第62話 クリスマス花火①

 相澤さんも俺に気付いたみたいで、こっちに走って来た。


「はぁ……はぁ……吉住くん、待たせちゃったね」


「走らなくても良かったのに、大丈夫?」


「大丈夫だよ、それじゃ行こうよ。あっ……花火に付き合わせちゃってゴメンネ」


「何も予定が入ってなかったから大丈夫だよ。クリスマス花火なんて俺も初めてだし、楽しみなんだよ」


 本当に楽しみなんだ。クリスマスを相澤さんと一緒に過ごせるとは思ってもいなかったから……


 遊園地に向かう電車に相澤さんと乗っていると、電車内の広告にもクリスマス花火の事が書いてあった。


「花火って、これの事だよね? お客さん多そうだね」


「そうみたいだよ。この広告を見て、行ってみたいなって思ってたんだよ」


「それで西川さん達を誘ったけどダメだったんだな……」


「そっ! そうなんだよ! 綾ちゃん、さっきも居なくなっちゃったし、田辺くんを誘うつもりだったんじゃないかな? 優衣ちゃんも夜はお店の手伝いって言ってたよ!」


 西川さんが陽一郎と居なくなったから、琢磨達の誘いを断りやすかったんだ。

 

 全員で遊ぶ事になったら抜け出せなかったと思う……西川さんと陽一郎には感謝しないとな。


「そっか。西川さん達と行けないのは残念だったけど、今日は一緒に楽しもうね」


「うん! ずっと楽しみにしてたんだよ」


 ニコニコしている相澤さんは、やっぱり可愛い。電車内でも相澤さんを見ている男達が多いのも分かる気がする。今、目の前で笑顔を見ている俺は幸せなんだろうな……


「相澤さん……す……」


「吉住くん、どうしたの?」


「いや、何でもない……あっ! 花火の他にもイルミネーションがあるんだね」


 相澤さんを見てたら「好きだよ」と言いそうになってしまった。


 相澤さんは花火を楽しみにしているんだ。変な事を言わない様に気を付けないと……


「もうすく着くよ。ほらっ! 見えてきたよ」



 遊園地の観覧車が見えてきて、駅のホームに到着した。


「凄い人だね……」


 琢磨達が来た時の写真では、人も少なくて遊べそうだったが、今日は家族連れの他にカップルが多い。花火を見る場所を探すのも大変かもしれないな。


「花火まで時間あるけど、何か乗りたい物とかある?」


「特にないかな……お化け屋敷だけは行きたくないよ……」


「ハハハ。相澤さんらしいな。お化け屋敷が怖いって」


「こ……怖くないもん! ちょっと苦手なだけだもん……あっ! 私、あれ見てみたい」


 強がりを言っていた相澤さんが指を差して言っていたのはイルミネーションだった。


「うん。見に行ってみよう」


 クリスマスという事もあり、サンタやトナカイ、他にも色々な装飾があった。

 その中でも、クリスマスツリーの装飾をした大きな木が凄く目立っていた。


「うわー! 凄いねー!」


「うん、凄い綺麗だな……」


 クリスマスツリーに駆け寄って、ツリーを見上げている相澤さんを見ていた。

 装飾も綺麗だけど、相澤さんのツリーを見上げた姿の方が綺麗だと思った。


 俺はスマホを取り出してクリスマスツリーと、それを見上げている相澤さんの写真を撮った。


「あっ! 黙って写真を撮られたよ」


「でも綺麗に撮れてるよ。今から相澤さんにも送るよ」


 相澤さんに写真を見せて、そのまま相澤さんのスマホに送信した。


 相澤さんはスマホの写真を眺めていた。


「…………かな?」


「うん? どうしたの?」


「一緒に撮れないかな? ダメかな?」


「撮れないって……写真の事?」


「うん……これ……綺麗だったから」


 相澤さんは、さっき俺が送った写真を見せて言っていた。


 一緒に撮るって……どうするんだ? 誰かに撮って貰うしかないよな。


「う、うん。良いけど……誰かに撮って貰おうか? 周りには人も多いから誰かに頼んでくるよ」


「頼まなくても撮れるよ? じゃあ吉住くん……こっちに来て」


 相澤さんに言われた場所に立った。相澤さんは俺とクリスマスツリーを見比べていた。


「吉住くん、背が高いもんね……少ししゃがめるかな? 私の目線くらいで良いんだけど」


「うん。分かったよ」


 相澤さんが真横に近付いてきた。

 集中してるから気付いてないのかな?

 相澤さんの顔が目の前にあるし……

 俺と体がピッタリと触れてるんだけど……


「吉住くん、そのまま動かないでね」


「う、うん!」


 声が裏返ってしまった。相澤さんはスマホを持って手を伸ばしていた。

 スマホより、横にある相澤さんの顔が気になってしまう……それに体が触れていて動けないよ。


「吉住くん撮れたよ。ほらっ?」


 相澤さんは俺から離れてスマホを見せてきた。俺はホッとしたと同時に、少し残念な気になった。


 これが……自撮りっていうのか……初めてやったけど、こんなに緊張するものとは知らなかった。


「凄い上手に撮れてるね。綺麗だよ」


「綺麗だよね。吉住くんにも今から送るね」


 送られてきた写真は俺と相澤さん、そしてクリスマスツリーが綺麗に写っていた。

 写真の相澤さんは笑顔だけど、俺の表情が真顔なのは仕方がないと思う。


「吉住くんの表情が硬いねー」


 相澤さんも気付いた様子だった。

 相澤さんは緊張しないのか?

 こんな気持ちになるのは俺だけなのか?


「そりゃ緊張するよ。相澤さんの顔がここにあったんだよ? 緊張しない奴なんて居ないと思うよ」


 俺はジェスチャーを交えて説明した。

 俺の説明が伝わったのか、相澤さんの表情が真っ赤になって下を向いていた……


「ごめん。何か変な事を言ったかな?」


「ううん、何でもないよ。また、綾ちゃん達とやってる事を吉住くんにもやっちゃったと思ったんだよ……」


「同じ事? タコ焼きの時みたいな?」


「も……もう良いの。この話はおしまいにしよ? そうだ、もっと前に見に行こうよ」


 相澤さんは俺を置いて、どんどん前に進んで行った。


 写真の事を言ってたんだろうか?

 たまに相澤さんが何を言ってるのか分からない時がある。

 俺は相澤さんが楽しそうなら、それで良いと思ってるんだよ……


 そのままイルミネーションを見て、花火の時間が近付いてきた。


「相澤さん、花火の時間が近付いてきたけど、何処で見る?」


 花火がの時間が近付いてきて、周囲のベンチは人が座っていて、空いている所がなかった。


「人が多いと思ってシートを持って来たんだよ。これなら大丈夫でしょ?」


 相澤さんは2人で座れるシートを取り出した。


「わざわざ用意してくれてたんだ。ごめん、俺は何も用意してなかったよ」


「ううん。準備するのも楽しかったから良いんだよ。あそこなら座れそうだよ?」


 相澤さんと花火が見える場所にシートを広げ、一緒に座って花火が始まるのを待っていた。

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