第147話 陽一郎との通学路

「学校まで、あっという間だったな」


「うん。すぐ着いちゃったね」


 正門に着くと、遥香ちゃんの様子が違って見えた。


「遥香ちゃん、どうかしたの?」


「……? 何もないよ?」


 何もないって言ってるけど、そんな感じに見えない。


「あっ! 遥香達も着いたのね。って……遥香? どうしたの? 吉住くんに嫌な事でもされたの?」


 西川さんも遥香ちゃんの様子に気付いた。

 言葉は分からないけど、表情に元気が見えないんだ。


 だけど……俺が原因なの?

 遥香ちゃんが嫌がる事は言ってないよ?


 でも、考えたら一緒に居た俺のせいとしか思えない。


「遥香ちゃん、俺……何か嫌がる事を言ったかな?」


「えっ! 寛人くんは何も言ってないよ。本当に何もないから大丈夫だから」


 俺が原因じゃなかったので安心した。

 それならどうしたんだろう?

 何かを隠してる感じがする。


「でも、遥香の様子が普段と違うよ? 何かあるなら言って欲しいんだけど」


 先に西川さんに言われてしまった。

 だけど、それは俺も気になる。


「えっと……学校に着いたから……」


「通学中なんだし、学校に着くのは当然でしょ。遥香……本当に大丈夫なの?」


 西川さんの言った事は間違ってない。

 俺達は学校へ向かっていたんだ。


「うん、大丈夫だよ。綾ちゃん、寛人くん達も学校があるから私達も行こうよ。寛人くん……送ってくれてありがとう」


 そう言った遥香ちゃんは西川さんを連れて正門の中に入っていった。


 本当に大丈夫なのかな?

 正門が見える前までは元気だった。


 ──その時に思い出したんだ。



 "一緒の学校になりたかったもん"



 さっき遥香ちゃんが言っていた言葉。


 同じ学校なら通学も毎日一緒にできる。

 隣に住んでる時は毎日一緒に通学してたんだ。


 もしかして、一緒に通学する時間が終わったから元気が無くなったのか?


 そう思うと勝手に体が動いていた。


「遥香ちゃん。また一緒に通学しない?」


 俺の言葉を聞いた遥香ちゃんは足を止めて振り向いてくる。


「本当に? また一緒に行けるの?」


「遥香ちゃんと通学できて楽しかったんだ。今日みたいに早く待ち合わせしたら一緒に行けると思うよ。お互いに学校の都合もあるから毎日は無理だけど……どうかな?」


 これは素直な気持ちだ。

 俺も遥香ちゃんと学校生活を送りたい。

 学校が違うから無理だと分かってる。


 ……だけど、一緒に通学なら。


「うん、私も思ってたの。もっと寛人くんと学校に行きたいなって」


 ギリギリだったけど、遥香ちゃんの気持ちに気付けたのか。


「じゃあ決まりって事で。明日以降の予定だけど……決めるのは夜でも良い? 電話するからその時に決めよう」


「夜で大丈夫だよ、今から学校だもん。電話できる時間が分かったら教えてね」


「分かった。そろそろ俺達も行くよ」


 俺は2人が学校へ入ったのを見送った後、陽一郎の"起動スイッチ"を押した。


「陽一郎、俺達も学校に行くぞ。大丈夫なのか?」


「……」


 陽一郎は無言で首を縦に振っている。

 実は気になってたんだ。



 ──さっき通学の話をしていた時。


 西川さんから「じゃあ私達も毎日一緒に通学しようね!」って声も聞こえたんだけど、陽一郎の返事が聞こえなかった。


 視界に入っていたので少し見たんだ。

 その時も無言で首が縦に動いてるだけだったから。


 ……陽一郎は大丈夫だよな?


 この後もロボットみたいな陽一郎と歩いた。

 色々と話しかけたけど、やっぱり首が縦や横に動いていて何も話さない。



 西城駅前に着いた頃だった。


「あれ? 今、7時30分だよな? 俺達は30分も駅前で何をしてたんだ?」


 陽一郎が変な事を言い出したので驚いた。

 たぶん再起動したのかもしれない。


「さっきまで遥香ちゃんと西川さんも一緒だっただろ? 俺達は東光大学附属から西城高校へ向かってる所だ。ずっと駅前には居なかったぞ」


「えっ?」


 陽一郎が見た事ない顔を向けてくる。

 俺は気にせず話を続けた。

 記憶の再インストールが必要らしい。


「遥香ちゃんと行ける日は一緒に通学するって事になった。でも、本当に陽一郎は大丈夫なのか? 一緒に通学する事を俺達が話している時、陽一郎と西川さんも同じ話をしてたけど……」


「えっ?」


 更に陽一郎は見た事ない顔になってるな。

 やっぱり本気で驚いてるし……

 でも、再起動には成功したみたいだ。


 西川さんと会った日の事を聞いたら「覚えてない」って言ってたのを思い出した。


「陽一郎、やっぱり覚えてないのか?」


「……覚えてない。最近、多いんだ。俺……病院に行った方が良いのかな? そうだ、寛人……俺ってどんな様子だった?」


 西城駅前でスマホのカメラを向けてくる他校の女子生徒が居るけど、今は陽一郎の事が先だ。


 さっき正門前で見た"ロボット陽一郎"の動きや表情をありのまま伝えた。


「それ、本当に俺か? 俺はロボットみたいな動きなんかしないぞ。寛人……俺は真剣に聞いてるんだ。ふざけてないで教えてくれよ……」


 ……だから教えてるだろ。

 ふざけてるのは陽一郎の方だ。


「俺が陽一郎に嘘を言った事があるか? 無いだろ? 俺は見たままを言ったんだ」


「じゃあ……本当なのか?」


「ああ、本当だよ」


 俺の言葉に陽一郎は呆然としている。

 あの状態を見て気になったんだ。


 ……西川さんと、どうしたいんだろう?


 前は「嫌じゃない」って聞いてたから気にしなかった。

 西川さんの強引さに驚いていたけど、陽一郎も「嫌な事は嫌だ」と言う性格だから黙って見ていたんだ。


 でも、陽一郎を見てると思ってしまう。


 好きなの? 嫌いなの? どっちなんだ?


「陽一郎。俺は2人の問題だから口を出さなかったけど、西川さんの事をどう思ってるんだ?」


「ああ、そうだな……」


 陽一郎は考え込んでいて返事が来ない。


 えっ? 即答できないのか?

 もしかして、嫌だと思ってる?


「良い子だとは思ってるよ? 嫌ってもないし……だけどな……」


 やっぱり嫌ってはいないんだ。


「だけど、どうした?」


「グイグイと来られ過ぎてさ……たまに怖いんだ……」


 陽一郎は遠い目をして言っていた。

 当事者だから西川さんの勢いが怖いってのは分かるよ。

 まだ彼女じゃないのに、陽一郎に近付く女の子を撃退する"勇者"だからな。

 そのせいもあって、他の女の子と交流する機会が陽一郎には無いみたいなんだ。


「西川さんは陽一郎の事になると凄いよな。でも、俺も良い子だと思うぞ?」


 本当に良い子だと思ってる。

 嫌な子なら、遥香ちゃんは親友になんかならない。


「だから……西川さんの事を真剣に考えてみたらどうだ? 無理にとは言わないけどさ」


「そうだな。分かったよ……このままじゃ駄目だからな」


 ここからは陽一郎と西川さんの問題だ。

 相談には乗るけど、もう俺からは何も言うつもりはない。




 そう──


 この時は、そう思っていた。


 週末の土曜日に大問題が発生して、俺と遥香ちゃんは陽一郎達の関係にドップリと首を突っ込む事になる。


 だから、この時にハッキリさせておけば良かったと思ったんだ。



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どうしてかな(o´・ω・`o)

ロボットまで出ちゃったよ…

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