第115話 遥香の気持ち②

「私も吉住くんが大好きだよ!」



 やっと私も伝える事ができた。

 吉住くんと両想いになれたんだ。


 そう思っている時だった……


「あの……遥香?」


「えっ?」


 私は何をしたのか気付いてしまったんだ。

 周囲を見渡したら飛行機に乗る人達も足を止めて私と吉住くんを見ていたから。


 どうしよう……

 恥ずかしいよ……


「早く行かないと乗り遅れちゃうよ!」


 私は視線から逃げる様に飛行機に乗り込んだ。


 助かった……


 座席に座って冷静になってから思い出したんだ。


 吉住くんに「大好きだよ」って言ってそのまま来ちゃったよ……

 もう少し話したかったのに、何も言わず離れちゃったんだ……



 考えてる間に飛行機は離陸した。


 どんどん地面から離れていく。

 吉住くんの居る場所から離れていっちゃうよ……


 また私は涙が出てきた。


 両想いだと分かった喜びと、大好きな人と会えなくなった悲しみ、色んな感情が出てくるんだ。


 でも、嬉しさの方が強かった。


 帰ってからも一緒に居れるんだね。


 ずっと一緒に居て欲しいな。


 吉住くん、大好きだよ。



「遥香、落ち着いた? 泣き止んだみたいね」


「遥香、大丈夫?」


 私が泣き止んでから一緒に留学に行く2人が話しかけてきた。


「うん。大丈夫だよ。ごめんね」


 いきなり「好きだよ」って叫んで、飛行機では泣いてるし、2人を困らせたと思う。


「ううん、私達は大丈夫だよ。それよりも、遥香は吉住くんと付き合ってなかったの? あっ! さっきの事があったし両想いなんだよね?」


「うん。付き合ってなかったよ」


 私は学園祭の事や、吉住くんの事、綾ちゃんが私に彼氏が居ると思わせた理由。その全てを話した。


「そんな事があったんだ」


「ふーん。でも、本当に付き合ってる様に見えたよ。その時から遥香も吉住くんは苦手じゃなかったんでしょ?」


「うん。吉住くんだけは一緒に居たいって思ってたよ」


 私は自分の気持ちも教えたんだ。

 だって、今更だよね。

 2人には吉住くんとのやり取りを聞かれてるんだし……


 そう思ったら恥ずかしいな。


「私達から見たら、吉住くんも遥香しか見てないって感じだったよ」


「そうなの?」


 吉住くんが私しか見てない?

 誰にでも優しいから一緒だと思う。


「遥香は知らないの? 吉住くんってモテるんだよ? 東光の子も何人か告白したけど全員振られてるって聞いてるし」


「そうそう! 相澤さんと居る時の表情なんて明らかに『好き』って見え見えだもんね! 他の子との対応が違うもん」


 そうなんだ、知らなかったよ。

 吉住くんが私と2人で居る時の表情ってそんなに違ったんだ。

 知らなかったけど嬉しいと思ってしまう。


「でも良いなー! 私もあんな告白されたいなー!」


「凄かったよね! 空港のゲートだよ? 人が居る所で2人が『好き』って叫んでたもんね! 美男美女だし『テレビのドラマか!』って言いたかったよ!」


 また思い出してきた……

 やっぱり恥ずかしいよ……


「私も思った!『好きだ! 俺は相澤さんが好きなんだ! 帰りを待ってる!』『私も吉住くんが大好きだよ!』だからねー」


「あー! 私も言われたーい!」


「も、もう良いよ。真似しないで……恥ずかしいよ……」


 この後も2人には飽きるまで遊ばれた。

 だけど、何回も言われると改めて気持ちを伝える事ができたと実感したんだ。



 飛行機に乗っていた時間は12時間だった。


 本当に長かった。

 長かったけど着いたんだ。


 オーストリアのウィーンに到着した。


 明日から2ヶ月は音楽浸けの毎日になる。

 吉住くんと離れるのは辛いけど、両想いだと分かったんだ。

 2ヶ月くらい頑張れるよ。


 そして帰ったら吉住くんに……何度も、何度も「好き」って伝えるんだ。



 宿舎に着いたらスマホが使えるみたいだった。

 設定はしていたけど、宿舎でしか使う時間はないみたい。


 スマホの電源を入れると吉住くんからメッセージが入っていた。


『手紙を読んだよ。相澤さんの気持ちが知れて嬉しかった』


 気持ちが知れて嬉しい?

 私は少し疑問に思ったからメッセージを送ったんだ。


「吉住くんが言ってくれた後、私が言った事って聞こえてた?」


『実は「吉住くん私も──」しか聞こえなかったんだ』


 私の頑張った告白なのに、吉住くんには伝わってなかったんだね……


 泣きながらだったから聞き取りにくかったと思うけど、一番聞いて欲しかった吉住くんには伝わらず、他の2人に聞かれてた事に少し落ち込んだ。


 その後のメッセージでは『好き』や『付き合う』って内容は入れなかった。


 手紙で伝わってるけど私の言葉は聞こえてなかったから、次に会った時に「大好きだよ」って言いたいもん。


 だから今は言わない事にするね。


 吉住くんも一緒の気持ちだと良いな。



 次の日から朝から夜までバイオリンの練習が始まった。


 大変だけど、本当に楽しい。

 他の2人は楽器が違うので宿舎以外では食事の時しか会えないけど、2人も楽しいみたい。


 だって「しんどい」って言ってるけど楽しそうだもん。


 吉住くんとのメッセージは1日1通ずつのやり取りになっている。

 それでも、毎日の報告を2人でしているから幸せだと感じてるんだ。



 それから吉住くんが甲子園に出発した。


 綾ちゃんが田辺くんのお母さんと一緒だって聞いたのは驚いたんだ。

 

 綾ちゃんからは何も聞いていなかったから……

 それに「吉住くんと両想いになれたよ」って報告しても「おめでとう。やっとだね」って返ってきた。

 私が「やっと」ってどういう事? って聞いたら「両想いって知ってたから。2人は分かりやすいし」と返ってきたんだ。


 そんなに私達って分かりやすいかな?



 甲子園の初戦は吉住くん達が勝った。

 2回戦も勝って3回戦に進んだ。


 ネットで調べたら凄かった。

 吉住くんは『大会No.1投手』らしい。


 他にも『西城高校、吉住! 2試合登板で14回を投げて無失点! 19奪三振!』『150㎞台を連発!』『圧巻の投球!』『プロ注目の逸材』とか色々と書かれている。


 やっぱりプロに行くのかな?

 私の好きな人って凄いな。


 記事には『吉住特集』まで組まれていて、私は吉住くんの投げている写真を眺めていた。


 その時に思ったんだ。



 甲子園で見た真剣な目だ……


 やっぱり見覚えがある……



 私は写真を見ていて、何かを思い出そうと必死だった。


 私が吉住くんと出会ったのは高校1年の夏休みだよね。


 でも、遠い昔に何回も見た覚えがある。



 どこで見たんだろう……?



 その時に思い出したんだ。



 どうして気が付かなかったのかな。



 ううん、違うと思い込んでた。

 


 この目って……




 ──ひろとくんの目だ。




────────────────────

明日は更新できないかもしれません。

忙しくてごめんね(*T^T)


ちなみに最後の一言を書くために甲子園の描写を書いてました(* ´ ▽ ` *)

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