第6話 込み上げる想い

 テレビで東光大学附属の試合を見ていた。


 斎藤さんの負傷は大事には至らず、甲子園で大活躍していた。


 ギプスで固定された足は痛いが、うなされる程の痛みでは無くなり、数日で大部屋に移ると聞いていた。


 今日は陽一郎達が来てくれていた。


「学校に行ったら、やたらと寛人の事を聞かれたぞ」


「俺も何度か聞かれたわ」


「『吉住くん何処に入院してるの?』』怪我したんなら野球お休みだし、遊びに誘っても大丈夫かな?』とか変な事を言ってる人も居たけど、寛人は人気者やな、ハハハ」


「そんなのはいいよ」


「寛人は小学校ではチビだったのに、中学入ってから背が伸びたもんな」


「本当にソレや! 今では俺達の中では一番背が高くなってモテまくりやし……お前ばっかりセコイねん!」


「琢磨、何がセコイのか分からん……お前は落ち着きがないのが駄目なんじゃないか?」


「陽一郎……酷いわ!」


 周りではあの子が可愛いとか、格好良いとか言ってるけど、正直……俺にはどうでも良かった。


 コイツ等と居る、今の生活で満足なんだよな……。


 こっちに引っ越して来る前は、いつも幼馴染みの女の子と一緒に居て、俺も好きだったし、あの子も好きだと思ってくれてたな。


 遥香ちゃん……試合前もあの頃の夢を見たな……


 俺が居なくなってから大丈夫だったんだろうか?


 元気で過ごしてるんだろうか?


 引っ越してからは精神的に辛くなり、野球や勉強に没頭した事を思い出した。


 コイツ等には本当に助けられた……


 今が楽しくて、その事しか考えられなくなってたんだな。


 忘れたてた訳ではなく、今の怪我をした状況になって考える事が多くなり、あの頃を思い出してしまってたんだ……


 思い出に浸っていると、陽一郎が何か言っていた。


「甲子園か……東光大学附属が勝ったな」


「まだ初戦だけど、圧勝だったからな」


「寛人、あの打線を8回を無失点にしたんだもんね」


 感心した様に話す陽一郎。俺は最後まで投げれなかった事が一番悔しかった……


 あと1回……最終回さえ投げれたら俺達があそこに立っていたのに……


 陽一郎達も帰り、一人になると色々な感情が心の中に渦巻いてきていた。


 蝉の鳴き声が響き、煩わしさを感じていた。  

 

 ふと、外を見ると夕方になり風が気持ち良さそうに吹いている。


 気分転換に外へ出てみるか……確か屋上があったよな?


 松葉杖を持ち外に出る。


 この時間は誰も居ないんだな。


 病院前の公園が良く見える場所を視界に捉え、周囲を見渡すとベンチがあったので座って色々と考えていた。


 公園に居る親子。友達と遊ぶ子供達。


 視界に映る日常を見ていると、「俺は、こんな所で何してるんだ…」と気分転換のはずが、より落ち込んでいく俺がいた。


 義父さんや母さん、陽一郎達の前では決して見せていなかったはずの涙が流れ落ちる。


 我慢していたものが決壊してしまっていた。


 みんな、済まない……


 嗚咽が止まらず、我慢を止めて泣いた。


 誰も居なかったのを確認していて安心していたのに、背後から「えっ……」と小さな声が聞こえ、とっさに振り返ってしまった。





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