お婿さんまであと少し



--- ご両親の許可を頂けましたら、いつでもお婿さんに来てくださいませ ---




ジョルジオとの4回目の話し合いの前日にそんな伝言をもらってしまったら。



・・・そりゃあ頑張っちゃうよねえ。



まとめた荷物を積み込み、義兄の後からいそいそと馬車に乗り込むアンドレの後ろ姿を見つめながら、頭の中ではそんなことを考えていた。



まあ、アンドレとジョルジオから話を聞く限りデュフレス公爵夫妻は人の好さそうな感じがするから、さほど時間をかけずとも説得は出来るだろうと僕はふんでいる。



でも、アンドレが居なくなるのはちょっと寂し・・・いやいやいや、何を言ってるんだ、僕は?



ようやく肩の荷が下りた、の間違いだろう?


エウセビアからの伝言を聞いて、その後しばらくの間、真っ赤な顔して雄叫びを上げながら庭を走るような笑えるヤツが、やっと家に帰るんだぞ?



大体、アンドレなのに僕より先にお婿さんになれちゃうとか、ちょっとズルい気がするんだけど。



僕たちの結婚は義父の言う通り来年になるとして、まあそれはいい。とにかくアデラインと結婚出来るなら最高なんだから。



だけど、だけどさ。

アンドレたちがまさかこの勢いに乗って今年中にゴールインとかってさ、棚ぼたすぎて素直に喜べないというか何というか。



・・・僕だって、出来ることなら今年中に結婚したいのに。


毎日、必死で理性と本能が闘っているのに。



だからせめてアンドレ、お前たちも来年くらいまでは我慢しろよ。



・・・なんて、つい思っちゃう僕は、きっと心が狭いんだろうなあ。



はあ。


好きな人が関わる話だと、どうしてこんなに余裕が無くなるものなのか。



まあ、こんなのただのやっかみみたいなモノだからな。



絶対に口にしたらダメ、応援するんだから。



・・・うん、アンドレ。



とにかく、頑張れ。


頑張ってご両親を説得して来い。





僕が、そんなことを考えながら見送った後もぼんやりしていると、隣で同じく見送りをしていたアデラインが悪戯っぽい笑みを浮かべて僕の顔を覗き込んできた。



間近で目にする可憐な微笑みに、僕の心臓がどくんと跳ねる。



「な、なに?」


「寂しそう。アンドレさまが帰ってしまうの、そんなに残念なの?」


「・・・まさか」


「きっとまた直ぐに訪問して下さるわ。今度はエウセビアさまと一緒に」


「・・・分かってるよ」



少し拗ねたような口ぶりになってしまったのは失敗だった。



アデラインがふふっと楽しそうに笑う。



「もう、セスったら。そんなに寂しがらないで。ここに義姉さんがいるでしょう?」



そう言ってアデラインは僕の頭をよしよしと撫でた。



・・・もう、僕の方が背が高いのに。



ボディタッチはもちろん嬉しい。


問答無用で嬉しいよ。


でもね。

その余裕な態度がちょっと悔しくもある。



だから、アデラインの恥ずかしがる顔が見たくなって、ちょっと意地悪を言ってみた。



「義姉さん。確かに僕は義姉さんの義弟だけどさ」


「ええ」


「忘れてないかな。来年には僕は義姉さんの夫にもなるんだよ?」


「・・・」



僕の頭を撫でていた手がぴたりと止まる。



そして、みるみる頬が朱色に染まって。



ぽぽぽって頬が染まる音が聞こえる気がする程だ。



「ふふ。アデライン、可愛い」



僕は一瞬で上機嫌になった。



その顔が見たかったんだよ。


世界一可愛い、未来の僕の奥さん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る