シフトチェンジ




アデラインが、僕のことを好きになってくれたのかもしれない。



そう思ってから、一週間。



セスの心臓は、パンク寸前だった。



も・・・無理。

刺激が強すぎる。



セスはそっと胸を押さえた。



いつか自分に振り向いてくれたら、とは思っていた。


自分の気持ちに応えてくれたら、と。



だけど、アデラインがこんなに積極的になるなんて計算違いもいいとこだ。



しかも、顔を真っ赤にして、プルプル震えながらだなんて。



朝のお早うと夜のお休みの挨拶に、お返しがあった事だけでも衝撃的だったのに。



あれから暫くは、通常モードに戻っていたから、ちょっと残念・・・いや、ホッとしたけど。



なんだろう、最近、眠そうな顔で部屋から出てくる事が多いなって心配してたら、時々、妙にドキッとするような言葉を口にするようになった。



それから、ドキッとするような行動も。



今も、指を絡めて手を繋いで、いわゆる『恋人つなぎ』をしている状態で、庭を散歩している。



場慣れしてるとか、余裕があるとか、そういうのじゃなくて。


相変わらず恥じらいながら、戸惑いながら、でも、それでも気持ちを表現しようとしていて。



・・・頑張れ、僕の理性。



そう言い聞かせるので精一杯だ。



「セス・・・」


「・・・なあに? アデライン」


「あのね」



なのに、アデラインは。


アデラインは、いとも容易く僕の理性を揺さぶる。



「ずっと、私の側にいてね」


「・・・っ」



アデライン。


もう、聞いてみてもいいかな。



「・・・アデラインが望むなら、いつまでも側にいるよ」



だから。


確認してもいいかい?



「・・・アデルは、一年半前に義父から言われた話は覚えているかな」


「父、から・・・」



僕よりも更に侯爵と会う機会が少ないから、言われたらすぐに分かるだろう。



アデルは頷いた。



「あの時に言われたリミットのことだけど」


「リミット・・・もし、誰か他の人を選ぶ場合は、式を挙げる一年前までに言わなけば認めない、そうお父さまが仰った期限のことかしら」


「うん」



僕は、アデラインと繋いだままの手に、ぎゅっと力を込めた。



「あれは僕たちが17歳になる時のことを言っていた。つまり、もうあと半年もない。・・・もし、アデル、君が僕以外の男性と結婚したいと思っているのなら、それを義父に言える期限は迫っている」


「・・・それはセスも同じよね?」


「うん、そうだね。でも、僕はずっと、君と結婚する日を夢見ていた。もし・・・もし、君が、いや、何というか、その・・・」



僕をじっと見つめるアデラインの視線が強くて、上手く言葉が紡げない。



「つまり・・・アデラインは、その」



しっかりしろ。



「・・・アデラインは、今も、僕に他の素敵な令嬢を見つけて欲しいって、思ってる・・・?」


「・・・」



沈黙が怖い。


思ってるって言われたらどうしよう。


期待が高まった分、欲が出た分、ショックが大きそうだ、けど。



本当は、ギリギリ一年前まで、この質問をしないつもりだったけど。



でも、もしかしたら。


もしかしたらアデラインも。


アデラインも僕を。



「・・・見つけて欲しいなんて・・・思って、ない」



ぽつりと聞こえた。


確かに、そう聞こえた。



「本当は・・・今まで一度も、そう思ったことはなかったの。でも、言わなくちゃ、ずっとそう思ってた。セスの幸せのために。だけど」


「・・・」


「私の、側に・・・ずっと、いて欲しい。義弟として、ではなく」


「・・・ではなく?」



続きを促す。


アデラインの顔が、これ以上ないくらいに赤く染まる。



ずるくてごめん。


言わせようとして、ごめん。


でも、アデラインの口から聞きたいんだ。



「わた、わたくしの・・・夫と、して」


「・・・っ!」



がばりと抱きついた。


嬉しくて、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。



「セ、セス・・・く、るし」


「あ、ごめん」



嬉しくて、加減を忘れた。



力を緩める。


ほっと息を吐いたアデラインは、それでも僕の腕の中にいてくれる。



「ありがとう、アデライン」



夢みたいだ。



「ありがとう」



夢で終わったら困るけど。

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