第7話 『吉住寛人』と『相澤遥香』

 背後から「えっ……」と小さな声が聞こえ、振り返ってしまった。


「えと……あの……ゴメンナサイ……」


 声を掛けてきたのは同じ年位の女の子。


 泣き顔を見られてしまった……恥ずかしいという気持ちがあったが、すぐに消えてしまった。


 困惑した表情をしていたが、テレビの中から出てきたのか……と思ってしまう位の美しい少女が俺の前に佇んでいた。


 夕日を浴びた艶のある黒髪のロングヘアー


 肌は白く、クリっとした大きな目、背は高くないけどスタイルは良く、水色のワンピースが凄く似合っていた。


「あの……大丈夫ですか?」


「……」


「あの……その……大丈夫ですか??」


「あっ……えっと……」


 突然現れた彼女に、俺は言葉も忘れて見惚れてしまっていた。


 彼女は、目の前から動かずに困惑した表情で俺を見ていた。


 俺は、話しかけられた事に気付き、冷静さを取り戻した。


「すみません。大丈夫ですよ」


「本当ですか? 辛そうな顔をされてるので……痛いのなら先生を呼んできますよ?」


「足ですか? まぁ……痛くないっていえば嘘になりますが、屋上に来れる位なんで大丈夫ですよ。とりあえず……恥ずかしい所を見られちゃいましたね」


「いっ! いえっ! 私も突然見てしまってゴメンナサイ……」


 その後、泣き顔を見られた恥ずかしさを払拭するために、「夏休み入院で終わってしまうんです」や「私の祖母が入院してるんです」等、他愛も無い話をして気付いたら時間が経ってしまっていた。


「そういえば、こんな時間まで悪かったね。そろそろ部屋に戻るよ」


「あっ……私の方こそゴメンナサイ」


 俺は松葉杖を取り立ち上がろうとした時……


「うおっ!」


 急いで立とうとした拍子に倒れそうになってしまった。


「あっ……」


 咄嗟に彼女の手が伸びてきた。


「動きにくいなら部屋までお送りしますよ」


 彼女は肩を貸そうと俺の真横まで近付いてきた。


 え? 何? 何で?


 驚きや恥ずかしさもあり断ろうとするが、なかなか納得してくれなかった。必死で説得して病室まで付き添う事を条件に妥協して貰えた。


 ビックリした……驚いたけど、それより説得出来て良かった……女の子に肩を貸されるとか恥ずかしすぎるだろ……


 まだ俺は少し混乱していた……


「あ……部屋はここです。付き添って貰いありがとうございました」


「個室なんですね。お大事にしてくださいね」


 挨拶を交わし、部屋に入りかけたその時。


「……よしずみひろとさん?」


 彼女から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 あれ? 何で名前知ってんの? 名前言った記憶はないんだけど


 戸惑いながら「はい何ですか?」と返事を返して振り返った。


 これか……部屋にネームプレート付いてたな。


 部屋の横に「吉住寛人」と書いたプレートを眺めていた彼女を見て納得した。


「そう言えば自己紹介もしてなかったですね。『吉住寛人』っていいます」


「私もお伝えしてなかったですね。『相澤遥香』です」


「……」


「……」


 お互いが、今更の自己紹介だっと気付き2人は照れ笑いを浮かべていた。


「では、相澤さん俺は病室に戻るのでこれで」


「はい。吉住さんもお大事にしてくださいね」


 改めて俺は自分の病室に、彼女は祖母の病室へと別れた。


 ベッドの上で今日の恥ずかしい出来事と、この前の夢、幼い頃に一緒に過ごした幼馴染の女の子の事を思い出していた。


「相澤遥香か……」


 ふと……さっき出会った彼女の名前を口にしてしまい笑みを浮かべた。


 そりゃ思い出すよな……下の名前が一緒だもんな……『はるかちゃん』……『佐藤遥香』だったからな……


 俺はベッドに横になり、下の名前が同じという事もあって『はるかちゃん』と過ごした日々を思い出していた。



 はるかちゃん……懐かしいな。


 今頃どうしてるんだろう。


 やっぱり、会いたいな。



 幼い頃に大好きだった幼馴染との思い出が甦ってきた。




 幼い頃にお互いが大好きだった『ひろと』と『はるか』




 そして、今日初めて出逢った『寛人』と『遥香』




 知らずに再会を果たしていた幼馴染の2人、ここから2人の止まっていた時計の針が動き始める……

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