第143話 本当のリーダーは…

「これで全員の役割が決まったわね。取り決めや、当日の予定を今からするから其々の班に別れてちょうだい」


「はーい! 設営班は横田くんの所で、当日の裏方さん達は高橋さんの所。売り子の人達は私の所まで来てー!」


 高橋さんに続いて谷村さんがクラスの班を振り分けていた。

 そういえば横田は何も喋ってなかったな。

 何か言いたそうな顔をしてたけど、ひたすら無言で書記係をしていたし……


 ヤル気になって実行委員に立候補したのに、実行委員じゃない谷村さんに場を仕切られてるもんな。


 ……少し可哀想だと思ってしまう。


「横田! 俺と陽一郎は売り子だけど、もし設営とかで人手が足りない時は言ってくれよ。部活があるからフルには無理だけど、少しは手伝えると思うから」


「吉住くん、ありがとう! 何かあったら2人にも頼らせてもらうよ!」


「分かった。陽一郎、それ位なら俺達も大丈夫だろ?」


 勝手に手伝うって言ってしまったけど、少しなら時間が取れるよな?


「大丈夫だぞ。毎日は無理だけど、少しならなんとかなる」


 陽一郎の言葉を聞いた横田は、嬉しそうな様子で設営班に合流していた。


「寛人、俺達も谷村さんの所に行こうか」


「そうだな。谷村さんが"早く来い"って顔で俺達を見てるからな」


 俺達2人は谷村さんの所へ急いだ。

 たどり着いて見回すと安藤と真田も居て、

どうやら売り子は去年と同じで運動部に所属している人が担当らしい。


「吉住くん、田辺くん。2人共遅いわよ! でも、これで全員揃ったわね。文化祭は土曜日と日曜日の2日間で、土曜日は安藤くんと真田くん。日曜日が吉住くんと田辺くんが担当だからヨロシクね」


 そう言った谷村さんは一着の服を紙袋から出して俺達の前に置いた。


「それで、当日はこの服を着て接客をしてもらうからね」


 置かれた服は白色のシャツに黒色ズボンとベスト、腰から下に着ける黒色の短いエプロンだった。


「これって……ウェイターの服?」


「そうよ。もしかして嫌だった? 嫌なら去年の格好でも良いけど?」


 ……去年の格好?


 俺は接客には参加してなかったからな。

 ……どんな格好だったっけ?


 あっ! 思い出した!

 陽一郎達がネコ耳やイヌ耳を頭に付けていたんだ……


 そのままの格好で陽一郎は西川さんに連れて行かれたんだよな。


 ……あれは絶対に嫌だ。


 陽一郎達を見ると無言のまま、全力で首を振っていた。


「谷村さん、あの格好は嫌だ。この服装が良い」


 でも、この服装って何処かで見覚えがあるんだよな……


「陽一郎。この服装って見覚えが無いか? 何処かで見た気がするんだけど……」


「俺は覚えてない。ウェイターの服だから飲食店で似たような服を見たんじゃないか?」


 陽一郎は知らないのか……

 俺の見間違いだったのかな?

 でも、襟が立ったデザインにネクタイの色は見た記憶があるんだけどな……


「この服装は西川さんの友達に借りたのよ。山田さんって人だけど、両親が駅前でレストランをやってるみたい」


 あっ! 山田さんの両親のレストランだ!

 去年のクリスマスパーティーで店に行って、その時に見たんだ。


 ……うん?

 山田さんまで文化祭に巻き込んだのか?


「山田さんも手伝うの?」


「ううん。山田さんには服装を借りただけよ。西川さんから『文化祭で何をやるか決まったら教えて』って言われてたから『石窯ピザに決まったよ』って教えたの。その時に服装の提案があったのよ」


 じゃあ、服装は西川さんが誘導したの?

 西川さんの事だから、去年と同じく運動部が売り子を担当するって内容も聞き出してるんだろう。


 ……という事は。

 もしかして陽一郎にウェイターの格好をさせたいから提案したんじゃないの?


 俺は陽一郎に視線を向けてみた。


「寛人、どうした?」


「いや……何でもない。この服装は陽一郎に似合いそうだと思っただけだよ」


 陽一郎は気付かないみたいだ。

 俺も知らないふりをしておこう。


「売り子の男子は全員が運動部で体が引き締まってるし、この服装は似合うと思うわよ。吉住くんなんて背も高いから特に似合いそうだよね。因みに西川さんと相澤さんもウェイトレスの服装になるから」


 えっ? 遥香ちゃんも?


 谷村さんは当然の様に言ってきたんだ。


 去年の学園祭でウェイトレスの格好をしていて可愛かったのは覚えてる。


「2人もウェイトレスの格好をするの? ピザは出店だよね? 周囲から浮かない?」


 出店にウェイターやウェイトレスの格好ってやり過ぎな気がするんだ。


「大丈夫だと思うよ。出店の前に何席か飲食スペースも作るから。だから野外だけど小さな飲食店って雰囲気になるよ。これも西川さんからの提案なの」


 これって西城高校の文化祭だったよな?

 谷村さんが現場のリーダーなんだし……


 ……だけど、なんだろう。


 西川さんに全てを掌握されてる気がするのは俺だけなのか?


 やっぱり陽一郎は何も気付いてないみたいだし……


 うん。考えるのは止めた方が良い。

 西川さんには逆らってはいけないんだ。


「売り子の4人は今から服のサイズを合わせるからね」


 谷村さんの一言で完全に考えるのを止める事ができた。

 遥香ちゃんと一緒に学校行事ができるんだし、楽しむ事にしよう。





 放課後、部活が終わり俺は帰宅した。

 今週末は秋季大会の5回戦があるので、ミーティングで普段より帰りが遅かったんだ。


「寛人、今日は遅かったのね? もう私達はご飯食べちゃったわよ。寛人の分は今から用意するから座って待ってて」


 そう言った母さんは台所へと向かい、俺は食卓の自分の席に座った。

 目の前では透さんが食後のコーヒーを飲んでいて、母さんの姿を見送っている。


 そして、母さんが台所に行ったのを確認すると俺に小声で話しかけてきた。


「ねえねえ、寛人くん。相澤さんが来る日なんだけど、食事って何が良いかな? 真理さんが作るって言ってるんだけど、相澤さんのお母さんも来るのは内緒にしてるでしょ? このままだと3人分しか作らないと思うんだ」


 透さんの言う事は間違ってない。

 "4人分作って"と言えないからな。


 何か良い食べ物はないかな?

 そうだ! 1つあった!


「透さん、すき焼きにしよう。これなら材料が多くても怪しまれないし、俺達には思い出もあるんだ」


「すき焼きに思い出があるの?」


「うん。ピアノやバイオリンの発表会があった日は毎回食べてたんだ。俺も遥香ちゃんも発表会の後を楽しみだったから覚えてるよ。母さん達も覚えてると思う」


「それは良いね、すき焼きにしよう。真理さんには僕から言っておくよ。相澤さんには寛人くんから伝えててね」


 そう言った透さんはイタズラっ子みたいな笑顔になっていた。


「分かった。遥香ちゃんには後で伝えておくよ。遥香ちゃん達も楽しみだと思うよ」


 夕食の後、自分の部屋に戻るとスマホを取り出し遥香ちゃんに電話をかけた。



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書くと更新する癖がついちゃってるみたい…


文化祭の裏のリーダーには逆らえないね。

私も書きながら誘導されたんだよ(*´・ω・)

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