よく考えろ


「何だ? その鳩が豆鉄砲を喰らったような顔は」



僕の意識の中で、アンドレ・デュフレスという人間の評価が変わりつつあった。


もしかして、この人は。



「まあとにかく、何かあったのならさっさと原因を取り除け。アデライン嬢にあんな顔をさせたままにしておくな」


「・・・はい」



威張りん坊の馬鹿かと思ってたけど、意外とお節介な馬鹿なのかもしれない。



「天使のようなアデライン嬢に、とうとう愛想を尽かされたと言うのならば大歓迎だが」


「・・・」



訂正。


やっぱり只の無神経な馬鹿だ。



こいつをジト目で睨みつける権利が僕にはあると思う。


実際に睨みつけても、気にも留めやしないけどね、この男は。



「だから後で聞いてみるといい」


「はい?」



ちょっと待てよ、アンドレ。


君の発言は紋切り型すぎて、話の流れが分かりにくいんだって。



「ええと。聞くというのは、誰に、何を?」



そう問い返したら、どうして分からないのかと言わんばかりに眉を顰められた。



僕の反応は、多分普通だと思うんだけど。



アンドレは、ゆっくりと一言一言を区切るように言った。



「・・・エウセビア嬢に、アデライン嬢の態度が変わった理由を」


「エウセビア・ランデル侯爵令嬢に・・・? いやいや、どうして彼女にアデラインの事情を相談しないといけないのさ?」



仲がいい訳でもないのに。


多分、話をするのだって、今日で2回か3回目くらいだと思うよ?



「私が頼んだんだ、彼女に。アデライン嬢の話を聞いてやってくれ、と」


「・・・」



ここで僕はやっと腑に落ちた。


アンドレがここを訪問した理由。


一緒にランデル令嬢を連れてきた理由。


そして、彼女がアデラインを連れ出した理由を。


アンドレが僕と話をしている間に、ランデル令嬢はアデラインの話を聞いてる訳か。



いや、だけど。



「・・・何故ランデル令嬢に、そんな事までお願いしたのかな?」


「元はと言えば、彼女から言い出した事だ。それで今回、一緒に来てもらった」



ああ、成る程ね・・・ってなるかい!



「デュフレス令息。ご親切はありがたいけど・・・」


「お話は終わりまして?」


「うわっ!」



突然に扉が開いて、僕は思わず大声を上げてしまった。



アデラインとランデル令嬢が戻ってきたのだ。



「・・・ゆっくり話せたか?」


「ええ。楽しかったですわ。そちらは?」


「まあ、有意義な話が出来た・・・と思う」



アンドレのその言葉に、ランデル令嬢が一瞬だけ僕の方を見た。



え? なに?


今度は僕の番とか?



そう思って身構えたのも束の間、アンドレは「ではそろそろ」と辞去を告げた。



それには拍子抜けしたものの、もちろん笑顔で馬車まで見送りに行った訳だが。



「では、アデラインさま。必ずお手紙を差し上げますわ。どうかわたくしにもお返事を下さいませね」


「ええ、楽しみにしてますわ」




そんな遣り取りをしている二人を見て、それなりに親しくはなったのだな、と感心した。



アデラインはどちらかと言うと引っ込み思案の方なのだが、ランデル令嬢は評判通り社交上手らしい。



でも、何でわざわざ好き好んでこんなところにまで来てくれたのか。



彼女がわざわざアンドレの手伝いを買って出た理由がよく分からない。



そんな事を考えていた僕は、よほど呆けていたのだろう。アンドレが側に来てそっと耳打ちした。



「間抜け面を晒しているが忘れるなよ。後で必ずエウセビア嬢から話を聞け。それでさっさと己の行いを振り返ることだ」



・・・アンドレ。


いや、アデラインを心配してくれるのは有り難いよ。



それに、君が思ってたより悪意のない人だという事もよく分かったけれども。



けれども、だ。



その上からの物言いはどうにかしたほうがいいと思う。

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