こういう事か
障害を全て取り除き、晴れて婚約者同士となったアンドレとエウセビアを乗せた馬車を見送る。
キスで先を越されたという敗北感は、この際、置いとくことにしよう。
素直に祝福してやるよ、うん。
そんな僕の視線は小さくなっていく馬車を追いながら、意識は当然、隣で同じ馬車を見送るアデラインへと集中する。
あんな話を聞いた後は、余計に意識しちゃうよ。
まあでも仕方ないよね。
僕は僕だ。
今まで通り、少しずつ距離を縮めて・・・
あれ?
今まで、どんな風に話をしてたっけ?
どんな顔で話しかけてたっけ。
普段、どんな話をしてたのか、どうやって話題を広げていたのか。
あれ?
なにこれ、緊張? 今さら?
「・・・」
「・・・」
なんかアデルも、エウセビアから何か聞いたっぽい?
いつもより無口になってないか?
いやいや、ダメ駄目ダメ。
アデラインに気まずい思いをさせちゃ駄目だ。
何でもいい、何か話さないと。
「あ、え~と、その、今日は・・・い、いい天気だね?」
しまった。
そう言ったばかりの僕たちの横を、ビュウッと風が吹き抜ける。
さっきから空が曇って風も強くなってきてるのに、何でよりによってこの言葉をチョイスしたんだ。
「え、ええ・・・そうね」
アデル・・・
頷いてくれるんだ、優しいな。
って、駄目だろ!
アデラインにフォローさせてどうするんだ。
落ち着け、落ち着くんだ、僕。
「ええと、か、風が強いから早く屋敷の中に戻ろう?」
そう言って腕を差し出す。
紳士らしくエスコートだ。
「そうね」
そっとアデラインの手が伸ばされ、僕の腕に絡まる。
アデラインの香りが鼻を擽る。
・・・何でそれだけで顔が熱くなるんだ・・・っ?
何だよ、これ。
こんな僕、僕は知らない。
こんな不器用で、辿々しくて、言葉ひとつに戸惑うなんて。
僕はもっと上手く口が回る奴だろ。
そんな不安が僕を襲っていた時。
アデラインが僕に絡めた手に、ぎゅっと力がこめられる。
「・・・?」
それから、そっと肩にアデルの頭が寄せられて。
どくん、と胸の鼓動が速まる。
え・・・?
なにこれ、可愛い。可愛いんですけど。
もうちょっと、このままでいたい・・・なんて僕の我儘かな。
「あ、その、このまま少し庭でも回ろうか・・・って、風が強かったんだよね。はは、なに言ってんだろ・・・」
自ら墓穴を掘り、どう続けたらいいか分からなくなって。
焦りばかりが募って、頭がパンクしそうになった、その時。
「・・・温室はどうかしら」
他でもない、アデルがそう言ってくれた。
まだ一緒にいたいとアデルも思ってくれてるの?
「うん・・・行こっか」
何でだろ、急に肩の力が抜けた気がする。
僕たちは温室に向かい、そこにテーブルを用意させてお茶を飲むことにした。
それまでは温室内を散策だ。
「あ・・・これ、前にアデルが好きだって言ってた花。咲いたんだね」
「あ、本当だわ」
アデラインの口元が綻ぶのを見て、するりと言葉が出た。
「綺麗だね。清楚で、凛としていてアデルみたいだ」
「・・・」
アデルが固まった。
いや確かに、さっきまでの醜態を思うと、そんな台詞がするりと出てきた自分に、自分でもビックリだけど。
だけど今はそれよりも。
そっとアデルの顔を覗き込む。
頬を赤らめて、困ったような顔をして僕を見る。
僕の口元が自然と緩む。
もう7年近く側にいるのに。
こんな僕の一言で、まだそんな反応をしてくれるんだね。
ああ、大好きだよ。アデライン。
僕はそっと顔を寄せた。
アデラインが驚いたように目を見開いて。
それから目を閉じる。
ああそっか。こういう事か。
--- なんだか嬉しくて、こう、堪らなくなって、その気持ちのままに抱きしめて、こう、ぶちゅ~っと ---
分かったよ、アンドレ。
お前の言った事が。
なんだか嬉しくて、堪らなくなる。
こういう事なんだな。
僕は気持ちのままにアデラインを抱きしめて、そして。
唇を重ねた。
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