っていてくれたまえ。
終
心恋し我が人生 ちくわノート @doradora91
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