第5話 斎藤晃太

 個室……暇だなぁ……


 痛みもあるし仕方ないな……


 透さんが言っていた。


「痛みで耐えられない時もあるから、落ち着くまでは個室だからね」


 俺としては個室でも相部屋でも、どちらでも良かった。


 今日、東光大学附属が優勝し、甲子園出場を決めていた。


 天井を見ながらボーっとしていたら「コンコン」とノックする音が聞こえてきた。


「どうぞー」


「………」


 誰か居るけど扉は開かない。


 ……何だ? 聞こえなかったのか?


「どうぞー。空いてるので入って来てください」


 さっきより大きい声を出した。


「……失礼します」


 小さく弱々しい声で、体の大きな男の人が入って来た。


 ……誰? こんな人…居たっけ?


 やはり、良く見ても知らない人だ。制服を着てるけど西城高校の制服ではない。


 入って来たけど下を見て無言だし、頭の中は「部屋間違えてるんじゃないの??」しか浮かばなかった。


 沈黙が続き、俺から声をかけた。


「部屋を間違えてませんか?」


「……」


 ……沈黙?? この人は誰??


 もう一度相手の目を見ると口を開いて声を出してきた。


「……大丈夫でしょうか?」


 俺の事? 聞き付けて誰かの知り合いが来てくれたのか?


「大丈夫ですよ。こんな格好だから大丈夫には見えませんよね。アキレス腱断裂と内果骨折らしいです。治れば大丈夫だと思いますよ」


 その瞬間、知らない大きな男の人は顔を歪めた。


「……ゴメンナサイ……ぶつかろうとか、そんな事は考えてなかったんです……ただ一塁まで必死に走ってて……」


 そっか……この制服、東光大学付属の制服だったな。じゃあ、この人は四番の人か。


「もしかして、東光大学附属の四番の人ですか?」


 男は顔を上げた。


「はい、東光大学附属の斎藤晃太と言います。本当に申し訳なかったです」


 やっぱり……この人もあの直後に交代したって聞いてたのに、俺の事まで気にしてくれてたんだ……確か、さっきまで試合だったはず……優勝した直後に来てくれたんだな。


「お互い必死だったんですよ。試合中なんで仕方ないですよ。斎藤さんは大丈夫だったんですか?」


「僕は打撲だけでした。すぐに伺いたかったんですが僕も病院に行き、今日の決勝もあって合宿所から抜け出せなかったんです……遅くなって申し訳なかったです」


「斎藤さん……確か主将でしたよね? 気にしないでください。今日は来てくれてありがとうございます。それと、甲子園出場おめでとうございます。俺達の分まで大暴れして来てください!!」


 斎藤さんは「ありがとう」と言って帰って行った。


 その後はチームの皆も顔を何度か来てくれて、斎藤さんも足を運んでくれていた。


 足を運んでくれていた斎藤さんは、そのまま甲子園へと移動して行った。

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