第52話 思い出の場所へ
確か西城駅から乗り換えだったよな……
目的地までは電車で3時間……往復で6時間だ。朝早く家を出たが、使える時間は限られている。
何回か乗り換えが必要なので、どうしても時間がかかる……早く行かないとな。
「あれ? 吉住くんじゃん。こんな早い時間に何やってるの?」
西城駅で乗り換える為に駅の中を歩いていたら話かけられた。
「西川さんか……おはよう。学園祭の時に言ってたでしょ? 文化祭が終わったら女の子に会いに行くって」
「あっ、おはよう。遠い所にいる人って言ってたね……そっか、今日なんだ」
「西川さんは何でこんなに早い時間にいるの?」
「大会前だから朝から練習なんだよねー。あれ? 吉住くんがここにいるって事は練習は休みって事だよね? 田辺くんは何してんの?」
「陽一郎は寝てるんじゃないのか? 俺は知らない。陽一郎に聞いてくれ……それじゃ俺は乗り換えがあるから行くよ」
陽一郎……頑張ってくれ。俺は助けてやれない。でも、何となく陽一郎には合ってる気がするんだよな……
西川さんと別れて、乗り換えの電車に乗り込んだ。2時間はこのままで、その後にもう1回乗り換えになる。
日曜日の朝という事もあって、電車の中には人が少なかった。窓側の席に座り、景色を眺めていた。
都会の街並みから遠ざかり、山や海が見えてきた。
西城市から離れると俺の心の中では『本当に遥香ちゃんの居場所が分かるんだろうか』と思う不安や、父さん、母さん……そして遥香ちゃんとの思い出が頭の中に渦巻いていた。
そして最後に相澤さんの笑顔を思い出していた。
最後の乗り換えも終わって目的地に近付いてきた。この路線は父さん、母さんと何度も乗ったから良く覚えている。次の駅か……
着いた……長かったな……駅前の建物も変わったんだな……
俺は遥香ちゃんと過ごした街に着いた。
やはり7年は長い……知っている街並みとは変わっていた。住んでいた頃は田舎ではないが、少し田畑もあった。その場所も今ではマンションや駐車場に変わっていた。
街を見ていると思い出が消された気分になってしまう……
違う……そんな事じゃないだろ。
俺は何が目的でここに来たんだ……
思い出も大事だけど、今は遥香ちゃんの居場所だ。昔の遥香ちゃんではなく、俺は……今の遥香ちゃんに会いたいんだ。
とりあえず、前に住んでいた場所に行ってようか。歩いて行ける所だったな。
俺と遥香ちゃんが住んでいた家が見えてきた。この辺りもマンションが立ち並んでいた。コウちゃんとキャッチボールをした空き地もなくなっていた……
やっぱり表札が違うな……近くで見ていると家から人が出て来たが、見覚えのない人だった。
やっぱりここには居ないか……
コウちゃんの実家に行ってみようか。同じ町内だったから歩いて10分位の場所だ。そしてインターホンを押した。中からコウちゃんの母親の声が聞こえた。
「寛人くん、いらっしゃい。晃太から聞いてるわよ。隣に住んでいた佐藤さんの事だよね?」
「何か知ってるんですか!」
焦ってしまい、大きい声を出してしまった。コウちゃんの母親も驚いている。
「すみません。大きい声を出してしまいました」
「いいのよ。本当に連絡先を知らなかったのね……凄く仲が良かったのに。寛人くん、ごめんなさい……私は佐藤さんが何処に引っ越したのか分からないのよ」
「そうですか……ありがとうございます……他に知ってる人がいないか探してみます」
俺は時間も限られているので、挨拶をして家を出ようとした。
「ちょっと待って。当時の町内会長さんの所には行ってみた? 行ってないなら一緒に行ってみる?」
案内してくれるなら助かる。当時の町内会長……俺は誰なのか全く知らない。
「ありがとうございます。お願いします」
当時の町内会長の家まで案内をして貰った。伺う前に電話をしてくれて、事情を説明してくれていた。
「おー。君が寛人くんか……桜井さん家の……大きくなったな……」
「はい。今は吉住寛人です。母が再婚したので名前が変わりました。すいません……覚えてなくて……」
俺は誰なのか覚えていないが、目の前のお爺さんは俺の事を知っている。覚えていないのが申し訳ない気持ちになる……
「覚えていないのは仕方ないよ。蓮司くん……君のお父さんには町内会を手伝って貰ってたからね……そうか……真理さんは再婚したんだね……心配だったんだよ」
「父さんが町内会の事を? 全く知りませんでした。母さんも俺も……今は大丈夫です。それで……遥香ちゃん……佐藤遥香ちゃんと連絡が取れないんですが、ご存知でしょうか?」
「佐藤さんね……あそこも寛人くんの所と同じで、直ぐに引っ越して行ったんだよ。家庭で何かあったと伺ってたんだが……詳しくは話して貰えなくてね……ただ、行き先はK県だったと思うよ」
「寛人くん……K県って……」
「ええ……」
K県……西城市のある県だ……遥香ちゃん……同じ県内に住んでるのか?
「ここまでしか覚えてないんだよ……済まないね」
「いえ、俺も今はK県に住んでるんです。同じ県内ってだけでも分かって良かったです」
「寛人くん……でも県内って言っても広いよ? どうする気なの?」
「一応、考えはあります。まぁ、俺次第になりますが……」
この後も消息を知っている人を探したが分からなかった。
そして帰ろうとした時に公園の横を通った。
この公園って……
「何を作るの~?」
「お山を作ってトンネル掘るんだ」
「私も一緒にやる~」
「はるかちゃん、僕が砂を入れるから山にしていってね」
「わかった。いいよ~」
遥香ちゃんと一緒に遊んだ公園だ……砂場は以前と変わってないんだな……
俺は公園のベンチに座り、砂場で遊んでいる子供達を眺めていた。
遥香ちゃん……会いたかったよ。
遥香ちゃん……ごめんな。
君を探す事は諦めない……元気で過ごしているのかだけでも知りたいから……
ただ、気持ちの整理は着いたよ。
遥香ちゃん、幸せになって欲しい……
相澤さんと一緒に居たいと思ってるんだ。
俺は、相澤さんが好きなんだよ。
気持ちの整理も終わり、遥香ちゃんとの思い出の公園を後にして西城市の自宅へと帰った。
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