第110話 出発後の夜
好かれてるかも、という思いはあった。
でも、勘違いかもしれないと考えた事もある。
少なくとも相澤さんにとって、一番近い男友達だとは思っていたんだ。
ずっと「好きだ」と伝えたかった。
でも、怖くて今まで言えなかった。
でも、我慢できなくなったんだ。
「相澤さんが好きだ」という気持ちを抑える事ができなくなった。
だから「好きだ」と伝えた事に後悔はしていない。
俺は何度も、何度も、手紙の最後の言葉を読んだ。
やっぱり間違っていない。
『吉住くん、大好きだよ』と書かれている。
相澤さんの「帰っても会ってくれる?」の意味が分かったよ……
俺と同じ気持ちだったんだ……
俺達は両想いだったんだ……
これから何度も会えるよ……
「おい、寛人。大丈夫か?」
陽一郎が、手紙を見て固まっていた俺に声をかけてきた。
「陽一郎か……俺は大丈夫だ……」
「どうしたんだ? 大丈夫そうに見えないぞ? 変な事でも書いてあったのか?」
「実は、俺と相澤さん……両想いだったんだ……」
「ああ、そうだな」
俺はやっと想いを告げたんだ。
そして、相澤さんの手紙で俺と同じ気持ちだと分かった。
それなのに陽一郎の素っ気ない反応はなんなんだ……
「そうだなって酷いな。やっと、俺は気持ちを伝える事ができたんだ。俺と相澤さんが、両想いだと分かったんだぞ?」
「うん、そうだな。知ってたからな」
陽一郎が知ってる訳がないだろ。
何を言ってるんだ……
「俺の気持ちは知ってて当然だよ。陽一郎に教えてたんだから」
「相澤さんが寛人を好きなんだろ? 2人を見てたら誰だって分かるぞ? それに、西川さんからも聞いてたからな」
陽一郎は全部知ってたのか?
それに、西川さんは何を言ったんだ?
「俺って、そんなに分かりやすいか?」
「聞いてたのもあるけど、相澤さんの事に関しては分かる。だって、相澤さんだけだろ? 寛人が2人で遊んだりする女の子って。中学の時から誘いを全部断ってただろ? その寛人が相澤さんと2人で何回も会ってるんだぞ? 聞いてなかったとしても気付いたな」
「まあ、相澤さんだけだったのは確かだな」
「とりあえず寛人に彼女ができたんだ。良かったよ、両想いになれて」
両想いになって一緒に居れると喜んでた。
彼女? そうだ、相澤さんに付き合って欲しいって言ってなかったな……
「陽一郎、両想いだって分かったけど、付き合って欲しいとは言ってなかったよ。どうしよう……」
「連絡すれば良いじゃないか」
「海外だぞ? メッセージは繋がるのか?」
「俺も知らん。送ってみろよ」
俺はメッセージを送信した。
何を送れば良いのか分からなかったから「手紙を読んだよ」と送信したんだ。
海外でも届けば良いな……
すると、琢磨が部室に入ってきた。
凄く不機嫌そうたけど、何かあったのか?
「琢磨、どうしたんだ?」
「どーしたと違うわ! これや!」
琢磨は今日の新聞を何紙も持っていた。
そこに、決勝戦の写真が掲載されているのが見える。
「『坂本くん、ビッグプレー!』って何処にも載ってへんねん!」
琢磨が新聞を全て広げて見せてきた。
なんて書いてあるんだ?
『西城高校、甲子園初出場!』
『主将、田辺の決勝ホームラン!』
『吉住、最速152㎞! 圧巻の投球!』
「陽一郎、見ろよ。ホームランを打った時の写真が格好良く写ってるぞ」
「寛人の投げてる写真も良く撮れてるな」
新聞に掲載されている写真は、どれも良く撮れていた。
母さんも新聞を買うと言ってたし、相澤さんが帰国したら見せてあげたいな。
「違うやろ! 俺の写真がないんや!」
「あるだろ。ここに写ってるのって琢磨だろ?」
試合が終わり、マウンドに集まっている写真だ。
その中に、背番号「8」が写っている。
「これは全員が写ってる写真やないか! 背番号『8』は見えてるけど、米粒みたいな大きさやんけ!」
米粒よりは大きいだろ?
琢磨が活躍したのは本当だから気の毒には思っている。
でも、そんなに新聞に載りたいか?
あまり良い事もないぞ……
中学の時を思い出してしまった。
「甲子園があるだろ? 甲子園で活躍したら全国紙に載るぞ」
「そうやな!」
琢磨は予選でも甲子園でも変わらないな。
良い意味で目立つのが好きだから、甲子園でも活躍してくれるだろう。
琢磨が納得した時に、陽一郎が会話に入ってきた。
「寛人、全国紙で思い出した。甲子園の特集を組むみたいで、今日の夕方に俺と寛人で取材を受けるからな」
陽一郎、このタイミングで言うなよ……
ほら、琢磨が怒ってるだろ……
「陽一郎、俺は? 俺の取材はないんか?」
「琢磨を呼んでくれとは言われてないな。あっ! 集合時間だからグラウンドに行くぞ」
「分かったわ! 先に行ってるからなー!」
琢磨は新聞を持って走っていった。
グラウンドに新聞は不要だぞ……
この日は出発日が決まった事と、甲子園までの予定が伝えられた。
今日は練習に参加しないので、取材がメインになる。
陽一郎が言っていた取材の他にも何社か来ていたので全て受けた。
そして、その日の夜、相澤さんからメッセージが入った。
『留学先に着いたよ。飛行機で12時間だから疲れたよ。それと、出発前に聞いた言葉は嬉しかった。私の手紙も読んでくれたんだね。でも、日本に帰ったら今度は私の言葉で伝えたいな』
飛行機で12時間なのか、遠いな……
今日会ったけど、メッセージを見ると会いたくなる。
「俺もだよ。本当は昨日伝えたかったんだ。それに、目の前で伝えたかったのに、あんな形になってしまったよ。だから、俺も相澤さんが帰国した時に、もう一度伝えるよ」
『あの時はビックリしたけど嬉しかったよ。これで留学先でも頑張れるよ。吉住くんも甲子園で頑張ってね』
「ああ。甲子園で活躍してくるよ。相澤さんも頑張ってね」
海外だからか、メッセージのやり取りは遅かったけど、この後も色々と送ったんだ。
俺と相澤さんのメッセージには「好き」の文字は入っていなかった。
お互い、次に会った時に「好きだ」と言いたいと思っていたから……
陽一郎と話した時に「付き合って欲しい」と言っていないと焦っていたけど、そんなのは不要だった。
両想いと分かった後も、俺達は同じ想いだと分かったからだ。
そして、甲子園に出発する前日になった。
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明日の更新は夕方~夜になると思います。
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