第2話 進路

 ──中学3年生のある試合。



「うおぉぉぉーーー!!」


「やったぞーーー!!」


「勝ったーーー!!」


「寛人ー! ナイスピッチング!」


 チームメイト全員が、ベンチも含めてマウンドに走ってくる。


 叫びながら走って来る人、笑いながら走って来る人、泣きながら走って来る人……


 色んな喜びの感情が入り交じっていた。


 そんなチームメイト全員にマウンドでもみくちゃにされた俺の表情は、泣いているのか笑っているのか分からない。

 ただ目標を達成できた喜びで溢れていた。


 俺は、右腕を高々と掲げて叫んだ。


「「「優勝したぞーーーー!!!」」」

 

 中学3年時に所属していた西城シニアは、初の全国優勝を果たした。


 それからは県内外を問わず、強豪私立高校からスカウトが多数来ていたんだ。



 優勝した日から数日後、俺はチームメイトと進学先について話し合っていた。


「寛人、スカウトは何校来てるの?」


「15校かな。全国から来てるけど知らない高校もある」


「すげーな。俺なんて6校しか来てない」


「えっ? 俺は5校だよ。負けた……」


「寛人は多いけど、皆似たような数じゃないのか?」


「ハハハ……確かにな。でも意中の高校があればそれで良いんじゃない?」


「まあね。皆はどうするの?」


「俺は地元の東光大学附属に決めてる」

 不動の一番バッターの森下和也が答える。


「えー! 俺、東光から来てへんわ!」

 こいつは大阪から中学入学時に引っ越して来た、俊足のセンター坂本琢磨。


「でも、このメンバーで公立に進学して、強豪を倒して甲子園に行けたら面白そうだよ」

 と俺とバッテリーを組む田辺陽一郎。


「「それ面白そう! やろうよー!」」

 息ピッタリの双子の二遊間、山崎翔と山崎翼。


 俺も少し考えて答えた。


「面白いと思うけど、高校選びを間違えたら絶対無理だぞ?」


 俺の問いかけに陽一郎が答える。


「確かに……公立なら練習環境の問題や指導者、俺達以外の現有戦力も必要だし、しっかり決めた方が良いよな。寛人、どこか心当りある?」


「思い付く所はあるよ……西城高校かな。あそこは去年もベスト16だし、公立でも校風が文武両道で部活にも熱心だったはず。この辺だと西城高校以外は思い付かないな」


「西城高校か……あそこ進学校だぞ。でも俺達なら問題ないか」


 西城シニアは俺の祖父が総監督をしており、野球だけ出来ても試合には出して貰えない。


 練習だけではなく、試験前には勉強合宿もあり、強制的に勉強をさせられる為、全員が平均点以上は確実は取れている。


 西城高校は「特進科」「普通科」「商業科」「工業科」と分かれており、公立の進学校だけど生徒数も規模も大きい。


 俺達は西城高校の話で盛り上がっていた。

 そして、高校の話に飽きた琢磨が急に立ち上がり全員が注目する。


「進学先も大事やけど、もっと大事な事があるんや! 俺は高校に行ったら彼女が欲しいんやー!」


 そんな事を叫び出していた。

 琢磨の病気みたいなモノで俺達は気にしない。


「彼女が欲しければ作れば良いだろ?」


「寛人! モテるくせに彼女を作らんお前には言われたくないねん! 試合に来る女の子は寛人の応援ばっかりやんけ!」


 そんな事を言われても俺は興味がない。

 すると陽一郎がフォローを入れてくれた。

 流石は俺の相棒だと思う。


「琢磨、言ってやるな。寛人も色々とあるんだよ。今は西城高校の話だろ?」


「分かったわ。それで俺はどうしたら彼女ができるんや?」


 琢磨は大人しくなっただけで変わっていなかった。


 女の子の話をするから昔の出来事を思い出してしまう。


 誰かを好きになるのは怖いんだ。

 会えなくなった時が悲しいから。

 もう、辛い別れを味わうのは嫌だ。


 やっぱり忘れられないよ……


 遥香ちゃん……元気なのか?

 俺が甲子園に出てテレビに映ったら気付いてくれるかな……俺は元気でいるよ……



 仲間がいるのに考え事をしてしまった。

 たしか進学先をどうするって話だったな。


「今は西城高校の話をしようよ!」


「そうだよ! 琢磨の彼女はどうでもいいよ!」


 タイミング良く、山崎翔と翼が話を戻してくれた。


「何やと! どうでも良くないわ!」


「琢磨……分かったから、今は進学先の話だ。それで、どうする?」


「一度見学に行ってからでも良いんじゃないか?」


 西城高校の野球部の監督に連絡をして、俺達は見学に行った。

 

 全国優勝の西城シニアのスタメン達という事もあり、野球部員全員から大歓迎を受けて受験を決意する。



 何も知らない外野からは「まぐれ」とか「奇跡」とか言われてるが、集まった俺達は本気だった。


 数人は他校に進学したが、俺を含めた5人が西城高校に入学し、今日の準決勝を迎えたんだ。

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