紳士になりたい



・・・まずい。



昨夜の妄想のせいなのか、初めてのアデラインからのキスに期待値が高まったせいなのか。



アデラインの顔がまともに見られない。


見ようとすると、一気に顔が。


僕の顔が。



「・・・セス?」


「うわぁっ、は、はいっ」



朝の食事中。



言葉少なでいる僕を不思議に思ったのか、アデラインが声をかけてきて。



それに驚いて、僕は大きな声を出した挙句、ガタンと椅子から立ち上がった。



「・・・どうしたの、セス。何か変よ?」


「あ、あはは・・・」



ごもっとも。

挙動不審すぎて、自分でも笑えてくる。



なんだよ、これ。


今さらじゃないか。

なんで今さら、こんなに女性としてアデラインを意識してるんだ。



最初に会った時から、彼女は僕の唯一で、大好きな女の子で。



幸せにしたくて、笑ってほしくて。


ずっと、ずっと、大事で時別だった。



なのに。



・・・困った顔が、泣いた顔が見たいだなんて。



こんな野獣な僕は嫌だ。

アデラインに嫌われたくない。怖がられたくない。



困った時にはいつでも頼れる様な、アデラインだけの紳士でいたいのに。



・・・ああもう。


昨日、変な想像したから。



「セス? 具合が悪いのなら、部屋に戻った方がいいわ」



アデラインの手が僕の腕に触れる。


心配そうな顔で覗き込む。



いつもの風景。

いつもの距離。



なのに、僕の顔はそれだけで真っ赤になる。



「・・・セス?」


「だ、大丈夫・・・」


「本当?」



そう言って、顔を寄せる。



ああ、嘘です。嘘です。


大丈夫じゃないです。



ずざさっと後ずさる僕を、アデラインが不思議そうに見つめてきた。



これは良くない。


変な行動をしたらアデラインを不安がらせるし、かと言って僕の信頼度が崩れるような事態になってしまったら、それこそアデラインは僕から逃げて行ってしまうかもしれない。



由々しき事態だ。

緊急案件だ。



僕は何とかして紳士になり切らねばならない。



アデラインとの幸せな未来のためにも。



だけど、どうしたら上手く出来るだろう。


一人ではいい方法を思いつける気がしない。



誰かに相談してみるか?



アンドレ・・・いや、ないない。あいつは無理。きっと僕と同じレベルかそれ以下だ。



だとしたら・・・。



・・・あ。



僕は、人付き合いの上手い、且つ要領のいい次兄の顔を思い浮かべた。



そうだ、トル兄だよ。

トル兄がいたじゃないか。


こういう相談に、まさに打ってつけの人物だ。



何にせよこれは緊急案件。


僕とアデラインの幸せな結婚がかかってるんだ。



すぐに連絡を取って、明日にでも会ってもらおう。

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