幸せの余韻


初めてアデラインの唇にキスを落とした後、僕たちはおでことおでこをくっつけて、静かに笑った。



何だか照れくさいのに、それが心地よくて、どうにも不思議な感覚で。



ドキドキするのに、目の前の好きな人が視界から消えるのが怖くて目が離せない。



たった今キスしたばかりなのに、もうその温かさが恋しくて。



つい欲が出て、もう一度唇を重ねた。


唇って、こんなに柔らかいんだね。



いや、アデラインの唇が特別なのかな。



「・・・ふふ」



思わず溢れた笑みに、アデラインが眼をぱちぱちと瞬かせる。



そんなに不思議?


でもね、嬉しいんだ。だって。



「これでもう義弟は卒業かな」



そう思ったから。



「卒業したら何になるの?」


「それはもちろん、お婿さんだよ」


「・・・まだ結婚してないわ」



赤くなってる。可愛い。



「う~ん、まあそうだけどさ。気持ちの問題ってやつ?」


「気持ちの問題・・・なら、わたくしはセスの義姉を卒業してお嫁さんになったのね」


「・・・」


「セス?」



自分で仕掛けておいて何だけど。


本当にただの惚気になっちゃうけど。



この可愛い生きものは一体どこの星から来たんですか、って問いたくなるよ。



「セス?」


「・・・うん」


「どうしたの」


「いや、うん。幸せだなぁって思って」


「・・・」


「アデル?」


「・・・わたくしも。わたくしも・・・とても幸せよ」


「・・・」



どうしよう。


これ、理性が保つ自信がない。



ああ、でも。

幸せって、本当はこういうものなんだね。



目の前で好きな人が笑ってる。


ただそれだけで。

ただそれだけのことが。


僕をこんなにも幸せな気持ちにさせてくれる。



「大好きだよ、アデライン」


「ありがとう、セス。わたくしを好きになってくれて。わたくしもセスが大好きよ」



それは僕たちの魔法の言葉。



それだけで全てが乗り越えられる訳じゃないけど。


そんなこと、もうとっくに知っている。



「・・・お父さまから嫌われていても、わたくしにはセスがいるものね」



ほら。


いつも君の心のどこかを占めている義父の影が顔を出した。



彼は君の父親で、僕は君の婚約者。



だから。


僕がいればいいでしょ、なんて言葉は、少しズレているかもしれないね。



だってそれぞれの役目も注ぐ愛情の形も違うもの。



アデラインだって分かってる。


僕は義父の代わりにはなれない。


僕は僕だから。


僕が君に注げるのは、ひとりの男としての愛情だから。



だから、僕が言える言葉はこれだけ。



「僕はずっとアデラインの側にいるよ」



ずっと離れない。


だって、君の旦那さんだもの。



アデラインは花のように笑った。

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