転性したら金メダルだった件
リヒト
第1話
『えー、重量挙げ女子で菊池 みゆきさんが金メダルを獲得しました」
僕は無表情でテレビから流れるニュースを聞き流す。
テレビには実によく知ったおっさんが金メダルを嬉しそうに手にとっていた。
なんだ、これ。……いや、本当になんだよ。これ。
「いいのかよ。お前」
僕は出来るだけ知らんぷりしたかったのだが、どうしてもこらえきれなくてポツリと呟く。
そして思い出す。
僕と彼が久しぶりに会ったときのことを。
「俺、女になるわ」
「は?」
久しぶりに出会った僕の友達、八代 唯我とお茶を飲んでいると、突然女になる宣言をされた。
「いや、だから女になるわ」
「いや、なんで!?」
「オリンピック出たいから。俺が元々重量挙げの選手目指してたこと知ってるよな?」
「うん。まぁ」
「でも、無理だった。だから女にすることにしたわ」
俺は考える。考える。唯我の発言を自分の中で飲み込もうとする。
「……どういうことだってばよ」
飲み込めなかった。
「いや、男で無理だったら女ならいけるな、って。性転換トランス選手認められたから」
なるほど。確かにそんなニュースを見た気がする。
「いや、お前。男だよな?学生のころ僕とエロ本で盛り上がったよな?……お、お男だ、だよなぁ?」
「おう。そうだな。男だ。しっかりと男だ。だが、オリンピックで金メダルを取りたいんだ」
「お、おう。そうか」
僕は唯我とは中学生の頃からの付き合いである。唯我のことはよく知っている。こいつは一度やると決めたらやめないだろう。
もう僕が何を言っても無駄であろう。
「これは、正しいとは言えないぞ?」
だが、そう言わずにはいられなかった。
「わかっている。だが、やりたいんだ」
「そうか。だが、僕が応援することは出来ない」
「そうか」
「お前の健闘を祈っているぞ」
僕はそれだけ言って席を立った。
「はぁー」
あの後の唯我の行動は実に迅速だった。
そして、こうしてあっさりと金メダルを手に入れていた。
「……なんというか、世紀末だな」
表彰台で女二人に囲まれたおっさん。もう本当にひどい。
「もう女子の部を見る価値なさそうだな」
男の部門で入賞できない男たちのオリンピックになることを予想して、ため息をついた。
僕はそう結論づけ、テレビを消し、職場に向かった。
転性したら金メダルだった件 リヒト @ninnjyasuraimu
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