ただただしい

🔆

はじめまして

昔からよく明晰夢を見る。

「あっ、夢だ。」と思った瞬間から、自由に体を動かせる夢。

全て自分の思い通りで、例えば知らない教室で目が覚めた時。

なぜかドアが開かなくても、念じればスっと開くんだ。

そう、これが夢ならば。

諦めてボーッと周りを眺める。

14人の同じ制服を着た生徒たちが、それぞれ脱出方法を探している。私も含めて15人である。

事の発端は数分前に遡る。

私たち15人は、チャイムの音で目を覚ました。

全く知らない教室に閉じ込められていて、とりあえず脱出しようとそれぞれドアを開けようとしたり、窓をガンガン叩いたり…。

私もどうにかドアを開けようとしたが開かず。

そして14人の生徒たちは顔も名前も知らない。

まあざっとこんな感じだ。起きてからちょっとしか経っていないから、分からないことだらけである。

「どこも開かんみたいだね」

おさげって言うんだっけ。長い三つ編みの生徒が話しかけてくる。

あまりに唐突で、その上俗世との関わりがほぼ皆無だったため、焦りに焦って吃ってしまう。

「え?あ、そうだね」

「うちはタノアスカ。君は?」

なんだかちょっとイントネーション?喋り方?が標準語っぽくない。関西あたりかな。

「島田夏海。タノさんは関西から来たの?」

「え?う、うん、そうやったかな…多分そう。混乱してて記憶が曖昧なの。

あ、アスカでいいよ。よろしくね」

「よ、よろしく」

アスカちゃんはおっとりしてるけど、眼鏡の奥の目は少しつり上がっている。かっこいい…。

確かに、この状況なら誰だって混乱するよね…

あれ?

そういえば私も、名前以外何も思い出せない。

私は、誰だ?

落ち着け、ゆっくり思い出せ。

そう、進路に悩みに悩んでいる高校2年生だ。

…どこの高校?家は?家族は?

名前と年齢以外、何も思い出せない。

家族?

そうだ、一つ思い出した。

私には姉がいた。

5つ年上の、優しくて強い姉。

でもお姉ちゃんは、私が7歳か8歳の頃に__

存在ごと、姿を消した。


キーンコーンカーンコーン…


姉のことを思い出していると、またチャイムが響き渡る。

クソデカチャイムやめてほしい。

「う、うわっ」

「今度は何!?」

「また鳴った…」


「初めまして、願いを持った選ばれし生徒の皆様。」


ノイズ混じりの男性の声が、黒板の上のスピーカーから聞こえる。

願いを持った、選ばれし生徒?

それなんて厨二病?

「皆様は現在記憶を失っています。

私がこれから毎週出す“課題”をクリアすると、徐々に記憶を取り戻していきます」

何言ってんだ、こいつ。

課題?学校に因んで、みたいな話?

いやいやいや、そもそもなんで私達は集められた訳?

「何言っちゃってんの、ここから出してよ!」

教室の端から怒声が飛ぶ。

そんな声も無視して、男は放送を続ける。

向こうからはこっちの声は聞こえていないのだろうか。


「失敗したら、皆様の命は保証しません。何せこれは言わば“デスゲーム”ですからね」


は?

命の保証はない?

デスゲーム?

デスゲームってあの?

殺し合いとか、そういうやつ?

一気に場の空気が凍る。

殺し合いではないんでしょ、多分。課題をクリアするぐらいなら…。

でも、それが例えば『人を殺す』とかだったら?

スカートから振動音が鳴り、ポケットを探ると四角く細い何かが手に触れた。

スマホ。多分、私のスマホ。

どうやらスマホと一緒に生徒手帳も入っている。

確認しようとすると、再び男が話し出した。後で確認しよう。

「それでは、まず一つ目の課題。

『2人組をつくる』です」

拍子抜け。

でも良かった、変なやつじゃなくて。

スマホを見ると、いつの間にか電源が付いていて、

【 課題 : 2人組をつくる 】

【 提出期限 : 7/2 3分以内 】

と表示されていた。

今日は7月2日だったのか。

時計を見ると、時刻は1時20分あたりを指していた。多分午後だと思う。

てか2人組をつくるって…そんなの簡単じゃん。

まあ私こういうとき大体余るけど。

表情悪すぎて愛想悪そうだと思われて距離とられてるけど。

アスカちゃんと組めばいいだけだし。

それに奇数じゃなければ…


待って?

何かがおかしいことに気付いて、脳に恐怖がじわじわと広がる。

ここの教室にいるのは、私含めて15人。

ということは…

さっきの「命の保証はしません」という言葉が蘇る。

要は、余れば死ぬってこと。

「『共存ルール』というものが存在しまして…言ってしまえば一蓮托生、運命を共にする死なば諸共。ペアが生きれば生き、ペアが死ねば死ぬ。よく考えて組んでくださいね。

それでは、三分だけあげます。ペアが出来たら座ってください」

黒板についているタイマーが突然起動し、2:58、2:57…とカウントダウンしていく。

えっ待って、ヤバくない?

普段焦らない私でも流石に焦る。

いや、急に話しかけられた時めっちゃ焦るけど。

そんなくだらない事を考えている間も、タイマーの時間は減っていく。

アスカちゃんの方を見る。さっきより少し離れている。

目が合った。アスカちゃんなら割と気さくな感じだし、その共存ルールとやらがあっても別に構わない。

アスカちゃんに話しかけよう。

そう思って一歩踏み出した途端、後ろからの衝撃によって倒れ込むように座る。

え?と思って振り返ると、ちょっと小柄の子が私に抱きついていた。

そしてその天使は、鈴を転がすように笑った。


「ふふ、はじめまして♡」

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