変化の理由
アデラインの様子がおかしい。
朝から変だった。
ハグをしたら、ぎゅっと抱きついてくれた。
散歩する時に手を差し出したら、素直に手を繋いでくれた。
夜なんか、お休みの挨拶でほっぺにキスしたら・・・キスしたら・・・。
うわぁぁぁぁ。
僕は声無き声を上げ、ベッドの中でごろごろと転がった。
おかしい。おかし過ぎる。
これが現実の筈がない。
こんな、僕に都合の良すぎる反応ばかり、アデルがしてくれるなんて。
これはやっぱり、僕は夢を見てるという事なんじゃないのか?
やたらリアルすぎるけれども。
痛みもあるし、食べ物の味も分かるし、たんこぶも出来たけれども。
「だって、これじゃまるで・・・」
まるで、アデラインも僕のことが好き、みたいじゃないか。
本当にそうだったら、嬉しいけれど。
このまま僕をお婿さんにしてくれたら、どれだけ幸せか分からないけれど。
先ほど、お返しでお休みの挨拶をもらった左ほっぺを掌でさする。
じんわりと頬が熱いのは、撫ですぎたせいではないだろう。
ああ、でも。
でも、もしも。
もしも本当にアデラインと結婚できたら、ほっぺにちゅーどころの話じゃなくなるんだ。
そんな不埒な考えが頭に浮かんだ途端、かっと顔に熱が集まる。
うわぁ、僕のバカ。
寝る前に何を考えているんだ。
今夜眠れなかったらどうするんだよ。
落ち着け落ち着け、と小声で言い聞かせながら、何回か深呼吸する。
こんな馬鹿な妄想をしたところで、アデラインにその気がなければ意味がないのに。
そうだよ。
アデラインは僕のことを恋人とは見ていない。
だから口癖のように、僕に「セスも早く素敵なご令嬢を・・・」って、あれ?
あれ? ちょっと待って。
最近は言ってない。
ここのところ、ずっと聞いていない。
僕を悩ませていた呪いの言葉。
アデルの心の距離を、僕に思い知らせる呪文。
--- 素敵なご令嬢を見つけて幸せになって。セスの邪魔はしないから ---
そう、あの言葉を。
「え? ってことは、つまり・・・」
僕はベッドの天蓋を見つめたまま、ぽつりと呟いた。
それから、ある結論に思い至って。そして。
「嘘だろ・・・」
思わず、そんな一言がこぼれ落ちた。
だって。
だって、この結論が間違ってなければ。
「早合点はしたくない、けど」
でも、そうだったらどんなにか。
どんなにか幸せなことだろう。
両手で顔を覆う。
「うわぁ・・・」
僕は今度こそ真っ赤になった。
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