連絡は突然に
「お嬢さま、ランデル侯爵令嬢からお手紙が来ております」
アンドレたちの来訪から数か月。
最近になって、よく耳にする言葉の一つがこれだ。
そう、あの後アデラインは本当にランデル令嬢と手紙の遣り取りを始めた。
アンドレが言っていた通りなら、ランデル令嬢は僕とアデラインのために色々と話を聞いてくれているのだろう。
・・・まだ僕には何の連絡もないけれど。
だから、もしかしてあれはアンドレの詭弁だったのかもしれない、なんて思う時もある。
でも、もしそうだとしても別にいいような気もしているのが最近の僕の正直な気持ちだ。
だって、令嬢から手紙が届いた日のアデルはちょっと嬉しそうなんだ。
手紙を胸にそっと抱えて、はにかんだ様に笑って、少し急ぎ足で部屋に戻る。
そうして部屋に戻った後は、じっくり手紙を読んでいるのだろう、かなり長く部屋に籠っている。
そんなアデラインの姿を見るのは、僕としてもとても嬉しいのだ。
考えてみれば、義父が僕たちに関心を示すことはなかったから、同世代同士の交流というものは例のまとめて誕生パーティ以外は何もなかった。
しかも、何故かそのまとめてパーティは、開催規模だけはかなりのものだったため、その日は大人も子どもも含めて相当数の人が出席する。
アンドレみたいによほど個性的な絡み方をする人物でもない限り、友人候補を見繕うとか、誰かと親しくなるとかの話以前に、誰かが記憶に残ること自体が殆どなかった。
あわよくば自分が婚約者に成り代わって・・・みたいな奴らの印象の方が強すぎたからかな。
そういう人の方が、ぐいぐい来るもんね。
・・・あれ、よく考えてみたら、アンドレもその一人だった。
まあでも、何故か今の僕はアンドレのことをけっこう信用しているんだ。
あそこまで不器用な人だと、陰で上手く立ち回って出し抜かれるみたいな心配はいらないと思う。
だから、今は取りあえずあいつのことは置いとこう。
これまで見守っていた限りでは、アデラインとランデル侯爵令嬢はゆっくりと、でも順調に友情を育んでいる。
僕との距離うんぬんを改善するとかどうとか、それはともかくとして、アデルがランデル令嬢が嫌いじゃないなら、文通を楽しんでいるなら、もうそれでいいんだ。
手紙を受け取る度に、ほんのり笑みを浮かべているアデラインを見るだけで、僕は嬉しいから。
だから、それだけでありがたかった。ランデル令嬢の存在は。
・・・なんて思いながら更に一か月ほど過ぎた頃だ。
ショーンが現れて、アデラインにすっと封筒を差し出して言った。
「お嬢さま、ランデル侯爵令嬢からお手紙が来ております」
「ありがとう」
お馴染みの風景。お馴染みのやり取り。
・・・と思っていたら、次にショーンは僕の側に寄ってきた。
そして、すっと封筒を差し出す。
・・・ん?
怪訝な顔をした僕に、ショーンは言った。
「お坊ちゃまにもお手紙が。デュフレス公爵令息からです」
最も予想していなかった人物の名前を告げられ、僕は一瞬だけ固まった。
「・・・デュフレス公爵令息、から?」
ショーンは頷く。
聞き間違いではないのだろうか。
取りあえず受け取って中身を改めると、やはりそれは聞き間違いなどではなく、疑いようもなくアンドレ本人からの手紙であることを僕は理解した。
逆にこれがアンドレ以外の人からだった方が問題だ。
いや、アンドレだったらいい、というのもある意味おかしいのかもしれないけど。
だって便箋に書かれていたのはたったの一言。
--- 私とエウセビア嬢をお茶に招べ ---
それだけだったから。
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