『死にたがり』と『生きたがり』

 長い長い眠りについた私は夢を見た。

 それは男の人が楽しそうに小さな子供と、きれいな女性と川沿いを歩いている夢。


 きっと会って話したこともないし、見たことすらないと思う。


 だけど私はそんな光景を見て、なぜかひどく懐かしく思えた。



「僕は、誰かの救いになれたのかな」



 いつの間にか私の目の前に、男の人が立っていて誰に話しかけるでもなく空を見上げてそうつぶやく。


 私は直感的にその人がどういう人なのか悟った。



「私は、救われた」



 私も独り言のようにぽつりとつぶやく。



「僕はようやく自由になれたんだ。あの子の、あの人に、もう一度一緒に、ようやくなれる」


「私もようやく自由になれそう。誰かのおかげで、ようやく自由になれる」


 互いに言葉を交わすのではなく、まるで水の中に溶けていく絵の具のように、言葉が混ざる。


 私とあなた。



 あなたと私。




 ぐるぐると混ざる。




 混ざって、




溶けて、




そして、男の人の影がゆっくりと消えていく。



 少し離れた場所から、男の人がふとこちらへと、私の方にしっかりと目を向けた。



 彼の言いたいことはわかる。


 そして私の言いたいことも。


 もういつぶりだろうか。


本当に心の底から笑いながら、僕たちは口を開く。



 もし神様がいるのであれば。


 もし仏様がいるのであれば。


 これを仕組んだ何かがいるのであれば。



 本当に。


本当に。



「僕を救ってくれて」「私を救ってくれて」



「「ありがとう」」

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『死にたがり』と『生きたがり』 葵 悠静 @goryu36

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