ダブルデート



「珍しい色の服を着ているな。お前はいつも、白か黒か灰色を着てる記憶しかなかったが」



さっそくアデラインセレクトの服を着て出かけたところ、目ざとくもアンドレがすぐにそれに気づいた。



実は今日、何故かエウセビアの提案で四人でダブルデートをしているのだ。



そう、ダブルデート。


僕とアデライン、そしてアンドレとエウセビアとの。



嬉しいからもう一度言おう。


僕とアデラインとでデート中なのだ。



それで僕たちは、四人で植物園にやって来ていると、こういう訳だ。



「僕は服にあまり興味がないものだからね。アデルに選んでもらったんだよ。どう、似合う?」


「アデライン嬢が選んだだと?」



何故か不満げに上から下までジロジロと見つめ、ふむ、と頷く。



「流石はアデライン嬢だ。セスによく似合うものを知っている」



しかめ面のまま、褒め言葉を口にする。


褒めている割に、アンドレの不機嫌度が更に増したのはどういう訳なのか。



「ふふ、アンドレさまは羨ましいのでしょう? でもダメですわよ? 今、アンドレさまはわたくしと恋仲同士という演技中なのですから、アデラインさまにコーディネートをお頼みになってはいけませんわ」


「むう、やはりそうか。もしかしたらとは思っていたのだが」



いや、それあり得ないから。


恋仲の演技中とかそういうの関係なく、365日お断りだから。


何でアデラインがお前の服を選んであげなきゃいけないんだよ。



頼むんならそれこそ・・・。



「わたくしが選んで差し上げますわ」



うん。そうなるよね、当然。



アンドレの横で微笑んでいたエウセビアが、そう申し出た。



え? と驚くアンドレに、当たり前の事だとエウセビアは説明する。



「設定をお忘れになりまして? わたくしたちは想い合う恋人同士なのですよ。愛するアンドレさまのために、心を込めてお似合いの服を選んでみせますわ」



ありゃ、その言葉。


アンドレには刺激が強すぎるんじゃないかな。

 


アデラインも同じことを考えたらしく、僕たちは互いに目配せしあう。



それから視線を元の場所に戻すと。



ほら、やっぱり。


アンドレが瀕死状態だ。



真っ赤になって固まって、陸に上がった魚みたいに口をパクパクさせている。



エウセビアも狙ってやってるんだろうな。


もの凄く楽しそう。うん、これは確信犯だ。



アンドレ、大丈夫? 息は出来てるよね?



他人事だからって、思い切り楽しんでてゴメンな。



「・・・」



ああ、でも。


何て言ったらいいんだろう。



握り拳を口元に当て、呼吸を必死に整えようとしているアンドレは。


真っ赤になって明後日の方を向いて、何とかして誤魔化そうとしているアンドレは。



揶揄い甲斐があるというか、なんというか。



いや、この言葉がぴったりだな。



「・・・ちょっと可愛い?」



思わずポツリと呟いた言葉に、アンドレがめちゃくちゃ怒ったけど。


男が可愛いとか言われて嬉しい筈がないのは分かってるけど。


いやね、口に出してたのは悪いと思ってるよ?



でも、アンドレ。


後ろを見てみて。



そう思ったのは、きっと僕だけじゃない。



だってほら、エウセビアもアデラインも激しく頷いているもの。


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