7年ぶりに再会した初恋の女の子。僕は君に2回目の恋をする。

青山有季

第1話 試合の朝

「ひろとくん。大きくなったらお嫁さんにしてくれる?」


「うん、良いよ! はるかちゃんは僕が守るから!」


 毎日はるかちゃんと一緒に遊んでる。

 お家は隣にあって、恥ずかしがり屋で人見知りの女の子。


 はるかちゃんは僕や先生としか話せない。

 いつも下を向いているせいで、前髪が目に掛かっていて表情が分からない。


 小学校に入っても友達が出来ず、男の子に「何か話してみろよ」とか「顔見せろ」と言われて、いつも泣かされている。


 そして、いつも僕の行く所に着いてきて後ろに隠れていてた。


 でも、本当は目がクリっとして、お人形さんみたいに可愛くて、笑ったらもっと可愛いくて、優しい女の子だと僕だけは知ってる。


 一緒に遊んでる時はニコニコしてて、いっぱいお話もした。



 僕は『はるかちゃん』が大好きだ。





 遠くの方から音が聞こえる。


 その音が大きくなると、幼い男の子と女の子の姿が薄れていく。


 音が真横から鳴っているのに気付き、何気なく手を伸ばす。


「……また夢を見たのか」


 目覚まし時計を止めて、見ていた夢を思い出していた。


 会えなくなってから7年が経ってるけど、遥香ちゃんは元気にしてるのかな……


 今は何処に居るんだろう。


 この年になっても忘れられない。


 俺は今でも君が……


 遥香ちゃん……君に会いたい……



 ベッドに寝たまま考えてると、母さんが部屋に入ってきた。


寛人ひろと、今日は試合だから早く起きるんでしょ? もうすぐ陽一郎よういちろうくんが迎えに来るわよ」


 母さんの言葉で眠気が消えて、急いでベッドを出る。


「そうだっ、今日は大事な試合だった!」


 制服に着替えてリビングに向かうと、両親は食事をしていて、俺も自分の席に着く。


「寛人くん、おはよう」


とおるさん、おはようございます」


 話しかけてきたのは義父の吉住透よしずみとおるさん。

 母さんの真理まりと再婚をした人で、俺は『透さん』と呼んでいるが、親子関係は良好だ。


 そして俺は『吉住寛人よしずみひろと』になった。


「今日の試合がんばってね。僕も時間が取れたから応援に行くよ」


「寛人、お母さんも応援に行くからね」


「ありがとう。今日の相手は強いけど絶対に勝つから」


 雑談をしながらの朝食が終わり、持ち物の確認をしているとインターフォンが鳴る。


「陽一郎が来たから行くよ」


 手に持ったバッグを肩にかけて、玄関に向かった。

 そして靴を履いていると、母さんが真剣な表情で近付いてくる。


西城高校さいじょうこうこうに入学するって聞いた時は驚いたけど、1年生にして手の届く所まで来たもんね。蓮司れんじさん……お父さんも含めて3人で応援してるからね……」


「母さん……。ああ、の応援があれば必ず負けないから。だから安心して試合を見てて。……じゃあ、行ってくる」


 母さんと、見送りに来た透さんに挨拶をして玄関の扉を開けた。

 そして陽一郎と2人で駅に向かう。


「寛人、体調はどうだ? 興奮して寝不足とか言うなよ」


「大丈夫だ。ただ、またを見てたけどな」


 一緒に居るのは、田辺陽一郎たなべよういちろう

 同じ中学校の出身で、当時からバッテリーを組んでいる俺の女房役だ。


「またか。そんなに幼馴染に会いたいのなら、会いに行けば良いじゃないか。……本当に今日は大丈夫なんだろうな?」


「さっきも言ったけど、体調は万全だ。それに、会えるならとっくに会ってるさ。……簡単に言うなよ」


 陽一郎は、俺の事情を知っている数少ない友人の1人。

 この話が終わると、試合の打ち合わせをしながら集合場所に向かった。


 到着した俺達は監督に挨拶をする。


「吉住と田辺、今日は頼んだぞ。体調はどうなんだ? ちゃんと寝れたか?」


 陽一郎と同じ質問に苦笑してしまうが、監督の心配は当然だと思う。


 今日は高校野球、甲子園予選の準決勝。

 相手は甲子園常連の『東光大学附属高校とうこうだいがくふぞくこうこう』で、今年も優勝候補の一番手だ。


 そんな相手と俺達は対戦する。

 

「良く眠れました。前の試合の疲れもなく、肩も軽いので大丈夫です」


「そうか。でも悪いな……1年生の吉住に負担をかけて……」


 監督の言葉に、俺と陽一郎は顔を見合わせてしまう。

 そしてお互いに頷くと、監督に想いを伝えた。


「俺達は自分で西城高校さいじょうこうこうを選んだんです。それに、俺だけじゃありません。全員で勝ち上がって来たんです。陽一郎もそう思うよな」


「そうですよ。普通ならもスタメンには使いません。だから監督に感謝してるんです」


「1年を5人って言うけど、お前達は別格だからな。普通なら対戦相手のスタメンに居るレベルだろ……。まあ、お前達には期待してるから存分に暴れてこい」


 今日は準決勝の2試合が組まれていた。


 ベスト4に進出したのは、いずれも強豪の私立だけど、その中でも東光大学附属の実力は最上位の相手だ。


 だから今日の試合に勝てば、甲子園出場の可能性が格段に上がる。


 激戦区と呼ばれる地区で『県立西城高校』は勝ち進んでいた。


 西城高校は歴史のある学校で、公立の一番手とも呼ばれているが、昨年はベスト16で敗退し、その壁を超えたことはない。


 初のベスト4に進出したけど「まぐれ」や「ただの奇跡」という声も聞こえている。


 しかし、俺達5人には当然の目標だった。

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