7年ぶりに再会した初恋の女の子。僕は君に2回目の恋をする。
青山有季
第1話 試合の朝
「ひろとくん。大きくなったらお嫁さんにしてくれる?」
「うん、良いよ! はるかちゃんは僕が守るから!」
毎日はるかちゃんと一緒に遊んでる。
お家は隣にあって、恥ずかしがり屋で人見知りの女の子。
はるかちゃんは僕や先生としか話せない。
いつも下を向いているせいで、前髪が目に掛かっていて表情が分からない。
小学校に入っても友達が出来ず、男の子に「何か話してみろよ」とか「顔見せろ」と言われて、いつも泣かされている。
そして、いつも僕の行く所に着いてきて後ろに隠れていてた。
でも、本当は目がクリっとして、お人形さんみたいに可愛くて、笑ったらもっと可愛いくて、優しい女の子だと僕だけは知ってる。
一緒に遊んでる時はニコニコしてて、いっぱいお話もした。
僕は『はるかちゃん』が大好きだ。
◇
遠くの方から音が聞こえる。
その音が大きくなると、幼い男の子と女の子の姿が薄れていく。
音が真横から鳴っているのに気付き、何気なく手を伸ばす。
「……また夢を見たのか」
目覚まし時計を止めて、見ていた夢を思い出していた。
会えなくなってから7年が経ってるけど、遥香ちゃんは元気にしてるのかな……
今は何処に居るんだろう。
この年になっても忘れられない。
俺は今でも君が……
遥香ちゃん……君に会いたい……
ベッドに寝たまま考えてると、母さんが部屋に入ってきた。
「
母さんの言葉で眠気が消えて、急いでベッドを出る。
「そうだっ、今日は大事な試合だった!」
制服に着替えてリビングに向かうと、両親は食事をしていて、俺も自分の席に着く。
「寛人くん、おはよう」
「
話しかけてきたのは義父の
母さんの
そして俺は『
「今日の試合がんばってね。僕も時間が取れたから応援に行くよ」
「寛人、お母さんも応援に行くからね」
「ありがとう。今日の相手は強いけど絶対に勝つから」
雑談をしながらの朝食が終わり、持ち物の確認をしているとインターフォンが鳴る。
「陽一郎が来たから行くよ」
手に持ったバッグを肩にかけて、玄関に向かった。
そして靴を履いていると、母さんが真剣な表情で近付いてくる。
「
「母さん……。ああ、3人の応援があれば必ず負けないから。だから安心して試合を見てて。……じゃあ、行ってくる」
母さんと、見送りに来た透さんに挨拶をして玄関の扉を開けた。
そして陽一郎と2人で駅に向かう。
「寛人、体調はどうだ? 興奮して寝不足とか言うなよ」
「大丈夫だ。ただ、また昔の夢を見てたけどな」
一緒に居るのは、
同じ中学校の出身で、当時からバッテリーを組んでいる俺の女房役だ。
「またか。そんなに幼馴染に会いたいのなら、会いに行けば良いじゃないか。……本当に今日は大丈夫なんだろうな?」
「さっきも言ったけど、体調は万全だ。それに、会えるならとっくに会ってるさ。……簡単に言うなよ」
陽一郎は、俺の事情を知っている数少ない友人の1人。
この話が終わると、試合の打ち合わせをしながら集合場所に向かった。
到着した俺達は監督に挨拶をする。
「吉住と田辺、今日は頼んだぞ。体調はどうなんだ? ちゃんと寝れたか?」
陽一郎と同じ質問に苦笑してしまうが、監督の心配は当然だと思う。
今日は高校野球、甲子園予選の準決勝。
相手は甲子園常連の『
そんな相手と俺達は対戦する。
「良く眠れました。前の試合の疲れもなく、肩も軽いので大丈夫です」
「そうか。でも悪いな……1年生の吉住に負担をかけて……」
監督の言葉に、俺と陽一郎は顔を見合わせてしまう。
そしてお互いに頷くと、監督に想いを伝えた。
「俺達は自分で
「そうですよ。普通なら1年生を5人もスタメンには使いません。だから監督に感謝してるんです」
「1年を5人って言うけど、お前達は別格だからな。普通なら対戦相手のスタメンに居るレベルだろ……。まあ、お前達には期待してるから存分に暴れてこい」
今日は準決勝の2試合が組まれていた。
ベスト4に進出したのは、いずれも強豪の私立だけど、その中でも東光大学附属の実力は最上位の相手だ。
だから今日の試合に勝てば、甲子園出場の可能性が格段に上がる。
激戦区と呼ばれる地区で『県立西城高校』は勝ち進んでいた。
西城高校は歴史のある学校で、公立の一番手とも呼ばれているが、昨年はベスト16で敗退し、その壁を超えたことはない。
初のベスト4に進出したけど「まぐれ」や「ただの奇跡」という声も聞こえている。
しかし、俺達5人には当然の目標だった。
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