夜更かしタイム
恋の教本として購入した小説は、なかなか面白く、疑問点を書き出したりツッコミを入れたりしながら読んでいたら、つい夜更かししてしまった。
気がつけば、日付が変わる時刻になっている。
もちろん湯浴みは済ませ、夜着に着替えてベッドに潜り込んでからの読書だったけれど。
これはいけない、と慌てて小説をまとめてサイドテーブルに乗せる。
さて横にならなくては、とブランケットに潜り込み、ふと読み終えたばかりの小説の話を思い出した。
まだ数冊しか読み終えてないが、男性主人公は皆、流石と言おうか、格好良くて、頭が良くて、冷静で、強くて、ヒロインの危機には颯爽と駆けつけるタイプばかりだった。
あ、一冊だけ、心に傷を負っている無口で暗いタイプがいたっけ。
対するヒロインは、美しく、優しく、賢く、それでいて少しドジなところがあって、周囲の皆から愛されていた。
そして台詞が、意外にもとても積極的だったことに驚かされた。
教本にとは思ったけれど、いざ読んでみれば、ヒロインの大胆な台詞を自分が言える気がしない。
読みものとして楽しむ分にはいいのだろうけれど。
実際に自分が口にするとなると、ちよっと、いやかなりハードルが高いかも。
サイドテーブルに手を伸ばし、読み終えたばかりの数冊の小説をパラパラとめくる。
『貴方がいない世界は色褪せて見えるの』
・・・うん、無理。
『貴方が側に居てくれないと、寂しくて死んでしまうわ』
これも無理。言えないわ。
死んでしまうって、どうして断言出来るのかしら。
『私は貴方の運命の番なの』
これも言えない。というか、番という小説の世界の設定を現実に持ち出したら変に思われるだけよね。
『他の女の人を見たりしないで。私だけを見ていて欲しいの』
・・・視界に入れるなと言う方が無理だと思う。
そもそも、それでは相手の日常生活に支障が出て困るでしょうに。
『今すぐ来て。お願い、会いたくてたまらないの』
いやいや、相手にも予定というものが。
『私のこと、嫌い?』
そんなの怖くて聞けない。
こんな怖い台詞を、どうしてサラッと言えるのかしら。
これで答えが『うん、嫌い』だったらどうするの?
私だったら立ち直れないかも。
『いつも私の側にいて』
・・・うん。
うん、そうね。
うん、良かった。やっとひとつ見つけた。
これくらいなら頑張れば言えるかも、きっと。
ようやく見つけた小説の台詞に、ペンで印をつける。
あと、他には何か・・・。
ペンを手に、再び真面目な顔で小説に目を落とす。
こうして、迂闊にももう一度小説を手にしてしまったアデラインは、さらに二時間延々と小説の台詞をチェックし始めた。
そういう訳で、翌朝、眠そうなアデラインを見たセスを、非常に心配させる事になってしまったのだ。
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