これは眠れない案件



あの後、アデラインはすぐに自分の部屋に戻り、僕は今、一人ベッドの上でぼんやりしている。



・・・初めてだ。


初めて、僕が何もしないうちから、アデラインにほっぺにちゅーしてもらった。



胸はドキドキ。

目は爛々。

頬は緩みっぱなしで。


ああもう。


これはもしかしたら。

朝まで眠れないかもしれない。



だって。

だって、すごい事が起きちゃったんだもの。


僕の挨拶に応えるだけで精一杯だったアデラインが、自分からちゅーするなんて。



これはすごい。

僕的には特大級にすごい事だ。



枕をぎゅっと抱きしめ、へにゃりと笑う僕の姿は、きっと第三者から見たらただの変な人だろう。



だけど、どう頑張っても頬の筋肉を締められそうもない。


努力しろと言われても無理。



「夢みたいだ・・・」



たぶんだけど、あとニ、三日は、頬が緩んだままかもしれないな。



「みっともないとこ見せちゃったのに、あんなご褒美をもらっちゃうなんて。幸せすぎて死ぬかも・・・」



何の前触れもなく頬に触れた柔らかい感触を思い出し、再び胸の鼓動が早くなる。



ああ、マズい。

心を落ち着けなきゃ。


これじゃ本気で朝まで眠れない。



大体、初めて自発的にほっぺにちゅーしてもらったからって、こんなにうろたえるのも男としてどうかと思うんだよ。


ふふん、このくらいって軽く流せればいいのにな。



うん、そうだよ。


だって、あと一年と少ししたら、さ。


ほっぺにちゅーどころじゃない。


僕とアデラインは・・・。



「・・・結婚、するんだ・・・」



ぽつりと言葉が漏れ、口と耳でその響きを確認して、ぼっと顔に熱が集まった。



いや、待て。


どうしよう、だって。


だって、結婚ってよく考えたら、いやよく考えなくても。



ほっぺじゃなくて、くちびるに、くちびるにちゅーとか。


いやそれ以上に、アデラインの夫として、夫婦のあれやこれやが・・・。



「・・・う・・・」



・・・あれやこれやが。



僕は両手で顔を覆った。



「うわあああああああ・・・」



足をバタバタさせ、みっともないことこの上ないけど。



だけど、想像しただけで、胸がどきどきして死んじゃいそうで。



「ああもう、どうしよう・・・これじゃますます眠れない・・・」



こうして、心を落ち着けるどころか、僕は更に自らを煽るようなことを考えてしまった結果。


予想通り、僕は明け方近くまで眠ることが出来なかった訳だ。



朝になって顔を合わせた時、アデルは僕の目の下にある隈を見て驚いてたけど。



僕はへらりと笑った。



心配しないで、大丈夫。



気分は悪くない。


むしろ最高なんだから。


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