第51話 準々決勝とそして…
「オッチャンのタコ焼きは最高やで!」
中央公園に向かっている間、琢磨はタコ焼きの事しか話していなかった。いつかタコ焼きになりたいとか言いそうだよな。
「琢磨も焼くのが上手くなったよねー」
「そうやろ! 文化祭でオッチャンも食べに来てくれてん!」
「そうなのか? 店主さん来てくれたんだな」
「そうやねん! 寛人がベンチでイチャイチャしてるのを教えてくれたのもオッチャンや」
琢磨が見つけたんじゃなくて店主だったのか……琢磨には黙っていて欲しかった。
朝も思ったけど、5人で行動するのは久しぶりだ。最後は俺が怪我をする前だったかな。
「そうだ、陽一郎。今日の早川さんと木村さんの調子はどうだったんだ?」
今日は琢磨以外はバッティングピッチャーがメインで、陽一郎がキャッチャーに付いていた。
「あまり良くないな。次は打線が打てないと厳しいぞ。ベスト8だから相手も弱くないしな」
陽一郎と次の試合の事を話している間に中央公園に着いた。やっぱり店主の作るタコ焼きは美味しそうだ。
「どうや! うまいやろ!」
「店主さんのは初めてだけど、美味しいな。琢磨が作ったのも美味しかったぞ」
「そうやろ。寛人は前に来た時は、相澤さんとイチャイチャしてたからな」
琢磨はタコ焼きと女の子の事しか頭にないのか?
「寛人。俺が思ってるより相澤さんと仲が良いんだな。今朝も言ったけど、日曜日……何とかしろよ?」
陽一郎は2人しか知らない事を話し始めた。
「陽一郎、何の事やねん?」
おい、陽一郎……琢磨は知らないんだから言ったらダメだろ。下手に隠すと騒ぐし教えるしかないか。
「陽一郎。何でここで言うんだ? 仕方ない、琢磨……詳しい事は言えんが、日曜日に子供の頃に住んでた所に行ってくるんだよ。人に会いにな……」
「その言い方……また女の子か!」
「そうだよ。会いたい子がいるんだよ……それだけだから騒がないでくれ」
陽一郎を見ると、無言で謝っていた。琢磨は納得してない感じだが、放っておくのが一番だ。翔と翼は何も考えずにタコ焼きを食べてるから大丈夫だな。
「琢磨。それよりも次の試合は頼むからな」
「任せとけや! 抑えたるでー」
土曜日になり、準々決勝の日になった。
今日の先発は早川さんだ。文化祭ではフランクフルトの店をやっていた人だ。
「早川さん。初回から全力でお願いします。この試合は木村さんと琢磨……3人の継投になりますので」
全力と言ったけど、何処まで粘れるか……今日の相手は甲子園にも出た事のある私立の学校だ。
この学校も毎年ベスト8には顔を出している。強さとしては、東光大学附属より少し劣る感じだが、強力打線で有名だった。
簡単に言ったら打高投低で、点は取られるが、それ以上に点を取って勝つチームだな。
「ああ。継投のタイミングは任せる。田辺も頼むな」
「分かりました。寛人、攻撃の間は琢磨をブルペンに行かせるから」
「琢磨には負担をかけるけど、やって貰わないと困る」
そして試合が始まった。3回が終わって、3対2で負けている。
早川さんは3点を取られたが状態は悪くない。相手の打線が思ったより強力だった。
味方も打って出塁するが、あと1本が出ない……正直、厳しいと感じていた。
「吉住、お前が投げないと負けるぞ」
「寛人は投げれないから無理だろ」
ブルペンから試合を見ていた俺の後方、フェンスの向こう側……スタンドからの声だった。
「奥村……それに和也か……」
スタンドには、次の試合の東光大学附属が来ていた。
「寛人、来年の夏は大丈夫なんだろ?」
「ああ、そのつもりだよ。そろそろ走り始める予定だからな」
「どちらにしても、吉住と戦えないと面白くないから早く治せよ。後な……相澤さんとは……どういう……」
「奥村、寛人は試合中だぞ。今は止めとけ……お前、まだ諦めてないのかよ」
奥村……試合中に何で女の子の話を始めるんだよ。コイツも琢磨と同類なんだな。
「奥村、その話はまた今度にしてくれ」
「すまん。試合……勝てよ。次は俺達とだからな」
「寛人、またなー!」
東光大学附属の見てる前で、恥ずかしい試合はできないな。
しかし試合は4回から木村さん、7回から琢磨が投げ、2人は3失点ずつ失った。味方は合計で6点しか取れず、9対6で試合に負けた。
西城高校の秋季大会はベスト8で幕を閉じた。
試合が終わり、陽一郎と電車に乗って帰っていた。
「寛人不在でベスト8なら上出来だと思うぞ。負けたのは悔しいけど、3人の投手に経験を積ませたのが大きい」
「確かにな……でもベスト4以上は関東大会に行けたからな……普段は遠征なんて出来ないから、他県の強豪と試合したかったんだけどな。選抜を狙えるチャンスもあったんだし」
まだ2年ある……来年こそは……
「寛人。悔しいのは俺も同じだ。とりあえず寛人が投げれないと甲子園に行けないから頼むぞ」
陽一郎と試合の反省会を終えて帰宅した。
俺は敗戦の悔しさを切り離して明日の事を考えていた。
まず、以前の家に行ってみる……そしてコウちゃんの実家に行って……そこで分かれば良いんだけどな……
「寛人、明日行くんでしょ?」
「ああ、コウちゃんの実家にも挨拶してくるよ。何か心当たりあった?」
「あったんだけど、連絡が取れないのよ……ほら、母さんと楽団で一緒にバイオリンを弾いてた清水さん。アンタ覚えてない? たまに音楽教室を手伝って貰ってた人よ」
「清水さん? 名前は覚えてないな」
「私が無理な時に、遥香ちゃんにも教えてくれてたのよ」
そう言えば……母さん以外にも人がたまにいた記憶がある……本当なのか……
「その人は!」
「だから連絡が取れないって言ってるでしょ? 母さんも調べてるから寛人も明日やれるだけやってきなさい」
連絡が取れないか……でも、繋がる先が増えた……遥香ちゃんに繋がる可能性が上がったんだ……
そして翌日、朝早くに家を出た。
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