挑戦者アデライン
大丈夫。
出来るわ。やれば出来る。
セスみたいにやればいいの。
そう自分に言い聞かせて、朝のハグに挑んだ。
セスが抱きしめてくれた時、私もそっと腕を回して。
ドキドキしながら腕にそっと力をこめる。
どう、かな。
セスは、どう思ってるかな。
反応が知りたくて、顔を見たいと思うけれど、ハグされた状態では確認できない。
これまで、抱きしめられることはあっても、抱きしめ返したことはない。もちろん、自分から抱きしめたことも。
そう思うと、セスは随分と根気強く愛情を示してくれていたのだと、しみじみ思う。
私なんて、たったこれだけの事で、ありったけの勇気を使い切った気分になるのに。
「・・・」
「・・・」
でも、何でだろう。
今日はいつもよりも、ずっとハグの時間が長いような気がする。
「セス・・・あの、そろそろ・・・」
もう離れないと。
顔が熱いし、心臓がドキドキしすぎて限界だ。
でも、セスの腕が解かれてホッとしたとほぼ同時に、もの凄い音がした。
セスがよろけて、壁に頭をぶつけたのだ。
何もないところでよろけるなんて、もしかして具合でも悪かったの?
だからぼんやりしていて、いつもよりもハグの時間が長くなっていたの?
セスが頭をおさえてる。痛そう。
それはそうよね、凄い音だったもの。
どうしよう。
セスの具合が悪いのに、そんな事も気づかないで、ひとり呑気にハグでドキドキしてた。
やだ、自己嫌悪で泣きそう。
でも、駄目。今はまずセスの事を考えなきゃ。
「セス、痛かった? 大丈夫?」
返事がない。
あんなに大きな音がしたのに。
痛くない訳がないのに。
「セス、お医者さまを呼びましょう。打ちどころが悪かったのかもしれないわ。顔が真っ赤よ」
「え、ええ?」
私がしっかりしなくちゃ。
私はセスのお義姉さんだし、それに、その、セスの、こん、婚約者だもの。
しっかりお世話しないといけないわ。
「ほら、ベッドに戻って。朝食は寝室にまで運ばせるから」
「いや、あの、アデライン。僕は」
「頭をぶつけた時は気をつけないといけないのよ? ほら、早くベッドに横になって。お医者さまが直ぐに来てくれるから大丈夫よ」
こんな時まで遠慮しないで。
前に本で読んだわ。頭をぶつけた時は、油断してはいけないのよ。
「ショーンを呼んでくるわ」
「えっ、ちょっ、待っ・・・」
まずはショーンに言って、お医者さまを呼んでもらわなくちゃ。
淑女としては不合格になるであろう駆け足で、私はショーンの所にまで急いだ。
結局、お医者さまの診断はただの打撲で、セスの後頭部には大きなたんこぶが出来ただけで済んだけど、それが分かっただけでも良かったと思う。
セスのたんこぶは、後でけっこう大きくなった。
恥ずかしかったのか、セスはその日一日中、顔を赤くしていたけれど。
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