第11話 『ひろと』と『はるか』③

 小学校に入った僕と遥香ちゃんは2年生になっていた。


 遥香ちゃんとは今も一緒に居て、一緒に居ない時はお互いに習い事があったんだ。


 寛人は父親の桜井蓮司にピアノを習い、遥香は母親の桜井真理にバイオリンを習っていた。


「こう弾くんだよ。良く見ていてごらん」


 お父さんは僕に分かる様に何度もお手本を見せてくれた。


「間違えても良いんだよ。ゆっくりと弾いてごらん」


「うん」


 いつも僕は同じ所で間違えてしまう。でもお父さんは優しく教えてくれる。僕は、そんなお父さんが大好きだ。


 スラッとしていて背が高く、幼稚園の時の先生も「お父さんカッコイイね」と言っていた。色んな人から言われると僕も嬉しかった。


 でも、僕はもっとカッコイイお父さんを知っている。


 楽団でピアノを弾いているお父さん。


 白いシャツの上に黒い服を着て、髪型もいつもと違う。普段はお母さんが買ってきた服を着て、髪は邪魔にならない様に分けているだけなのに。


 ピアノを弾いているお父さんが大好きで、「僕もお父さんみたいになる」って言ったら凄く喜んでくれていた。


 その頃、お母さんは遥香ちゃんとバイオリンの練習。


 お母さんもお父さんと同じ楽団でバイオリンを演奏しているんだ。


「遥香ちゃん上手に弾けたね」


「うん、バイオリン楽しいから大好き!」


 僕と居る時の遥香ちゃんは、ニコニコと笑顔で凄く可愛い。


 でも、バイオリンを弾いている時の遥香ちゃんは真剣な表情をしている。


 同じ時間に練習しているけど、僕と遥香ちゃんのどちらかが早く終わった時には、練習を見学して待っていて、終わったら一緒に帰宅する。


 普段は長い髪で表情が見えにくいけど、練習中は邪魔みたいで、水色のリボンで一つに結んでいて、ポニーテールって髪型だって言ってた。遥香ちゃんの可愛い顔が良く見えた。


 いつもと違う遥香ちゃんを見て恥ずかしくなって「馬のシッポみたいだね」って言ったら「もうっ!」って怒られた。いつも怒らない遥香ちゃんも可愛いなと思ったのは内緒だった。


 バイオリンを弾いている、普段と違う遥香ちゃんの真剣な表情を見ると胸が「キュッ」ってなって変な気持ちになるんだ。これは何なんだろう。


 でも、1つだけ分かっている事がある。


 僕はやっぱり遥香ちゃんが大好きだ。





「この問題が分かる人ー?」


「「「………」」」


 算数の授業中で、難しい問題のせいか誰も手を挙げなかった。僕も答えに自信が無かったので黙っていた。先生は少し待ってたが誰も答えない。


「じゃあ先生が当てるぞ。桜井くん、答えは分かるかな? 間違えても良いから答えを黒板に書いて」


 僕は黒板に答えを書いた。


「うん、正解。難しい問題だったけど良く勉強しているな」


 僕が席に帰り座った時に先生は言った。


「次の問題は……出席番号順で行くか。佐藤さん、この問題の答えを書いてね」


 遥香ちゃんが当てられて「ビクッ!」としていた。遥香ちゃんは僕の方に困った顔を向けてきたので笑顔で頷いた。


 遥香ちゃんは笑顔になり黒板に答えを書いた。


 答えはやっぱり正解で、僕と遥香ちゃんは家で一緒に勉強していて、僕達の成績は良かった。





 10月になり今日は遥香ちゃんの誕生日。


 遥香ちゃん……喜んでくれてくれるかな?


 この前、お小遣いを持って内緒でプレゼントを買いに行った。


 買いに行った時、周りは女の子ばかりで居心地は悪かったけど、遥香ちゃんにプレゼントを渡した時の笑顔が浮かび、僕は頑張って選んだ。


「はるかちゃん、お誕生日おめでとう♪」


「わぁ~! ありがとう。開けてもいい?」


「うん! 早く開けて」


 喜んでくれてくれるかな…喜んでくれてくれたら良いな…僕は凄くドキドキした。


 遥香ちゃんは真剣な表情で、包装紙を破らない様にゆっくりと開けていた。


「うわ~。可愛い~♪」


 真剣な表情から僕の大好きな笑顔になってくれて、僕も嬉しくて笑顔になった。


「ありがとう。水色のヘアバンドだ~♪」


 遥香ちゃんは水色が大好きだった。僕は花の模様が付いた水色のヘアバンドを見て「はるかちゃんに似合う」と思って自信満々で選んだ物だから、喜んでくれて凄く嬉しかった。



 学校でも一緒に居た遥香ちゃん


 家でも一緒に居た遥香ちゃん


 僕の大好きな遥香ちゃん





 この頃は、会えなくなる日が来るなんて思ってもなかったんだ……

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