第3話 相澤遥香

 今日の準決勝……西城高校が先攻、東光大学附属は後攻で試合が始まった。


 やはり今までの相手とは違い、簡単には打ち取れないし、味方も点が取れず0対0の同点のまま、試合は中盤を迎えた。


「寛人、必ず点を取るからな!」


「俺達も必死で守るからな!」


 監督が話しかけてきた。


「田辺、吉住の調子はどうだ?」


「調子は問題無いですが、相手のレベルが高いですね……少しの失投も許せない状況もあってか、寛人の疲労はいつも以上だと思います。先に点を取って、相手の焦りを誘いたいですね」




 side:相澤遥香



「遥香~! 明日は野球部の応援に行くの?」


「うん、学校行事みたいだし行くよ」


「そうだよねー。毎年の事みたいだし、昼からだから暑そう……」


「暑いと思うけど、野球の事……あまり分からないから、応援の仕方も分からないんだよね」


「遥香は野球というより、スポーツ全部ダメだもんね」


「……うん、運動は苦手だからね」


 私は昔から運動が苦手で、小さい頃はいつも泣いていたんだ。


「遥香は可愛くて勉強も学年トップ。あと、バイオリンだっけ? 音楽でも凄いんだから、スポーツ苦手って位はイイじゃん! スポーツまで万能なら私はアンタに近付けないわ」


 ケラケラと笑いながら軽口を叩いていた。


「綾ちゃん……私はそんなんじゃないよ……」


「嫌みじゃないって! 苦手な物あるんだって位が親近感があって、そっちの方が良いって言ってるの!」


 さっきからチラチラと私達を見ていた男子達が会話に入ってきた。


「「相澤さん、明日は応援に行くの!?」」


「うん……行くよ……」


 また周りの男の子達が会話に入ってきちゃったよ……どうしよう……


「相澤さんが来てくれたら先輩達が絶対勝てるって言ってたよ!」


「相澤さん! 明日は一緒に行かない?」


「そうだっ! 相澤さん! 明日野球の事を教えてあげるから、俺と一緒に見ようよ!」


「えっと……」


 どうしよう……何て言えば良いの?


「あんた達! 遥香が困ってるでしょ!」


「「ごめん……分かったよ……」」


「遥香も遥香だよ、嫌なら言わないとダメだよ」


「ごめんね……綾ちゃん、ありがとう」


 知らない人とかも、いつも一方的に話しかけて来るのに、何て言ったら良いのか分からないよ……


 そして、私は友達と一緒に、初めて野球場に行って母校の応援をしていた。





「もう7回裏じゃん! 西城高校って公立だよね? こんなに強かったっけ?」


「綾ちゃん、今どうなってるの? 東光勝ってるの?」


「まだ同点、どっちにも点は入ってないよ」


 もう一人の友人、優衣ちゃんが話しかけてきた。


「遥香! 綾! 西城高校って今年凄いみたい! 何でも、去年中学で全国優勝した子達が揃って入学したらしいよ!」


「えぇ! それ凄いじゃん!」


「ふーん、そうなんだね」


「そうなんだね……って遥香……凄いなんてもんじゃないのよ? 今、投げてる相手ピッチャーの子も1年生らしいよ!」


「1年生!?」


「同じ1年生なのに凄いよね」


「「遥香……分かってなさそうだよね……」」



 さっき見方を教えて貰ったよね。確か……スコアボードに「1」って書いてる名前の人だよね……吉住くんって名前なんだ……


 同じ1年生なのに凄いな……




 side:寛人



 8回になり、先頭バッターの琢磨が粘って四球をもぎ取り、次のバッターが送りバントを決めた。


「陽一郎~! 頼む!!」


「田辺! 打ってくれよ!!」


 陽一郎は打席に入る前に俺の方に顔を向けた。俺と目が合うと、何かを言いたそうにしてる。


 俺はただ、笑みを浮かべ頷いた。


 陽一郎……お前なら打てるよ。先制点を頼んだぞ。


 陽一郎は期待通りに打ってくれた。琢磨も俊足を生かしてホームへ生還!


 8回表にして待望の先制点が入った!


 陽一郎も琢磨も凄いよ……翔と翼の二遊間にも何度助けられたか……俺、コイツ等と勝ちたい……一緒に入学して良かった


 8回表に2点目は入らなかった。


「寛人! 待たせたな!」


「吉住、残り2回頼むぞ!」


「この試合に勝って決勝も勝つぞ!」



 後は俺が2回を抑えるだけだ……



 8回裏、東光大附属の攻撃


 先頭は三振に仕留めた。次のバッターはサードゴロ。


 しかし、相手の俊足を焦りエラーで出塁させてしまった。


 相手は3番だったが送りバントを決められた。


 2アウトながらランナー2塁、一打同点、ホームランなら逆転のピンチを迎えてアナウンスが流れる。


『4番ファースト、斎藤くん』


 マウンドに皆が集まる。


「敬遠して満塁策を取るか?」


「次の5番には今日2本打たれてるし、この4番の人、今日タイミング合ってないから勝負で行こう」


「分かった」


「それで行こう」


「内野は意地でもアウトを取る。外野は2塁ランナーを絶対に帰すな!」


 ゲームが再開された。俺は陽一郎のサインを受けミットに投げ込み、2ストライクまで追い込んだ。


 次のボールを相手に打たれてしまった。


 強烈な打球だったが、ファーストが飛び付いて捕球。俺も急いでファーストに走りボールを受け取り、相手より先にベースを踏んだ。



 抑えきった! 何とか踏ん張れた!



 そう思った時、横に相手が走り込んできていたんだ……


 ドンッ!


 その音と共に強い衝撃を受けた。


 相手と交錯したのが分かった。


 ボールだけは離さないと必死で掴んでいた。



 そして倒れない様に右足を踏ん張った時……



『ブチッ』という音が俺の右足から聞こえた。


 今まで聞いた事がない音が……


 聞いたらいけない様な音が聞こえた……


 そして俺はグラウンドに倒れ込んだ。

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