第54話 遥香の涙

 side:遥香



 今日は学園祭の最終日、あっという間だった。楽しい日は早く終わっちゃうね。


「遥香、どうしたの? 凄く嬉しそうにして」


「綾ちゃん。何でもないよー」


「絶対に何かある。ニコニコしてるし、言葉も変だもん」


 綾ちゃんには吉住くんから誕生日プレゼントを貰った事は内緒にしている。


 だって、言ったら何か言われるもん。


 昨日プレゼントを貰って、開けてみたんだ……凄く綺麗で、可愛かった。


 瓶の中には小さな水色の花が何個も入っていた。私は小さい頃から水色が大好きだった。


 吉住くんに水色が好きって言ったかな?


 男の子から誕生日プレゼントを貰ったのは久しぶりだった。ひろとくんから貰ったのが最後だったね……


「はるかちゃん、お誕生日おめでとう」


「わぁ~! ありがとう。開けてもいい?」


「うん! 早く開けて」


「うわ~。可愛い~」


「ありがとう。水色のヘアバンドだ~」


 もう、サイズが合わなくなったけど、今でも持ってる……私の大切な宝物。


 私の部屋の棚に吉住くんから貰ったプレゼントを飾った。写真も送ったんだよね。ヘアバンドはプレゼントと同じ場所に並べてるんだよ。


 一緒に並べてる? 何でだろう?


 ひろとくんの思い出の所に……何で私は一緒に並べてしまったんだろう……


 あの時は宝物が増えたって思っちゃったんだ。


 私の中で吉住くんが大きくなってしまってるのを感じていた。



「遥香! 大丈夫なの? 今度はボーっとして」


「うん、大丈夫だよ。演奏があるから行くね」


 管弦楽部の演奏も無事に終わった。演奏は好きだけど、やっぱり大人数の前だと緊張してしまうよ……




 そして西城高校の文化祭に綾ちゃんと優衣ちゃん、3人で遊びに行った。


 正門に着いたら吉住くんがいた。私服を久し振りに見たって言われた。「似合ってる」って言われて恥ずかしかったけど、嬉しかったんだ。


 そして綾ちゃんの行動にビックリした。

 田辺くんの手を引っ張って何処かへ行っちゃったんだよ……優衣ちゃんも走って着いて行った。


 吉住くんと話していたら綾ちゃん達に着いて行くのに遅れたんだ。


「もう行っちゃうよ?」


 吉住くんが言った。


 でも、私は……吉住くんと一緒に……


「えっ……うん、綾ちゃん達だよね……あの……吉住くん……あのね」


「相澤さん? どうしたの?」


「ううん……何でもないよ……私も行ってくるね」


 吉住くんと一緒に文化祭を回りたいって言えなかった……


 そんなの言えないよ……


「待って! 相澤さん、良かったら一緒に回らないか? 昼過ぎまで時間があるんだ」


 私は諦めて、綾ちゃんと優衣ちゃんの所へ向かおうとした。そうしたら吉住くんが一緒に行こうって誘ってくれた。


 凄く嬉しかったんだよ。


「うん! 吉住くんと一緒に行くよ。綾ちゃん達には連絡しておくね」


 それから縁日があったので一緒に行った。

 色んなお店があって、小さい子も楽しそうにしていたので、見ていた私も楽しい気分になった。


 何処に行こうかな? って思ってたらクマのキーホルダーが見えた。凄く可愛いんだよ。


 ボールを投げて落としたら貰えるみたいで、吉住くんに投げ方を教わったから少し自信があったんだ。


 でも、ボールは違う所に飛んで行っちゃった。


 もう1回やってもダメだった……


 その時に吉住くんが取ってくれるって言ってくれて、本当に取ってくれた。後ろから投げたのに凄いと思ったんだ。


 色々な人が吉住くんを見ていた。人気あるんだなって思ってたら……


「可愛いから目立ってるって言いたかったんだよ! 恥ずかしいから……言わせないでくれよ……」


 私の事を可愛いって言ってくれた……公園の時もだから2回目だった……前も嬉しかったけど、今回はもっと嬉しかったんだ。


 その後も、綿あめを食べたり部活の話になって、バイオリンの事も言った。そして留学の事も……



 学園祭の最終日、管弦楽部の演奏が終わったら先生に呼ばれたんだ。


「相澤、短期留学の申し込み先から郵便が着た。パンフレットと書類だ。卒業後の留学申込書も入ってるぞ」


 私は夏休み前に短期留学の申し込みをしていた。


 卒業後は海外留学か国内の音大……この2つで考えていた。


 でも、海外だと吉住くんに会えなくなるから嫌だって思ったんだ。やっぱり国内の音大にしようかな……


 吉住くんは優しい人だよ。


 吉住くんとずっと一緒に居たい。


 私は吉住くんの事が好きになっていた。



 家に帰った後にクマのキーホルダーを学校のカバンに着けた。また宝物が増えたよ。私は嬉しくて写真を吉住くんに送ったんだ。



 それから1週間後の日曜日だった……



 私は午前中に部活の練習があって、帰ろうとしたら綾ちゃんと会った。


「綾ちゃん。もう終わりなの?」


「朝からだから早くから練習だったよ。もう疲れた……遥香も帰りでしょ? お腹空いたから付き合ってよ」


 綾ちゃん……朝から練習で大変みたい。大会前だもんね。


 それから中央公園のタコ焼きの屋台に行きたいって言うので一緒に行ったんだ。


「アンタ……何やってんの?」


「今日はオッチャンの手伝いやー! あっ! 相澤さんもおるやん!」


 屋台に着いたら吉住くんのお友達がいたんだ……吉住くんと一緒に食べた時に言ってた人なのかな?


「そっか、今日は部活休みだもんね」


 綾ちゃんが部活が休みって言っていたけど、何で知ってるんだろう?


「そうやねん! 何で知ってるんや? 陽一郎に聞いたんか?」


「違うよー! 吉住くんに聞いたんだよ。今日の朝早くに駅で会ったから」


 えっ? 吉住くんに会ったの?


「あー! 女の子に会いに行くって言ってたもんな! アイツばっかりモテやがって!」


「駅でも言ってたよ。学園祭の時にも聞いてたんだけどね」


 私は頭が混乱していた……


 吉住くんが女の子に会いに行ってるの?


 学園祭の時って何の事なの?


「綾ちゃん、学園祭の時って……何かな?」


「ほら! 遥香と吉住くんが一緒に回ったじゃん。『遥香には昔から好きな人がいるのに、告白されて困ってる』って吉住くんに言ったのよ。一緒に回ったら諦める男達が増えると思ったからね」


「綾ちゃん……」


 何で吉住くんに言っちゃったの? 


 ひろとくんの事まで何で……


「吉住くんに迷惑にならないか聞いたら、『好きな人は遠くにいるから大丈夫』みたいな事を言ってたんだよ」


 吉住くん……好きな人がいるんだ……


 私と仕方なく一緒に回ってくれたの?


 学園祭は一緒に回れて楽しかったんだよ?



「綾ちゃん、私は先に帰るね」


 私は泣きそうだった……


 私だけが楽しいと思ってたんだ……


 私だけがドキドキしてたんだ……


「ちょっと! 遥香!」


 綾ちゃんが私を呼んだけど、振り返らずに家に帰った。


 私は自分の部屋に入ってから泣いたんだ。


 棚に置いたプレゼント……私の宝物……


 これもそうだよ……私の渡したケーキのお返しだったんだよ……宝物になったのに……


 吉住くんが好きなのに……仕方なくって……酷いよ……涙が止まらないよ……


 綾ちゃんには体調が悪くて帰ったと伝えた。



 1週間が経って、綾ちゃんと優衣ちゃんが「遊園地に行きたい」ってメッセージに入れていた。


 吉住くんが直接「どうするの?」ってメッセージが入ってきた。


「私は行かないよ。皆と楽しんできて」


 私は泣きながら返信をした。


 何で私に優しくするの?


 好きにならなければ良かったよ……


 その後もずっと泣いた……ひろとくん……私はどうすれば良いの? 助けてよ……



 次の日の月曜日……


 私は先生に卒業後の海外留学の申込書を提出した。

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