第2話 進路
中学3年生の時、所属していた西城シニアが全国制覇を果たす。
初出場で初優勝という話題性もあり、中学の野球界では知られた存在になる。
俺はエースナンバーをもらい、チームの主戦投手として投げて、陽一郎は司令塔としてホームベースを守った。
俺と陽一郎は最優秀バッテリーとして表彰され、大会の前からスカウトが来ていたけど、優勝した後は全国から誘いを受けていた。
◇
優勝した日から数週間が過ぎ、俺はチームメイトに「進路の相談がしたい」と伝えて集まってもらう。
集まったのはチームのスタメン全員で、半数の進路は未定のままだった。
「寛人、スカウトは何校来てるの?」
「15校から来てる。有名な高校ばかりだった」
「すげーな。俺なんて6校しか来てない」
「えっ、俺は5校だぞ。負けた……」
全員が誘いを受けた高校の話をしているが、心の中では何処に進学すれば甲子園に行けるかを考えている。
そして、しばらくすると黙っていた陽一郎が口を開いた。
「それで、寛人が俺達を集めた理由はなんだ? 進路ってだけで、寛人が俺達を呼び出すのは考えられないからな」
陽一郎の言葉に納得したのか、全員が黙って俺に注目する。
やっぱり陽一郎には敵わないな……
でも、俺の性格を知ってるから当然か。
「全員を集めた理由になるんだけど、公立に進学してみないか? 進路を考えていた時に思ったんだ。このメンバーで公立に進学して、甲子園に行けたら面白いだろうなって」
俺から『公立』という言葉が出て、全員が驚いている。
「面白いと思うけど、高校選びを間違えたら絶対無理だぞ。高校の目処はあるのか?」
そう言ってきたのは陽一郎だった。
「西城高校だ。あそこは去年もベスト16だし、公立でも校風が文武両道で部活にも熱心だからな。県内なら西城高校しかない」
「……西城か……確かにあの学校なら……」
誘うのは難しいと思っていたが、陽一郎は真剣に考えている。
そして、陽一郎とは別の人物が口を開く。
「なあ、公立で甲子園に行ったら女の子にモテるか? どうなんやっ? モテモテになるなら話に乗るで!」
意味不明な言動をしている奴は、大阪から中学入学時に引っ越して来た、センターで俊足の
「……モ、モテモテになるんじゃないか?」
「そうかっ、それなら西城で決定やな!」
琢磨を誘って良かったんだろうか?
そんな不安を感じていると、息がピッタリの双子の声が聞こえる。
「「それ面白そう! やろうよー!」」
二遊間を守る、
「後はキャッチャーの俺を入れたらセンターラインが固まるのか。これなら西城でも面白いかもな」
陽一郎も決めてくれたし、後は唯一の問題をクリアするだけだ。
「これで決まりだな。とりあえず琢磨は勉強しとけよ。西城高校は進学校だから入試でコケるなよ」
こう言ったけど大丈夫だろう。
西城シニアは野球だけできても試合には出してくれないチームだった。
練習だけではなく、試験前には勉強合宿もあり、全員が平均点以上は取れている。
西城高校は「特進科」「普通科」「商業科」「工業科」と分かれており、公立の進学校だけど生徒数も多い。
そして、高校の話に飽きた琢磨が急に立ち上がり全員が注目する。
「進学先も大事やけど、もっと大事な事があるんや! 俺は高校に行ったら彼女が欲しいんやー!」
そんな事を叫び出していた。
さっきもだけど、これは琢磨の病気みたいなモノで誰も気にしていない。
「彼女が欲しければ作れば良いだろ?」
「寛人! モテるくせに彼女を作らんお前には言われたくないねん! 試合に来る女の子は寛人の応援ばっかりやんけ!」
普段は入れないツッコミに琢磨が反応し、すぐさま陽一郎のフォローが入る。
「琢磨、今は西城高校の話だから聞いとけ」
「分かったわ。それで俺はどうしたら彼女ができるんや?」
琢磨は大人しくなっただけで変わっていなかった。
「今は西城高校の話をしようよ」
「琢磨の彼女はどうでもいいよ」
「なんやとー、どうでも良くないわ!」
琢磨に更なるツッコミを入れたのは、山崎翔と翼だ。
このまま琢磨の相手を任せて、俺は陽一郎と話をする。
「西城高校を見に行ってみないか?」
「そうだな、行ってみよう」
西城高校の野球部の監督に連絡をして、俺達は見学に行った。
全国優勝の西城シニアという事もあり、野球部員全員から大歓迎を受ける。
そして俺達は西城高校に入学し、今日の準決勝を迎えた。
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