初夜が明けて
カーテンの隙間から光が射す。
僕は重たい瞼をゆっくりと開けた。
目の前に、大好きな人の寝顔がある。
良かった、夢じゃない。
まず僕の頭の中に浮かんだ言葉は、それだった。
眠っていても、しっかりと抱きしめていたみたいだ。アデラインは僕の胸の中ですやすやと寝息を立てている。
無意識の時でさえアデルを離そうとしない、そんなアデラインが好きすぎる自分に、我ながら感心してしまう。
「ふふ、寝顔も可愛い」
大好きな人がしどけなく眠る姿に、知らず笑みが溢れた。
少しだけ抱きしめる力を強めて、そっと頭に頬ずりをする。
アデラインの肌は滑らかで、どこもかしこも柔らかかった。
初めての夜。
僕は経験がないなりに必死に頑張った。
自分が気持ちよくなるよりも、まずアデラインを喜ばせたくて。
何度も何度も口づけて、大好きだと囁いた。
最初はおどおどしていたアデラインも、だんだんとうっとりした表情になって、それがたまらなく嬉しくて。
あとはもう、新しい扉がどんどん開いていくだけだった。
何が一番嬉しかったかって言うと、それはアデラインの言葉。
繰り返し、セスが好きだと言ってくれた。
でも、涙を零した時は、本当にびっくりしてしまって、どうしたら良いのかと途方にくれた。
そんなに痛くて辛くて大変な行為なのかと、途中で引き抜こうとしたくらいだ。
だけど。
だけどアデルは。
大丈夫、そのまま続けて、これは嬉し涙だから、と言った。
セスが好きで、こうしていられるのが嬉しくてたまらないのだと言ってくれた。
そんな事を言われたら、僕だってもう止まれない。止まれっこない。
もし、アデルがやっぱり止めてと言ったとしても、もう僕は僕自身を抑えられなかっただろう。
いや、言われなかったから良かったけど。うん、本当に良かったけどさ。
やっと一つになれた時、僕たちは固く抱きしめあって、見つめあって、そして、ただ笑った。
閨の勉強は座学だけで終わらせてたから、いざという時ちゃんと出来るのかって少し不安だったのは本当だ。
ても、良かった。
初めての相手がアデラインで、本当に良かった。
貴族としての嗜みだと言われようと、これも一つの勉強だと諭されようと、実践を断っておいて、本当に、本当に良かった。
それに、きっと。
僕は昨夜の様子を思い出し、顔に熱が集まるのを感じた。
アデラインは、喜んでくれた・・・と思う。
自惚れでなければ。
いや、これでただの自惚れだったら、情けなさすぎる話だけどさ。
昨夜の行為を思い出した僕は、高まる熱を振り払うようにぶんぶんと頭を振る。
それから、腕の中のアデラインにもう一度視線を向けた。
ぐっすり寝てる。
きっと、昼くらいまでは起きられないだろうな。
僕は、アデルの額にかかる黒髪をそっと指ではらった。
夜通し愛し合った僕たちは、今もまだ、どちらも裸のままだ。
素肌を通して感じるぬくもりに、じわりと心が温かくなる。
うっすらと射しこむ光の中、アデラインの首すじに僕がつけた印が見える。
やっと、本当の意味で僕のものになった、僕の奥さんであることの証。
独占欲丸出しの印を、僕はアデルの身体に幾つつけたのだろう。
ああでも、ここは隠すのが難しそうだね。
後でアデルに怒られちゃうかな。
でも仕方ないよね。
やっと。
やっと、アデラインに思う存分触れられる権利を手にしたんだから。
これでまた我慢してとか言われたら、即行で死んじゃうと思う。
首から上しか触らない、とか、そんな制限はもう要らない。
アデラインを愛でる権利は僕にある。
そして、僕を求める権利はアデラインに。
「ん・・・」
アデラインが、軽く身じろいだ。
起きるかと思って顔を覗き込む。
だけど、やっぱり目を覚まさない。
それはそうだ。
明け方近くまで、たっぷり愛し合ったもの。
ああ。
アデルの寝顔なら、どれだけでも眺めていられそうだけど僕はそろそろ起きないと。
僕が側にいる方が、却って君の身が危なくなりそうだからね。
不埒な考えが僕を支配する前に、ベッドから抜け出そう。
アデルの額にそっと口づけを落とし、僕は静かにベッドから出る。
取りあえず床に落ちていたガウンを拾い、それを着た。
寝室を出て、二人用の居室を抜け、当主用の部屋に入る。
そこのワードローブに掛けてあった服を手に取り、軽く身繕いを整えた。
あまりに嬉しすぎて、幸福すぎて、どこか現実離れしていた時間。だけど。
ここに来て、やっと、やっと、本当なんだと思える。
これは紛れもない現実なんだと。
新しい部屋。
新しい立場。
新しい関係。
昨夜、アデラインは僕の妻に、僕はアデラインの夫になった。
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