第98話 メイク教室
side:遥香
『遥香! キャンセルが出たよ! それで予約ができたから一緒に来て!』
「綾ちゃん、どうしたの? 何の事か分からないよ」
吉住くんに修学旅行のお土産を渡した日の夜、綾ちゃんから電話がかかってきた。
だけど、綾ちゃんは興奮してるのか、何を言ってるのか分からないよ。
『ごめん、そうだよね。前に話していた美容院だよ。そこの予約が取れたんだよ!』
「それって、綾ちゃんが雑誌で見せてくれた美容院?」
『そうそう。テレビでも出てる人気の店だよ。ダメ元でキャンセル待ちしてたら本当にキャンセルが出て、行ける事になったんだよ。 だから遥香も行かない? カットは私しか空いてないけど、メイク教室は少しなら人を連れてきても良いって言われたんだ』
綾ちゃんが言っていた美容院は西城駅の近くにあるんだ。
私は知らなかったけど、テレビでも紹介されている人気店らしい。
予約が取れなくて行きたくても行けないお店って聞いていた。
「どうしようかな……」
『何を悩んでるのよ? メイクして吉住くんに可愛いって思われたくないの?』
思うに決まってるよ。
可愛いって思って欲しいもん。
「行くよ、絶対に行く」
『じゃあ決まりね。優衣も一緒に行くから』
それで私は綾ちゃんに言われた時間に美容院へ向かった。
えっと、綾ちゃんに言われた美容院はここだよね?
美容院の看板にも「Eden」って書いてるし、綾ちゃんは「エデンって美容院だから」って言ってたからね。
美容院に入ったら綾ちゃんが既に私達を待っていたんだ。
でも、その待っている綾ちゃんが……
「綾ちゃん、凄く可愛い……」
カットされた髪が可愛くて、凄く似合っていた。
「ありがとう。田辺くんに可愛く見られたいからね! これで応援に行けば田辺くんも私にイチコロでしょ?」
「ふふふ、そうだねー」
優衣ちゃんも美容院に来て、私達は他の場所へ案内された。
メイク教室は美容院の施設内にあるけど、入口は別の場所だったみたい。
教室といっても広くはなくて、私達3人を含めても生徒は8人だった。
「うわぁ……アキさん……綺麗だよねー」
「うん。本当に羨ましいよねー」
綾ちゃんと優衣ちゃんは壁にある美容院の紹介欄を見ながら話していた。
そこには雑誌やテレビで出ていた箇所も一緒に貼られていたんだ。
「アキさん?」
「遥香、知らないの?」
「うん、知らない。この美容院も初めて知ったんだよ? 綾ちゃんに教えて貰うまで知らなかったもん」
「アキさんって、この記事にも出てる美容院の専属モデルさんの事だよ」
綾ちゃんに聞いたら、美容院のメイクやカットのモデルをやったり、お店のHPから見れるメイク動画にも出てるみたい。
壁に貼られたアキさんを見ると、同じ女性から見ても凄く綺麗だと思う人だった。
しばらくして、先生が来てメイク教室が始まった。
「えっ? これが私?」
綾ちゃんがビックリした声を出している。
「そうですよ。可愛くなりましたね。覚えたら簡単だったでしょ?」
「はい! 遥香、私はこれで西城の応援に行くよ」
「あなた達は西城高校の生徒さんなの?」
メイクの先生が私達を西城の生徒だと思ったみたい。
「いえ、私達は東光大学附属です」
「そうなの? それなのに西城高校の応援なんだ」
私と綾ちゃんは好きな人が西城高校に居て、野球部の応援に行く事を話した。
「そうなんだ。じゃあ可愛くならないとね。でも東光なんだ……アキちゃんの後輩だね」
「アキさんって東光なんですか?」
「それ初耳です!」
綾ちゃんと優衣ちゃんは凄く興奮していた。そんなにアキさんって人気だったんだね。
「そうよ。あなた達は何年生?」
「2年生です」
「それならアキちゃんと入れ違いで入学したんだね」
メイクの先生が言うにはアキさんは私達の3学年上だった。
それを聞いた綾ちゃんと優衣ちゃんは凄くガッカリしていたんだ。
「私達と入れ違いで卒業? アキさん……あーっ! それって、もしかして!」
優衣ちゃんが急に大声をあげた。
「優衣、どうしたの?」
「伝説のミスコンだよ! 聞いた事ない? 私達の入学する前にあった学園祭のミスコン。そこに名前も学年も分からない人が直前にエントリーして、断トツで優勝した人だよ」
「それ、聞いた事ある。他校の生徒だったんじゃないかって言われてたよね? 今も誰か分かってないって聞いたし」
綾ちゃんも知ってたみたい。
知らないのって私だけなのかな?
「それ、アキちゃんだね。間違いなく東光の生徒だよ。だって、そのミスコンのメイクをしたのは私だもん」
メイクの先生が誰も知らない事を話し出した。
「えっ?」
「そうなんですか?」
2人は更に驚いていた。
アキさんか……そんなにミスコンで有名な人だったんだね。
「あの子は学校では大人しくしてたから、知ってる人は少なかったと思うよ。あの子を知ってる人も誰にも言わなかったみたいだし」
「そっかー。会ってみたかったなー」
「うん。私もー」
「それよりも、あなた達も可愛くなったんだから、好きな人に可愛いと思われる様に頑張ってね」
そして私達は西城高校の応援に行ったんだ。
優衣ちゃんは家の手伝いで来れないって言ってたから、綾ちゃんと2人で来ている。
「田辺くーん! カッコイイー!」
綾ちゃんは2試合全てで叫んでた。
メイクして可愛くなったのに叫んでたら台無しだよ……
でも、吉住くん投げないな……
練習はしてるけど投げないんだ。
やっぱり何か隠してると思う。
試合後に聞いても「チームの方針なんだ」と言ってた。
だけど、私が言える事じゃないから……
無理しないでね……
これしか言えないよ……
その後にメイクした事を気付いてくれたんだ。
だけど、ほっぺたを突っつかれたのは恥ずかしかったよ。
吉住くんも私と同じだったみたいで、学校の人から付き合ってると勘違いされてたみたい。
勘違いじゃなくて、本当の彼氏と彼女になりたいな……
予選が終わったら気持ちを伝えるんだ。
私は改めて決意した。
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アキちゃんは今作品には登場しません。
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