第159話 予想外の文化祭初日
「谷村さん、これで良いのか?」
今日は土曜日で、文化祭の初日だ。
俺は谷村さんに渡された服に着替え、髪もセットした。
ちなみに髪型は「こんな感じでセットしてね」と雑誌を見せられた髪型だ。
「……」
そして、その谷村さんは俺を見ているが、何も言ってくれない。
「谷村さん、どうしたんだ? 何処か変か? 服か? 髪型か?」
「……良い……良いわ……吉住くん、最高よ! やっぱり私の見立ては間違っていなかったのよ! これで売れる……絶対に売れる……今年も1位は私達のモノよ……ふふふ、タコ焼きなんかには負けないからね! 1位を取るなら何だってやってやるから!」
これはダメだ。理由は分からないけど、興奮し始めた。
最後の「何だってやる」って言葉が気になるけど、大丈夫だよな?
陽一郎も準備が終わり、俺達の所までやって来た。
「おい、寛人……谷村さんはどうしたんだ? 様子が変じゃないか?」
陽一郎の髪型も普段とは違う。
普段の知的な雰囲気に、大人の色気が入っていて、男の俺から見ても格好良い。
「田辺くんも良い……あなた達! どうして普段からその髪型にしないのよ!」
俺達は何故か谷村さんから怒られた。
「学校の後は部活があるからな。練習中は帽子を被るから、整髪料を付けないんだ。陽一郎もそうだよな?」
「ああ、そうだな。整髪料を付けると帽子がベトベトになるんだ」
「まあ、良いんだけどね。ギャップがある方が……利用価値があるから」
俺達は捕食者の目になっている谷村さんに何も言えなかった。
◇
捕食者に連行されて、俺達はクラスの売場まで来ている。
「ほしょく……いや、谷村さん。俺達が午前中を担当して、午後は安藤と真田なんだよな? これって、明日も同じ予定なのか?」
予定の確認は一番大事なミッションだ。
明日は遥香ちゃんが来るからな。
「そうよ、明日も同じ時間の予定だから。予定は絶対に変わらないから安心して」
「……? そうか、分かった……」
なんだろうな、さっきから何か気になるんだ……そうだ、谷村さんの言葉だ……
あと、その手に持ってるプラカードが気になって仕方ない。
俺達に『表側』を見せようとしないんだ。
「谷村さん、そのプラカードを見せてよ」
「えっ? どうして? 嫌だけど」
頑なに見せようとしないので、強引に……と思ったけど、女の子にそれは嫌だったから交渉した。
「そっか……変なことを企んでるなら今の間に言った方が良いよ? 俺はともかく、遥香ちゃんが嫌がる内容ならさせないからね?」
「……分かったわよ」
そう言って、プラカードを見せられ、全ての企みを暴いた。
そこには『甲子園No.1バッテリーと一緒に写真が取れます!』と書いていて、その権利はピザ購入者に限る……
なんだよ、コレは……
更に気になったのが、そのプラカードは紙が二重になっていて、下にもう一枚が隠されているんだ。
とりあえず、俺は紙をめくってみた。
「マジか……谷村さん、これはどういう事だ? 理由を教えてくれ」
隠された2枚目は明日の分だ。
『殿堂入りの2人が食べさせてくれます!』と書いている。
「えっと……書いた通り……かな?」
どうして疑問形なんだ!
書いた通りって……「あーん」するって意味なのか!
「谷村さん、それは絶対にやらせない。今日の写真は許せたとしても、明日は許すことはできない」
「おい! 寛人! お前、なに言って……」
陽一郎、俺の邪魔をするな。
「陽一郎は黙ってろ。俺は谷村さんと話してるんだ……」
俺は谷村さんの目をジッと見つめた。
谷村さんも俺に負けていない。
「吉住くん、今日は良いとしても、明日は許せないんだよね?」
「だから、そう言ってるだろ。どうして、遥香ちゃんが知らん奴に食べさせなきゃならないんだ! 俺だってまだ食べさせてもらってないんだぞ!」
そうだ、俺もまだなんだ!
「吉住くん、言質を取ったからね」
えっ? 何が? 谷村さんは急に笑顔になってるし、陽一郎は変な目で俺を見ている。
「谷村さん、なにが? 意味が分からないんだけど……」
「寛人……相澤さんの事になると、冷静じゃ無くなるんだな……そのせいで……」
俺だけ分かってないのか? なに?
「吉住くん『今日は良いとして』って言ったわよね? だから写真撮影を宜しくね!」
谷村さんは、もの凄く笑顔だった。
「えっと、谷村さん。どういうこと?」
「だから、今日の撮影をやってくれるんでしょ? 吉住くん、さっき言ったじゃない。私が相澤さんに本当に『あーん』させると思った? させる訳ないじゃない。私だって、好きでもない男にやりたくないのに」
どうやら俺を怒らせた勢いで、今日の写真撮影の許可を取ろうとしたらしい。
「いやー。それにしても、吉住くんが怒ると怖いねー。違うか……怖いけど可愛いねー。『俺だってまだ食べさせてもらってないんだぞ』……って本当に可愛いねー」
恥ずかしくて何も言えなかった。
陽一郎まで少し笑うのを我慢してるし……陽一郎、覚えてろよ。
◇
谷村さんに騙されて決まった写真撮影だったけど、思った以上の大好評だった。
最初は「誰が男2人と写真を撮りたがるんだ?」と思ったけど、違ったんだ。
「寛人、写真やって良かったな」
「そうだな。あんなに喜んでくれるとは思わなかったよ。あの子達が後輩になったら嬉しいな」
谷村さんの予定では俺達をエサにして、女性客を狙ったらしい。
確かに女性客も多かったけど、今年の甲子園を見た小学生や中学生達が、西城高校の文化祭の存在を知って、親御さん達と来てくれていたんだ。
しかも、聞いたら遠方から来た小学生も居て俺達も驚いた。
その子達は全員、俺の投球や、陽一郎の負傷退場を覚えていて「来年の甲子園出場を応援してる」と言っていた。
「吉住くん、田辺くん、午前中はありがとう。もう交代しても良いよ」
谷村さんから交代を言われたけど……
「なあ、陽一郎……」
「ああ、俺も大丈夫だ。同じ気持ちだから」
「じゃあ、準備するか? そうだ、谷村さん相談なんだけど──」
谷村さんと話した後、俺と陽一郎は部室で着替えていた。
予備の試合用ユニフォームに……
「遠方から来た小学生には驚いたな。親御さんとも一緒に写真を撮って、喜んでくれてたな……」
「そうだな『吉住くんと、田辺くんを子供が見たいって言うから一緒に来たんです』って言ってたな。他の小学生や中学生も同じ理由だったし……」
谷村さんには、午後も写真撮影は続けると言ったんだ。
ただし、ピザの購入の有無は問わない……と。さっき撮影した子達とも、もう一度撮るかもしれないからな。
テレビに映ったユニフォームだから……
これで、西城高校を志望してくれて、数年後の野球部員になってくれたら……もっと嬉しい。
結果は予想通りだった。
ピザの購入は問わないけど、撮影はピザの売場だったから、売上も予想以上にあり、食材も明日の分を使ったと聞いている。
写真撮影は午前中に来た子達も居て、ユニフォーム姿を喜んでくれていたんだ。
写真撮影も落ち着き、ほとんどの子供達が俺達の所に残っていたので、全員を連れてグラウンドに行き、1人数球だけどキャッチボールをした。もちろん……全員に。
「少し疲れたな……」
「ああ、でも楽しかったな……」
土曜日の文化祭も閉園し、俺と陽一郎は部室で着替えて休憩していた。
「じゃあ、俺達は帰るか?」
「そうだな、明日もあるからな」
谷村さん達は、まだまだ残るらしい。
食材やら紙皿とか明日の分が無くなり、準備をしている。
俺達は「明日もあるから帰って休んで」と言われたんだ。
こうして文化祭初日が終わった。
────────────────────この回の捕捉ですが、西城高校は甲子園初出場で、しかも公立の進学校だから、出場を決めた段階で報道でも注目されていました。
出場校の多い激戦区という理由もあります。
そして、寛人くんは『大会No.1投手』として注目され、陽一郎くんとも『No.1バッテリー』と評価され、西城高校に勝った相手は甲子園で優勝しました。
しかし、その試合は『事実上の決勝戦』と言われていて、野球をやってる子供達は西城高校のファンになった。
これが理由です。
あれ? 真面目に書いちゃった(〃´ω`〃)
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