義父の頼み



窓から朝日が射しこむ。



僕は軽く寝返りを打った。



ウトウトと微睡みながら、もうそろそろ起きる時間かなと頭の中で考えて。



サイドテーブルの上にある時計を薄目で見た。



いつもの起床時刻まで、あと10分。



寝起きは悪い方じゃない。


でももうちょっとだけ、そう思って目を瞑ろうとしたその時だった。



控えめなノックの音。


そして、僕の返事を待たずに開いた扉。



・・・誰?



眉に微かな皺を寄せながら、閉じかけていた瞼を開く。



・・・っ?



「義父・・・上・・・っ⁉︎」



僕は一瞬で目が覚めた。



義父がどうしてここに?



「義父上、どうかなさいましたか?」



慌てて起き上がって上着を羽織った僕は、寝起きの少し掠れた声でそう問いかけた。



なんだろう。


心なしか、義父の顔色が悪いように見える。



というか、なんで義父がここに?


僕の部屋まで来るのって、これが初めてじゃないか?



「・・・セシリアン」



びっくりする程の低い声。



僕は目を僅かに瞠り、義父を見上げた。



「義父上?」


「あの子の側にいてやってくれ」



え・・・?



「義父上、それはどういう・・・」


「昨夜、あの子が私の部屋を訪ねてきた」


「・・・っ」


「・・・私は優しい言葉をかけてやれなかった」


「・・・それは」


「セシリアン。あの子の側についてやってくれ・・・私の代わりに」



それだけ言うと、義父は踵を返した。



「義父上・・・っ!」



それだけじゃ何も分からない。


アデルが義父の部屋を訪ねた理由も。

義父がどんな言葉をかけたのかも。



何も分からないまま、ただ側にいろと?



「お待ちください! 何があったのですか? 一体、どんなやり取りを・・・っ!」



だが義父の足は止まることなく。


扉は音を立てて僕とあの人とを隔てた。



「義父上・・・」



取り敢えず急ぎ身支度を整え、廊下へと飛び出した。



そのまま勢いよく階段を降り、僕の様子に驚いて目を見開くメイドたちを他所に、義父の部屋の扉を叩いた。



なんの返事もない。だが、それに構わず扉を開く。



義父はそこにはいなかった。



踵を返し、ダイニングルームに向かう。



だが途中、エントランスを横切ろうとしたところでショーンと鉢合わせした。



「・・・ショーン? どうして外から?」


「おはようございます、セシリアンさま。旦那さまの登城時間が早まりましたのでお見送りを」


「・・・」



逃げたな。



「そうか・・・帰りは遅くなるって?」



ほぼ答えの分かっている問いを、それでも敢えて口にする。



「いえ。暫くは仕事が忙しくなるため、城にお泊まりになるそうで」


「・・・そう」



本当に。


何を考えているんだ、あの人は。



「セシリアンさま?」



なんでもない、そう言おうとして口を開いて。



でも途中で思い返した。



「先ほど義父が僕の部屋に来られてね」


「旦那さまが?」


「昨夜遅くにアデルが義父上の部屋を訪ねてきたそうだ」


「え?」


「優しい言葉はかけられなかったと仰っていた。そして、僕にアデラインの側にいて欲しいとも」


「そう、ですか。ではセシリアンさまは」


「今からアデルの様子を見に行ってくる。ショーンも事情は頭の中に入れておいて」


「分かりました」



僕は階段の手すりに手を置き、上ろうとして。



「セシリアンさま」



ショーンの声が後ろから届いた。



「アデラインお嬢さまを、よろしくお願いいたします」



僕は肩越しに振り返る。



「どうか」



真剣な眼差しの彼に向かって、僕は深く頷いてみせた。

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