第28話 生命の勇姿
ミキトが足を切断した、カオスグループが視線の先にいる。
いつの間にか足は再生しており、二足歩行で立っている。
少年はそのカオスグループを指差したのだ。
カオスグループは剣を持ち、構えた。
銀色の少年はモコモモが瞬きをしている間に、膝をカオスグループの顔面に入れていた。
「え」
疑問符を挟む余地なく、思わず声が出た。
顔を潰されたカオスグループが、真後ろに、背中から倒れる。
手から剣がからんと落ち、カオスグループはぴくりとも動かない――。
「隙だらけだったな」
少年を見て思う。
……おかしいな、バケモノって、こんなに弱かったっけ?
「あー、と。俺はギン。お前は?」
「モコ、モモ……」
「じゃあ、モコモモ。あっちでパニックになってる人たちが解決したら、4Fの船長室にいって、そこにいるヒーロに、ちょっと遅れるって言っといてくれ。俺はまだやることがあるから」
「それは、別にいい、ですけど……」
未だに事態が飲み込めず、ぼーっと、返答してしまうモコモモ。
だが意識はすぐに戻ってくる。
抱いているミキト、シゲハル、アンの頭部を見たからだ。
自分だけが助かっていいのか? 他の人を見捨てていいのか?
そう彼らが言っている気がした。
「……見捨てるわけない」
「ん?」
「ううん。……ギン……だよね」
ギンは頷いた。
「こんなことを頼むのはお門違いかもしれない。ハンターであるわたしたちがやるべきことなんだと思う……でも、まだ弱くて、なにも、できないから……」
だから!
「――ギン、お願い! このアクア99を、助けて!」
ハンターでもない、だけどバケモノよりも強い、どこの誰かも分からない初対面の少年に、モコモモは気持ちをぶつける。
もう、背に腹はかえられなかった。
ハンターでなくともいい。強さがあれば、それが正義なのだから。
その願いに、ギンは、
「まあ、結果的に助けることになるのかもなあ。
でも、別にこの潜水艦を救う目的で、あいつらを倒すわけじゃないからな?」
じゃあ、なんのために? とモコモモは聞く。
「なんのために? か……、なんのためなんだろうな。
……うーん、俺よりも強そうだから? それが一番、近いかな。
強いやつがいるなら戦う、倒す。その過程で誰かを救うこともある。今回はモコモモだっただけ。……んで、これから先はたぶん、この潜水艦を偶然、一緒に助けると思う」
確実な約束はできないけどな、とギンは笑う。
モコモモは、レベルが違う言葉と意思に、言葉を失ってしまっていた。
けれど、悪人ではない。
純粋過ぎるから、同じ目線で話せないのだ。
彼と自分は、見ている世界が違う。
レベル・ブルーとレベル・レッドの差なんか可愛く見えるほどの明確な差がある。
距離ではなく、そもそもいる足場の高さが違うのだ……、
その違いが、はっきりと分かってしまう。
でも、悪人ではないから。
ギンという人格に、ミキトを重ねたから。
モコモモは信じて任せることができた。
「ギン、ありがとう」
そして、モコモモは避難している人たちの元へ戻る。
自分の仕事を、最後まできちんと片付けよう。
「さて」
ギンは辺りを見回す。三人の死体を見つけた。
モコモモは大事そうに頭部を抱いていた。だから一緒に持っていくのかとも思ったが、思ったよりも彼女の思い切りが良く、その場に置いていった。
三人の頭部が、綺麗に横に一列、並んでいる。
「良い顔してるなあ……、やり切って、満足した顔だ。モコモモのことを命を懸けて守れて、やり遂げたって感じだな。そんな風に命を懸けられるのって、すげえよ。……男は、女のために命を懸け、死ぬ、かあ……。なんだよそれ、すっげえ、格好良いじゃねえか」
ギンは三人の頭部を、切り離された体の首の上へ置く。もちろん、くっつくわけではない。ただ置いているだけで、破かれた写真を繋げるように、ツギハギな部分は分かってしまう。
でもいいのだ。
こうして人の形として死ぬことが、ギンが思う、供養だった。
「称賛するよ。お前らは、最高の死に様だった」
そして、ギンは天井を見る。
――2F。
戦の渦中はそこにある。
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