第99話 予選の初登板
side:寛人
「4回戦は琢磨が先発だ。寛人は5回から9回までの5イニングを投げてもらうよ」
「琢磨は4イニング投げるのか?」
「先輩達にも準備は頼んでるよ。でも、コールドできそうなら寛人の出番も早くなると思う」
「分かった。展開を見て準備するよ」
明日は予選の4回戦だ。
この大会、俺は「5イニングしか投げるな」と透さんからも言われている。
正確には80球以内なんだけど、三振に固執しなければ5イニングは可能だろうという結論になった。
その俺が投げるのは、対戦相手によって先発かリリーフか変わってくる。
そして4回戦が始まった。
応援席を見ると、ベンチから近い席に相澤さん達の姿が見えた。
3人でスタンドに座ってるな、今日は山田さんも来てくれたみたいだ。
試合は2回まで琢磨はヒットを打たれるが無失点に抑えていた。
抑えているけど、無失点は運が良かったっていう投球内容だ。
今日の琢磨は変に力が入ってるな。
調子は悪そうに見えないんだけど……
スタンドを気にしてるのか、集中してない感じだし……
「琢磨。集中しろ! 練習通りに投げろ!」
琢磨はベンチに戻ってくる間に陽一郎から怒られていた。
「抑えてるんやから気にすんなや!」
「琢磨、大会だと分かってるのか?」
「分かってるに決まってるやんけ」
「分かってるなら良い」
琢磨は陽一郎から逃げていった。
陽一郎は俺の横に座って、2回裏なのに疲れた表情をしている。
「琢磨はどうしたんだ?」
「分からん。寛人は準備を頼む、酷かったら次の回は途中でも琢磨は降板させる」
「その方が良い。今から準備するよ」
俺はブルペンに向かい、投球練習を開始した。
「坂本はどうしたんだ?」
「いつも以上に落ち着きがないぞ?」
ブルペンに居た早川さんと木村さんも琢磨の様子が気になっていたみたいだ。
「俺にも分かりません」
「坂本はベンチの方を気にしてたぞ?」
「陽一郎達も分かってます。琢磨は長くても次で交代させます」
その後も投球練習を続けていた。
2回裏の西城の攻撃は、打線が繋がり3点が入ったんだ。
そして3回の守備になった時、琢磨が集中していない原因が分かった。
「山田さーん! 見ててやー!」
マウンドに向かう琢磨が西城スタンドに向かって手を振っていた。
山田さんは琢磨を完全に無視している。
試合に集中しないで何をやってんだ……
陽一郎も琢磨の不調の原因を知り、俺に「来い」と手を振っている。
監督も出てきて、琢磨の交代を告げていた。
「早川さん、木村さん。俺は7回までしか投げれません。コールドにならなければ出番がありますので、準備をお願いします」
そして俺はマウンドへ向かうと琢磨の怒った表情が見える。
「何で降板やねん!」
「試合に集中してないからだろ?」
「2人は気にならんのか? 山田さん達3人、めっちゃ可愛くなってるやんけ」
「だから良い所を見せたいのか?」
「当たり前や!」
「琢磨は守備の方がカッコイイ所をみせれるんじゃないか?」
「寛人は天才やな! そうやな! マウンドは寛人に任せるわー」
琢磨はセンターに走って行った。
本当に予選だと分かってるのか?
負けたら終わるんだぞ?
「悪いな。3回から投げさせて」
「予選の初登板を楽しみにしてたから大丈夫だ。抑えるからコールド勝ちを頼むよ」
「ハハハ。寛人の投球次第だな」
琢磨のおかげ? か分からないが、変な緊張もしないでマウンドに上がれたな。
正直、緊張していないと言ったら嘘になる。
あの怪我から長かったからな……
夏のマウンドに立てるのを待っていたんだ。
投球練習が終わり試合が再開された。
俺はこの夏の初球、全力でストレートを投げ込んだ。
ボールは陽一郎のミットに収まり、スタンド全体から驚きの声や歓声が上がった。
恐らく球速表示を見たからだと思う。
陽一郎から返球を受け、スコアボードに目を向けると『149㎞』と表示されている。
夏の初球は全力のストレート。
このボールは予選の前から陽一郎に頼んでいたんだ。
149㎞か……
この前の練習で出た球速と同じだな。
球速だけでは打ち取れないのは分かってる。
偵察に来てる高校に、怪我の不安は無いと思わせたかったんだ。
そして、何よりも俺がマウンドに帰ってきた実感が欲しかったから。
陽一郎も「満足したか?」と言いたそうな表情をしているので、俺は頷いて応えた。
この後からは打たせて取っていく。
球数を抑えたいからな。
2球目は同じコースに球速を落としたストレートを投げて内野ゴロ。
2人目、3人目も内野ゴロに抑えた。
「相手が早打ちしてくれて助かったよ」
「あの球速を見て、追い込まれる前に打てってなったんだろう」
俺は陽一郎とベンチへ戻って話していた。
「次の回も打たせて良いんだよな?」
「次の回は3番からか……寛人、次の回だけは力でねじ伏せてくれ。相手の戦意を無くしたいんだ」
「分かったよ。その代わり、打ってくれよ。最低でも4点取って欲しい」
4点取って俺が無失点で抑えたら7回コールドだからな。
その方が偵察に来てる高校も、俺の状態を疑いにくいだろう。
そして4回のマウンド、3人目のバッターが左のバッターボックスに入った。
初球は内角低め、膝元へのスライダーを投げて空振り。
2球目は外角へカーブを投げて、見逃しで2ストライク。
遊び球は使いたくないな。
サインを出した陽一郎も俺と同じ考えだった。
3球目を内角高目の厳しいコースにストレートを投げ込む。
バッターは手が出なかったみたいで、見逃し三振になる。
この回は陽一郎の要望通り、三者三振に取ったんだ。
「寛人! 守備で良い所を見せろって言ってたけど、ボールが飛んで来ないやんけ!」
三者三振に取って文句を言われたのは初めての経験だな。
「そうか? それなら相手に言ってくれ『頑張って打ってくれ』って」
「そうか! じゃあ言ってくるわ……って! 違うわー!」
本気で言ってる感じだったけど、冗談だったのか?
「それなら打って走れば良いんじゃないか? 4点は欲しいな」
「そうやな! 任せとけ! おっ? 次は
俺の打順やな、行ってくるわー!」
その後の琢磨は2打数2安打1盗塁で、残りの4点全てに絡んでいた。
「琢磨はなんだったんだろうな?」
「琢磨の行動は誰にも分からないよ。それにしても大活躍だったな『山田さんに良い所を見せるんやー!』って言って本当に4点に絡んでいたし」
「おかげで楽になった。試合は寛人が7回を抑えてくれたら完璧だな。最後は頼んだぞ」
そして、7回のマウンドに立ち最後のバッターを三振に取って試合が終わった。
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閑話を入れて100話目だったのに…
私は真面目に試合を書くつもりが、ふざけた試合になっちゃったよ…
寛人くんは明日の地元紙の1面になります。
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