第142話 文化祭の役割

「何やってるんだ? 早く席に着けよー」


 担任の鈴木先生が教室に入ってきて俺は周囲から解放された。


「文化祭まで2週間だ。今日中に全員の役割を決めておけよ。後は学級委員と文化祭実行委員に任せるからな」


 去年は東光大学附属の学園祭の翌週に西城高校の文化祭があった。

 今年は大学の都合で学園祭が早まったらしいけど、西城の文化祭は去年と同じ日程だ。


 鈴木先生が教室の端に移動し、学級委員の高橋さんと文化祭実行委員の横田が前に出てくる。

 2人と一緒に現場リーダーの谷村さんも俺達の前に出ていた。


「今から文化祭の役割を決めるけど、希望があれば今の内に言っておいてね」


 高橋さんが司会をして横田が黒板に役割の一覧を書いていた。


 ①ピザ釜の作成&売場の設営

 ②文化祭当日の裏方業務

 ③ピザの売り子


「この3つの役割から選んでもらうわよ。まずは希望を聞くけど、希望者が多かったらジャンケンをして勝った人になるからそのつもりで居てね」


 高橋さんがそう言ってクラス全員が何にしたいか言い合ってザワザワしている。


「陽一郎、俺達は①は無理だから②か③だよな?」


「そうだな。秋季大会中だから練習を休めないからな。特に俺達が休んだらチームが困るし」


「今週末が5回戦で、勝てばその翌週だよな? そうなると文化祭の日と被るんじゃないか?」


 俺も隣の席に座る陽一郎と相談をした。

 試合もしていないのに勝つ前提の話をしているけど大事な事だ。


「うん。準々決勝は土曜日の予定だから、5回戦に勝てば日曜日しか文化祭に参加できないな」


 遥香ちゃんが来れる日を聞いていなかったけど、日曜日は大丈夫なのかな?

 できれば一緒に回って楽しみたいけど……


 そう考えていると谷村さんが俺と陽一郎の名前を呼んだ。


「そうだ。吉住くんと田辺くんは当日の売り子だからね。土曜日は秋季大会だよね? だから日曜日は終日売り子をやってもらう予定だから」


 えっ? 終日売り子をやる?

 という事は遥香ちゃんとは回れないの?


「あと、相澤さんと西川さんも日曜日に来るんだよね? 2人も手伝ってくれるって言ってたわよ」


 谷村さんは何を言ってるんだ?

 遥香ちゃん達が日曜日に来る?

 それに手伝ってくれるって?


 話が全く分からないので陽一郎を見た。

 陽一郎も俺を見ていて首を振っている。


 陽一郎も知らないのか?

 ……一体どういう事なんだろう。


「谷村さん。2人が日曜日に来るの? それに手伝ってくれるってどういう事?」


 そもそも俺達は2人が日曜日に来る事を知らない。

 なのに何故、谷村さんが知ってるの?


「この前、西川さんに聞いたのよ」


 西川さんに聞いた?

 やっぱり意味が分からない。


 俺は改めて陽一郎を見ると、さっきと変わらず首を振っている。


「西川さんに聞いた? 谷村さんって西川さんと友達だったっけ?」


 俺と陽一郎は混乱していた。

 遥香ちゃん達からも谷村さんの話なんて聞いた事ないんだ。


「友達というか、ほらっ! 去年の文化祭の時に西川さんが手伝ってくれたでしょ? その時に連絡先を交換してたのよ。それで、西川さんから連絡があって、相澤さんと2人が手伝ってくれる事になったの」


 本当に遥香ちゃんも手伝う事になったの?

 俺は何も聞いてないんだけど……


「谷村さん、遥香ちゃ……相澤さんも手伝う事になったって本当なの? それに手伝うっていっても学校が違うんだよ?」


「去年も西川さんが手伝ってくれたから大丈夫でしょ。黙ってたらバレないわよ」


 いや……黙ってたらバレないって……

 鈴木先生がソコに座ってるんだけど……


「あの、先生……これって本当に大丈夫なんですか?」


 後で問題になっても困るから聞いてみる事にしたんだ。


「他校の生徒が手伝う事か? 吉住と田辺と一緒に売り子をするんだよな? そうだな……売場体験って事にしたら良いと思うぞ。調理とかなら問題になるけど、それなら大丈夫だ」


 先生……本当に言ってるの?

 まさか、抜け道まで用意されるとは思わなかった……


「谷村、当日のチラシや看板の見える所に『売場体験やってます』とか、分かりやすい言葉を入れておくようにしておけよ」


 それに、間違った事はやってませんって言い切る文章まで……


「鈴木先生、ありがとうございます! チラシや看板にも文字は入れておきますね! これで吉住くんに田辺くんも文句ないわよね?」


 谷村さんは俺達に凄い笑顔で言ってきた。


 先生も許可してるし、本当に2人が手伝うって言ってるのなら仕方がないだろう。


 俺と陽一郎は頷くしかなかった。


「これで、今年も売上1位は私達のクラスが貰ったも同然ね! 吉住くん! 田辺くん! 期待してるわよ!」


 鈴木先生からOKが出て、俺達が頷いたのを見た谷村さんは凄くヤル気になっている。


「確かに、今年も1位が取れそうだよな!」


「2年連続1位かー! 楽しみだな!」


 何故か他のクラスの全員が谷村さんと同じ考えみたいだ。

 俺には皆の考えがサッパリ分からない。

 陽一郎も分からないって顔になっているから、俺達の理解力が足らないって事じゃないと思う。


「谷村さん、なんで皆が1位を取れると思ってるのか分からないんだけど……陽一郎も分からないよな?」


「うん。俺も寛人と同意見だよ。皆の盛り上がりが分からない」


 すると谷村さんだけではなく、クラス全員から"なんで分からないの?"って顔を向けられたんだ。


 ……鈴木先生まで同じ顔をしてるし。


 やっぱり俺と陽一郎が変なんだろうか?


「吉住くんと田辺くん以外は分かってるみたいね。あなた達2人は自覚が無さすぎなのよ。2人は甲子園で"大会No.1バッテリー"って騒がれたのよ? その2人が売り子をやると一般のお客さんが集まってくるに決まってるじゃない」


 谷村さんの言葉に全員が頷いている。


 俺は谷村さんの言葉で先日の4回戦を思い出してしまった。

 美咲さんの記事もあったけど、俺が先発するって書かれただけで球場が満員になったんだ。


「それに西川さんと相澤さんも一緒なんだよ? 特に吉住くんと相澤さんは"殿堂入りカップル"なんだから。その2人が接客すると……どうなるか分かるでしょ?」


 うん、これは俺でも分かったよ。

 今朝も駅前で大変だったんだから。

 遥香ちゃんも西川さんに守られて学校に行ったんだし。


 ……まさか文化祭でも殿堂入りの恐ろしさを実感する事になるとは思わなかったな。


 こうして俺と陽一郎は、文化祭での役割が強制的に決まってしまったんだ。



────────────────────

色々とあって2ヶ月書けなかったよ(*T^T)

体調面に不安が残ってるので、週に1~2話ずつ投稿するね。

2ヶ月空いちゃったから読んでくれる人が居るか分からないんだけどね…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る