第55話 部活への復帰
side:寛人
「今日から部活に復帰みたいだな」
「吉住、楽しそうだもんな」
学校の昼休み、陽一郎と安藤に真田、いつもの4人で弁当を食べていた。
「今日から復帰って良く分かったな」
「分かるよ、弁当に戻ってるし。量も多いからな」
部活に参加してない間は学食で軽く食べていただけだったから誰でも分かるか。今日から弁当を作って貰っていたからな。
「陽一郎、今日は軽く投げるから受けてくれ。タイミングが合えば、バッティングでも投げるよ」
「軽くなら受けてやるよ……というか他の部員には受けさせないぞ。寛人は納得いくまで止めないからな」
投球練習をすると納得するまで止めれないんだよな……ネットに軽く投げる程度だったからマウンドに立つのが楽しみだ。
「それで、吉住……文化祭で一緒に回っていた可愛い子は彼女なのか?」
「俺も聞きたかったんだよな!」
文化祭で皆に見られてたよな……彼女でもないし、連絡も取れないままだよ。本当に俺が聞きたいくらいなんだよ!
「友達だよ、彼女じゃない。向こうはどう思ってる分からないけどな……連絡すら取れないし」
陽一郎は黙って俺を見ていた。
俺は相澤さんと連絡が取れない事を誰にも言っていなかった。もしかしたら西川さんと陽一郎は知ってるのかもしれないが……
「何だ? 振られたのか?」
「良い雰囲気だったのになー」
振られるも何も付き合ってないよ。俺は好きだとも言ってないんだし、相澤さんには好きな人がいるんだ……
「だから付き合ってないって! この話は止めよう」
「寛人、今日の練習前に監督の所に行ってくれ。着替える前で良いから。俺も呼ばれてる」
黙って聞いていた陽一郎が助けてくれたみたいだ。ただ、何の事なのか分からない。
「陽一郎、何の話なんだ?」
「取材の事としか聞いてないから分からん」
取材か……受けるとは決めたけど、監督から取材の話? 引き受けた話なんだろうか? 野球を知ってる常識のある人なら良いんだけどな……
放課後になって陽一郎と監督室に向かっていた。
「田辺、吉住、待ってたぞ。そこに座ってくれ」
俺と陽一郎は監督の前に座った。
「監督、話って何ですか? 取材の話だと陽一郎から聞きましたけど」
「ああ、取材の事だ。受けるか迷ってるんだ……内容が吉住の足の事なんだよ」
「足ですか? 何で迷うんですか?」
俺と陽一郎は監督が何に迷ってるのか分からなかった。
「その前に聞かせてくれ。2人は甲子園には本気で行きたいんだよな? 俺が行きたくないって思ってる訳じゃないぞ」
「俺達は甲子園に行く気ですよ?」
「本気じゃないから公立に入ったと思ってましたか?」
監督は何を言ってるんだ? 俺達が本気じゃないと思ってたんだろうか? 少し腹が立っていた。
「確認だよ。怒るな。俺は監督である前に、この学校の教師なんだよ。それに公立だから私立と違ってスカウトなんてモノもない。だからお前達の意思確認をしたかったんだ」
「それと取材がどういう関係なんですか?」
「取材が吉住の足の事……つまり、吉住の復活を書きたがってるんだ。吉住が投げれるなら、来年は優勝候補だと記事になる。記事になったら……どうなるか分かるか?」
「そうか……宣伝になるのか……」
「分かりました! 野球をする高校を探してる中学生に、寛人がいる。寛人が投げれる……入学のアピールになるって事ですね」
俺達は中学で全国優勝をした。同年代で野球をやってる人に名前は知られてる。
俺が投げれる事をアピールできれば、来年は入部希望者が来てくれるかもしれない。
「それ、受けます……引き受けてください」
取材は月末の土曜日になった。今年最後の練習試合の日だ。
俺はマウンドには立たないが、ブルペンで軽くだけ投げる事になった。
土曜日か……昼には取材と試合が終わる予定だよな……陽一郎も連れて行った方が良いな……あっちも上手くいけば……
俺と陽一郎は着替えてグラウンドに向かった。久しぶりにユニフォームに着替えたからか、色んな人達から声をかけられた。
「陽一郎始めるぞ。土曜日までには少しでも状態を良くしておきたい」
「全力で投げるなよ。凄いヤル気だな」
陽一郎とキャッチボールを始めた。ネットに軽くしか投げてなかったから、これだけでも楽しいな。足の状態を確認しながらボールを投げていた。
「どうだ?」
「痛みは無いな。投げていてバランスが悪い感じがする」
「ブルペンに行くか?」
ブルペンで投げる事になったが、陽一郎は立ったままだ。キャッチボールと変わらない。俺は足とバランス、体の動きを意識して投げ続けた……軽くだけど……
それから練習も終わって西城駅に到着し、琢磨と山崎兄弟とは別れた後、陽一郎と電車に乗っていた。
「陽一郎。土曜日の試合の後、時間あるか? 西城シニアに行きたいんだ」
「西城シニア? 何の用事で行くんだ?」
西城シニアは俺達が中学の頃のチームだ。爺ちゃんが総監督をしていて、この前、連絡があった……
『寛人、練習に参加するみたいだな。透くんに聞いたよ』
「爺ちゃん、心配かけたね。来年の夏には間に合うよ。何かあったの? 電話なんて珍しいな」
爺ちゃんは母さんと透さんが再婚する時に近くに引っ越して来た。歩いて数分の距離なので、何かあったら家に来る事が多い。俺のスマホに連絡があったから珍しかった。
『西城シニアに来れないか? 江藤が進路に迷っていてな』
「健太の事? アイツならスカウト来るだろうから行き先には困らないだろ? アイツがどうかしたの?」
『実はな……お前達が揃って西城に進学して、自分も行きたいって言ってたんだ。寛人の足の事があって知りたいみたいなんだ』
江藤か……江藤健太……俺達が中学3年で全国優勝した時に、1人だけ2年生でレギュラーだった奴だ。
陽一郎に爺ちゃんとの会話の内容を伝えた。
「そうか……上手くいけば江藤が来るのか」
「そうなんだ。土曜日……行けるか?」
陽一郎と土曜日の午後に西城シニアに顔を出す事になった。
「それと、日曜日の遊園地はどうするんだ? 相澤さんと何かあったんだろ?」
やっぱり知っていたのか……
「西川さんから聞いたのか? 相澤さん……何があったのか分からないんだよ。連絡しても返信がないし……」
「西川さんも理由が分からないって言ってたぞ。学校では普通だけど、寛人が絡む話になったら無言になるらしい……本当に分からないのか?」
「文化祭から会ってないし、分からない」
「そうか、日曜日の事は西川さんも伝えたとは言ってたぞ」
「俺からも連絡しておくよ。返信が来ないかもしれないけど……」
日曜日……相澤さんも来るのかな?
来てくれると良いんだけど……
「こんばんは。日曜日の遊園地だけど、俺も行くから相澤さんも来て欲しい」
自宅に帰ってから相澤さんにメッセージを送信した。
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