その頃のエウセビア
「こちらですわ、アデラインさま」
約束した植物園の入り口で目当ての人物を見つけたアデラインは、ホッとした顔でエウセビアに駆け寄った。
「会えて嬉しいです。お元気でしたか?」
3回目のジョルジオの訪問が終わり、明後日に4回目を控えているという段階で、アデラインはエウセビアの様子が気になって外で会う約束をしていた。
要らぬ諍いのタネにならない様に、今日会うのはエウセビアとアデラインの二人だけだ。
それぞれが連れてきた護衛は入り口で待ってもらい、二人はバラ園へと入って行った。
「相変わらず綺麗な薔薇ですね。あの時とは少し種類が違っていますが」
「温度管理がなされているので一年中花が楽しめる様になっていますが、来園客を飽きさせないためにそれぞれの品種の咲く時期をずらしているそうですわ」
話しながら進んでいくと、いつかアンドレがエウセビアへの花束に選んだ白薔薇が植えられた区画になった。
「あの白薔薇ですわ。やっぱり、とても綺麗。気高くて、凛としていて、本当にエウセビアさまの様ですわ」
「まあ、嬉しいですこと」
少し恥ずかしそうにエウセビアが微笑んだ。
「アンドレさまはどうしてらっしゃいますか? ジョルジオさまを泣かせたりする様な事はしてませんよね?」
「あ・・・」
口籠るアデルに、エウセビアはやっぱり、と溜息を吐いた。
「流石エウセビアさま、よくお分かりですね。わたくしもセスから聞いたのですが、ジョルジオさまは少し涙ぐんでらしたそうですわ」
「まあ」
「昨日、3回目の話し合いがあったのですが、ものの15分で終わってしまって。話し合いの時間もじわじわと短くなっているらしく、セスが気を揉んでいました」
「・・・それでしたら、じきに決着がつくかもしれませんわね。もしかしたら、次かその次の話し合いあたりでジョルジオさまが折れて下さるかもしれません」
嬉しそうにエウセビアはそう言うのだが、アデラインは言われたことの意味が掴めず、ぽかんと口を開けた。
「・・・え?」
我ながら間の抜けた声が出て、アデラインは思わず口元を抑える。
「いつものパターンですのよ。たいてい最後はジョルジオさまが折れるのですわ・・・勿論、アンドレさまが道義に反した主張や要求をなさった事は一度もありませんでしたけれど」
「・・・はあ」
「アデラインさまももうご存知でしょう? アンドレさまはすこし困った所がある方ですけど、進む方向を間違えたりはしませんわ・・・少し逸れることはありますけどね」
エウセビアは、屈んで白薔薇の匂いを嗅いだ。
「間違っていれば最後まで反対もするでしょうけれど、面白いことにそんなケースは今までなかった様に思います。基本、ジョルジオさまは心配してまずは止めようとされますが、最終的にはアンドレさまに協力して下さるのですわ」
「・・・そうなんですか」
「それでは、次はアンドレさまのご両親ですわね・・・ああ、うちの両親は説得済みですので、そうお伝えくださいね?」
「そうなん・・・っ・・・え?」
驚いて少し声が上ずったアデルを見て、エウセビアはくすりと笑う。
そして立ち上がると、アデラインの方に身体を向けて微笑みながらこう告げた。
「ええ、わたくしの家はもう何の問題もありません。父も母も
うふふと恥じらいながら、続く台詞を口にした。
「アンドレさまのご両親の許可をいただけましたら、いつでもお婿さんに来てくださいませ、と」
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