第10話 驚き

 side:遥香



「おはよーー!!」


 後ろから大きな声が聞こえたと思ったら、走る音と共に「ガバッ!」と抱きついてきた。


「おはよう、綾ちゃん。後ろから急に来たからビックリしたよ」


 彼女は西川綾ちゃん。綾ちゃんとは中学からの友達で、物怖じしない性格で、誰とでも仲良くなっちゃう女の子。慣れない土地に来た私の友達になってくれた。綾ちゃんには本当に色々と助けられた。


「ゴメンゴメン、改札を出たら遥香が見えたから我慢出来なくて。だって、時間が一緒になるの久しぶりじゃん」


「そうだね。夏休みになってから時間が合わなかったもんね」


「やっぱり1人の通学は暇だわ、久しぶりに一緒なのに、嬉しそうじゃないというか……何か遥香は落ち着いてるっていうか普通すぎる」


「私も一緒で喜んでるよ? でも、学校に行くだけだからね」


「そりゃ、そうだけど。でも……通学は大丈夫なの?」


「うん……大丈夫……かな?」


 西城駅から学校までの毎日通う通学路。授業のある日は綾ちゃんと毎日一緒に通学している。陸上部の綾ちゃんとは夏休みに入ってから部活の時間が違うので、最近は1人で学校へ向かっている。


 ひとつ困った事は、夏休みに入ってからの通学路、知らない男の人に声を掛けられるのが増えた事だ……。


「綾ちゃん、大会は来月なんだよね?」


「そうそう、もう少しスタートが早くなりたいから特訓中!」


 綾ちゃんは短距離を専門にしていて、去年の中学3年生の時は、県で3位になってた。運動が苦手な私は少し羨ましいと思ってる。


「大会といえば、遥香は明後日からの応援に行くの?」


「部活の人達は何人か演奏で行くから休みだけど、私は行かないよ。家の事もやらないとダメだし」


「そうだったね。あ~! 私も遥香の作ったゴハンが食べた~い!」


「また今度おいでよ。綾ちゃんが来ると食卓が賑やかで楽しいって、お母さんも言ってたよ」


「それ……五月蝿いって言われてない!?」


「もうっ! 疑り深いなぁ……綾ちゃんが来たら私も楽しいよ」


 この前、母校の東光大学附属高校の野球部が甲子園出場を決めて、吹奏楽部がメインだけど、私の所属する管弦楽部からも何人か応援に行くので、部活はお休みになる。


 私は祖母が入院中で、退院までは祖母の代わりに家事をおこなっていた。母は祖父の会社の事務で働いている。


 今日は昼まで部活で、買物をしてから家に帰り家事を済ます予定。夕方には祖母が入院中の東光大学附属病院に行く。学校と系列の病院で最寄り駅も同じだから、学校帰りでも寄れる為その辺は凄く助かっている。





「おばあちゃん来たよ。月末に退院だけど、無理しちゃダメだよ?」


「大丈夫よ~。もう腰も大分良くなってるし、動かないともっと悪くなりそうだから、リハビリと思ってるよ」


「もう……何で大人しく出来ないかなぁ……」


 祖母は時間があると、祖父の会社を手伝いに行ったりしている事もあり、じっとしてると落ち着かないらしい……聞けば、この後も散歩がてら屋上まで干してるカーディガンを取りに行くって言っていた。


「おばあちゃん! 私が取りに行くから安静にしてて!」


 普段大きな声を出さない私だけど、悪化したら嫌だし、これだけは我慢出来なかった。


『ガチャ』


 扉を開けて屋上に出る。今は夕方だし、今日は風もあって気持ち良いな。


 確か、あそこにベンチがあったはずだよね。


 私は、公園が良く見える場所にベンチがあったのを思い出し、足を運んだ。


 あれ?……誰か居る?


 そこには背の高い男の子が座って居て、ビックリさせたみたいで急に振り向いてきた。男の子の顔を見て驚いてしまい、私は咄嗟に謝ってしまった。


「あ……あの……ゴメンナサイ…」


 振り向いた男の子は同じ年位で、顔には涙が流れていた。


 私はどうしたら良いのか混乱した。右足に怪我をしているみたいだから「痛いなら先生を呼んでくる」って言っても違うみたいだった。


 私も冷静になってきたけど、立ち去って良いのか分からずその場所に居た。そして色々と話を聞いた。事故にでもあったのかと聞いたら「そんな感じですね」……と掴み所の無い返事があり、男の子はもうすぐ誕生日を迎えるみたいで「誕生日を入院中の病院で過ごす事になった」と笑いながら話してくれた。


 私は、男の人が苦手で、普段は会話が続かないのに何故か楽しかった。


 今日初めて会ったのに、不思議な感じがする……何でだろう。


 病室に戻る時に男の子は倒れそうになり、咄嗟に手を貸そうと近付き過ぎてしてしまった。


 わぁ……近くで見ると背も高いし、優しそうな目だな……整った顔をした男の子なんだ……


 普段はここまで近付かないのに、やっぱり不思議な感じだな……


 病室まで付き添い、ふと壁に掛かった名札が一つしか無い事に気付き、個室なんだなと思っていたら名札の名前を口にしてしまっていた。


「……よしずみひろとさん?」


 男の子は驚いていた。そりゃそうだよ、いきなり名前を言われたんだからビックリするよね。


「あれ?」と思い、私も名前を言って無かった事を思い出し、私達は自己紹介をし合ってから別れた。


「吉住寛人さんか……」


 普段は下の名前が同じ、というだけでは何も思わないけど、久しぶりに男の子と沢山の会話をした事もあり、遠い……遠い……思い出が溢れて出して来ていた。



 懐かしいな……どうしてるかな?……やっぱり会いたいな……今、何処に住んでいるんだろう……




 「ひろとくん……」




 ずっと一緒に居てた幼馴染。


 私を守ってくれてた男の子。


 大好きだった男の子。


 

 私は、大好きだった「桜井寛人くん」の事を思い出しながら祖母の病室に向かった。

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