2021年 5月24日 ホテル療養先に到着する。

ペットとの療養先に到着し、まず案内されたのはプレハブ小屋だった。

防護服を着たスタッフからプレハブ小屋の中にホワイトボートがあるので、そこに書いてある説明文を読んで欲しいと言われる。


プレハブ小屋に入ると、簡素な折りたたみ式の机があり、その上に名前と部屋番号が書かれた手提げ袋が3~4個乗っかっていた。(私の氏名と部屋番号が書いてある手提げ袋もあった)体温計も3~4本机の上にあった。(私は自分のものを持ってきていたので受け取らなったが)


そして、ホワイトボードに書かれた説明文にはこうあった。

・机の上にある手提げ袋の中から自分の氏名と部屋番号が書いてある手提げ袋を手に取るように。

・これからはスタッフは同行しない。手提げ袋の中に地図等があるのでそれを見て自分で部屋に移動するように。

・お弁当等の物品の受け渡しは大テントで行う。場所を確認しておくように。

・食事をとりに行くとき以外ペットの散歩を含め、外出は一切、禁止である。

・部屋についたらまず体温と酸素量を測ること


と指示が書いてあった。


荷物とマロンのキャリーケースをもって、プレハブ小屋の外に出るとスタッフが目だけで頷いた。


今にも降りそうなぐらいどんよりとした空だが、幸いにも雨は降っていなかった。


私は手提げ袋の中から地図を取り出した。


ペットと宿泊できる療養施設は一言でいえば『仮設住宅』だった。

プレハブで出来た小さな一軒家だ。


それが何棟もずらりと並んでいる。


療養施設から少し離れたところに大テントがあり(大テント、という名称だが、ちゃんとした建物。ちょっとした体育館のような施設)

お弁当や差し入れなどはそこで受け取る。ごみなどもそこに捨てることになるらしい。


地図で部屋番号を確認しながら歩く。


幸いにも私の居住地は大テントから歩いて数分のところだった。

(私みたいに熱が高くなくて、無症状の人は大テントから遠い方が、少しでも外の空気が吸える時間が出来て、いいのかもしれないが。書いていて今、気が付いたが、私が39度を超す高熱が出ていることを保健所にメールで報告しておいたので、大テントの近くの建物をあてがってくれたのかもしれない)

手提げ袋に入っていた鍵で部屋の鍵を開け、中に入る。


部屋の中は6帖のワンルームマンションぐらい。

シャワールーム、トイレ、洗濯機、ペットを入れるための檻(大型犬でも入れそうななかなかのサイズ)洗濯機、洗面台、物干し台、ロッカー、書き物机と椅子、テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、電子ケトル、そして医療用ベッドがなぜか二台あった。

(二人で療養する人もいるのか、衛生上の問題なのか)エアコンも完備されていた。洗面台には使い捨て歯ブラシ。シャワールームにはリンスインのメリットシャンプとビオレUが置いてある。トイレにはきちんと替えのトイレットペーパーが完備されていた。


コンセントもちゃんとあった。(ベッドの近くにもあったが、漏電時に火災になる可能性があるため、携帯の充電には使わないでほしい旨が手提げ袋の中にある紙に書いてあった)

無料のwifiもあった。wifiの強度としては強くもなく、弱くもなく。使えるのはありがたい。(特に繋がりにくい、などのトラブルはなかった)


部屋に入ってまずしたことは、マロンをキャリーケースごと檻の中に入れることだった。


マロンはキャリーケースが好きで、キャリーケースの中だと一切吠えず大人しくしている子なのだ。


檻の中はペットシーツが敷き詰められているが、出入り口が一か所しかない。

これは手前の粗相はともかく、奥で粗相されたら掃除が大変そうだ、と思う。


キャリーケースの鍵を外してみたが、マロンは外に出てこなかった。

じっと私の顔を見ている。

その目は潤んでいて、不安げだ。

檻の入り口をしっかり施錠する。

(ちなみに、ホテル療養中、ペットを檻の外に出すのは禁止されている)


次にやったのは、手提げ袋の中にあるものを確認することだった。

着ていたパーカーをロッカーの中のハンガーにかけて、荷物はそのへんにぼんぼん置く。荷解きは後。と決めた。


書き物机に移動し、袋の中のものを全て出す。

中に入っていたのは以下のものだった。


・ipad(と、その充電器)

・ガラケー(と、その充電器)

・パルスオキシメーター(酸素量を測る機械)

・書類類(なんと!)30枚(うち、記入と提出が必要なものが3枚。提出は夕食時に大テントにある箱に入れるようにと指示書が入っていた)

・知事からの手紙

・ボールペン


早速体温を測り、酸素量を計測した。そのあと、書類類に目を通していると、ガラケーに着信があった。


「看護師のヒムロです。福井真世さんでお間違いはないですか?」

「はい、間違いないです」

「体温と酸素量は測りましたか?」

「あ、はい」

「数値を教えてください」

「体温が38.8度。酸素量が97です」

「脈拍も教えてください。パルスオキシメーターで測れます」

「今、測ります……120~122の間をいったりきたりしています」

「ずいぶん脈が速いですが、普段からですか?」

「えーっと、70~80ぐらいかと」

「そうですか……」

ヒムロさんが考えるように沈黙する。

「身長と体重も教えてもらえますか?」

「身長は162cm 体重は**kgです」

「少々おまちくださいね。熱が高いのでお薬を処方できるか確認します」


しばらく、待機音の単調なメロディーが流れる。2分ほどしてヒムロさんが再び電話に戻ってきた。


「解熱剤、ラックルという1回2錠飲む薬を6錠、処方します。

夕食時に大テントにいくときに、差し入れコーナーに部屋番号が書いてある袋が置いてありますので、その中に入れておきます。うけとって夕食後に飲んでください。あと、何か欲しいものはありますか?」

「もし、氷枕などがあったらいただきたいです」

「ビニール袋に入っていて、中に入っているものを砕くと冷たくなるタイプの氷枕があります。冷凍庫で冷やせば何度でも再利用できます。それもお薬と一緒に置いておきます。よろしいですか?」

「助かります」

お礼を言って電話を切る。


そして、再び沢山の書類とのにらめっこを再開した。

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