東条天皇

 1945年、ドイツ。アドルフ・ヒトラーの朝は早い。勤勉なドイツ国民を率いるナチ党の党首たるヒトラーは誰よりも勤勉でいなければならないのだ。まずは夜勤の諜報部隊からの報告に目を通す。卑劣な米英は夜に活動する。勤勉なドイツ国民の寝首を掻くつもりなのだ。したがって、勤勉なドイツ国民の安眠を守るためには夜の諜報活動が大切である。

 報告書に目を通し、諜報部隊にキャラメルを配布した次は戦略を練りつつランニングをする。パトロールも兼ねてベルリンを一回りする。10分程度の軽い運動であるが寝起きの頭をすっきりさせるにはちょうど良い。何より、一日中執務室に引きこもることもあるヒトラーにとっては10分程度であっても外の空気に触れる機会は貴重であるのだ。ときたますれ違う早起きで勤勉なベルリン市民からの挨拶は何にも代えがたい嬉しさがある。ヒトラーは何よりもドイツ国民を愛しているのだ。

 ランニングを終えると朝の仕上げとしてカラテの稽古に励む。カラテは同盟国日本の元首であり、無二の親友でもある昭和天皇、ヒロヒトから教えてもらった武芸である。ナチ党本部には東京ドーム1つ分の広々としたカラテ道場(愛称はヒデキ、道場ヒデキである)が併設されている。週末にはこの道場にベルリン市民が集まってヒトラー直々にカラテ指導をしているが、早朝の稽古は彼一人だ。

『アドルフ、カラテはね自分の拳をただ鍛えるだけではないんだ。自分の心を鍛え上げ、大切なものを守るためにカラテを鍛えるんだよ。私のご先祖様たちはカラテを使って日本を守り育ててきたんだ。アドルフもカラテを練習して、ドイツ国民を守ってあげるんだよ。』

 カラテユニフォームに身を包んだヒトラーはカラテを教えてくれたヒロヒトの言葉を反芻しながら感謝のサンチン一万回を行う。サンチンはカラテの最も基本的な型である。サンチンの構えは相手の突きを真正面から受け止められる構えであると同時に自分の突きの威力を最大限まで引き上げる構えでもある。この攻防一体のサンチンを極めることがカラテを極める第一歩なのだ。

 カラテの稽古が済めば、総統としての通常業務が始まる。ドイツの平和のために慌ただしくなる日中に備えて、おろしたてのナチ党の制服に着替えていたころ、彼の第六感に虫の知らせが届いた。

「ヒロヒトが死んだ…?」

 ヒトラーは持ち前のアーリアン・シックス・センスに加え、天才科学者メンゲレによる改造手術により日本人顔負けの第六感を獲得している。暗殺者を何度も返り討ちにしてきたこの第六感は同盟のためにも利用できる。同盟国の指導者たちにもしものことがあった時にはいち早くヒトラーが駆けつけるのだ。

 このヒトラーの第六感が日本の最高権力者、天皇の死を告げているのである。天皇の死はつまり日本の死に等しい。もし本当に天皇が死んでしまったのであれば同盟国として、そして一人の親友として極めて重大インシデントである。遍く日本国民から愛されている天皇が日本人に殺されるとは考えにくい。そもそも日本に天皇のカラテを制するものはいない。そう考えると敵国による暗殺の可能性が最も高い。アメリカか、イギリスか、あるいはソ連か。どの国からの刺客なのかいち早く見極めなければならない。ヒトラーすら軽くあしらう空手の達人である天皇を暗殺できるとなると相当な手練。きっと次は自分の番である。十分に準備をして迎え撃たねばならない。

「おいゲーリング、日本行きのUボートを手配しろ、ヒロヒトが死んだかもしれない。私がドイツを離れている間はお前にすべてを任せる、適当にポーランドでも侵略しといてくれ。」

「かしこまりましたゲリング。古事記はこちらにありますゲリング。いつもの隠し通路をご利用くださいゲリング。」

 日本に向かう際にいつも読み込んでいる古事記を手にしたヒトラーは強い違和感を覚えた。古事記がいつもより薄いのである。今手にしている古事記は日本との同盟の際に天皇からもらった思い出深いレプリカ古事記である。天皇所有のオリジナル古事記と共鳴し互いに補完しあっている。オリジナルと共鳴しているレプリカに異変があるということはつまりオリジナルにも異変が起こっているということである。中を閲したヒトラーに衝撃が走る。

「古事記が書き換えられている?!」

 ヒトラーの圧倒的アーリアン・メモリーは一度見たものを決して忘れることがない。ましてや何度も何度も読み込んだ古事記の中身を間違えるはずもない。確実に古事記の内容が書き換えられているのである。内容が改変されているがゆえにページ数が変わっており、本が薄くなっていたのだ。

「日本で何が起こっているんだ、ヒロヒトッ‼‼‼」


 数時間前、日本、皇居。昼下がりの薄暗い部屋に二人の男、昭和天皇と東条英機が張り詰めた空気の中で見つめあっていた。日本を背負う二人の男の気迫に並大抵の帝国軍人は耐えられない。以前まで政府各所の要人を集めて行われていた御前会議はこの二人の気に当てられて気絶するものが続出した結果、東条と天皇のタイマンで執り行われることとなった。

「東条、私はもう降伏したほうが良いのではないかと思う。国民の生活は苦しく、戦地に赴く兵士たちは一人として生きて帰ってこない。ルーズベルトやチャーチルも話の分からない男ではないと思うのだ。降伏しても今より悪くなることはない、むしろ終戦とともに国際社会の中で少しづつ日本はよくなってくると思う。」

 議論は実に難航を極めている。穏健派の天皇に対し強硬派の東条。日本の二大権力者の一触即発の議論は今後の日本の命運を決定づける重要なものである。簡単に結論は出ない。

「しかし陛下、いかなる理由であれ鬼畜米英に降伏したとあれば國體はどうなりますか?国民に示しがつきません、統治は困難を極めますぞ。」

「東条、君は体面を保つために毎日痛めつけられてもかまわないというのか?自分たちの体面のために毎日苦しめられる国民の声に耳をふさぐというのか?こうして自分が殴られる立場になっても同じことか言えるのか!」

 天皇が東條に檄を飛ばした次の瞬間、東条の拳が天皇の胸を貫いていた。東条の極限まで鍛え上げられたカラテは睡眠中にでも百人組み手を行えるほどに体に染みついている。同じくカラテを極めたものである天皇の強烈な威圧感により深層心理に想起された死への恐怖が、東条の拳を無意識のうちに動かしたのだ。あまりにも未熟。己のカラテを完全に制御する昭和天皇に対し、無意識の拳を止めることのできない東条。東条はその未熟さゆえに大切な人を守るためのカラテで、もっとも守るべき人間の命を奪ってしまったのである。

 会議室の入り口で待機していた東条の側近鈴木貞一が尋常ならざる音を訝しんで部屋に入ってきた、と同時に余りのショッキングな現場に言葉を失いその場で動けなくなってしまった。

「おい、鈴木。やってしまったものは仕方がない。責任はとる。今日から私が天皇だ。」

「しかし閣下は皇族ではありません。天皇に即位するには皇族でなければ。」

「うるさい!私が天皇になると言ったら今日から私が天皇なのだ!いいか鈴木、古事記を書き換えろ。天皇は世襲制ではなかったのだ。天皇に挑み、命を奪えたものだけが次の天皇になる資格がある、古事記をそう書き換えろ。矛盾する部分はうまくやれ。とにかく私の、いや朕の即位が正当になるように古事記を書き換えろ。」

「しかし、古事記の原本は天皇のみが入れる部屋に厳重に保管されています。私が簡単に手を出せるものではありません。」

「天皇ならここにいるではないか。そこの死体の右手と目をえぐって持っていけ。それで指紋認証と虹彩認証は突破できる。パスワードは"tenn-nou heika bannzai"だ。わかったら早くいけ。」


 東条の指示通りに古事記が編集されたのち、即位の儀が迅速に執り行われた。宮内庁関係者からは異例の即位に反発する声も多く上がったが、古事記に裏打ちされた正当な天皇の即位は中止できるわけがなかった。

 東条は新天皇として、そして現役の首相として国民に説明するための緊急ラヂオ放送を行った。

「国民の皆様、昭和天皇は死にました。今日から私が天皇です。総理大臣は引き続き私が務めますので、私が国家元首ということになりますね。アメリカとの戦争についてですが、強硬な姿勢を崩すことなく、攻め続けていこうと思います。つきましては、わたくし自らが前線に出まして米軍と交戦いたします。」

 東条陛下からの緊急放送は以上であった。昭和天皇の死から実に3時間後の出来事である。


 アメリカ、某米軍基地。日本を舐めきったメリケンがビリヤードを嗜みながら適当に日本からの飛来物を監視している。ながらビリヤードとはいえ実に下手くそ、繊細な技術が要求されるビリヤードはパワー系メリケンには不向きである。

 ユーザーが怠惰なメリケンであるが、機器は優秀なドイツ製の最新機器。迅速に異常を察知して司令室に警告音を響かせる。

「レーダーに反応あり、高速で基地に接近しております。」

「爆撃機か?」

「小さすぎます。それに反応は一つです。日本の新型兵器でしょうか?」 

「可能性はあるな。おい、目視で確認できるか?」

「はい、監視衛星が光学で確認!モニターに映します!」

 モニターに映し出された映像を見た米兵たちは言葉を失った。基地に接近していたのは人間、いや、三種の神器を携え人間を超越しまばゆい光を放つシャイニング東条である。天皇に即位し、三種の神器を装備した東条は神に等しい存在となった。神の力を手にした東条は米英の主要基地を強襲し、戦争に決着をつけるつもりなのである。

 超高速で太平洋を横断するシャイニング東條の米軍基地着弾予定時刻はあと13分。

 人智を超えた存在を前に一度は絶望するも、強靭な精神力で冷静さを取り戻したアメリカ軍は迅速に迎撃の戦闘機を発進させた。正確かつ迅速、まさに職人技である。

「東条といえど所詮は人間。米軍の火力の前に散るといい!どうだ、東条は撃ち落とせたか?」

 USアーミーの誇りとともに出撃させたかわいい部下がそう簡単に落とされるはずがない。彼らはあのゼロファイターと対等にわたり合った猛者たちである。司令官のしたり顔はすぐさま絶望の顔に変わった。

「全機撃墜されました…」

「全機撃墜だと?一機くらい残っていないのか?!わが航空機部隊がジャップ一人に歯が立たないなどありえな」

 全信号ロスト、基地があった場所にはおおきなクレーターのみが残っていた。

 東条は次々と米軍基地を強襲し、更地へ変えていった。米軍の最新兵器、秘密兵器、UFO兵器をすべて粉々に打ち砕き、ルーズベルトを恐怖させた。ついにアメリカはついに国民を生贄に捧げ、黒魔術による迎撃作戦を試みるも神に祝福されたシャイニング東條の前に失敗に終わった。

 古事記によると、戦いの場において太陽を背にしているものが必勝。自転と同じ速さで西に移動し続けるシャイニング東條の背には常に太陽がある。故に無敵。


  Uボートにて来日したヒトラーの目に映ったのは衝撃的な光景であった。いたるところに東条天皇を讃える文言がちりばめられていたのだ。

「トージョーが天皇だと?奴は皇族ではない、ましてや一介の名誉アーリアに天皇が務まるのか?」

 ヒトラーは無知な観光客のふりをして日本人に訊ねることにした。ヒトラーはできるだけ人畜無害な学者肌の男に声をかけた。ヒトラー得意のインタビュー術である。ヒトラーの 1/f 揺らぎボイスは相手の深層心理に働きかけ、拷問に等しい効率でヒトラーの求める情報を引き出すことができる。

「あの、シツレイします。私はドイツから来た観光客です。日本のテンノウはショウワだったと思うのですが、いつの間にトージョーに改名されたのですか?」

「ああ、今日からだよ。昭和天皇は死んでしまったらしい。首相の東条が天皇を引き受けるらしい。平成皇太子さまはまだ小さいから仕方ないね。ほら、みんなが持ってる携帯古事記にももう125代目天皇東条の名前が書いてある。」

「でもトージョー閣下はコウゾクではないのでしょう?コウゾクじゃないアーリア人はテンノウになれないとギムナジウムで習いました。」

「ああ、どうやら東条陛下の即位と同時に古事記も改訂されたらしい。東条陛下からは世襲制ではなくトーナメント制になるらしい。富国強兵のためだから仕方ないね」

「じゃあトージョーはショウワテンノウを殺したのですか?」

「そればっかりはわからないね。大本営発表が無いから仕方ないね。おや、君立派な古事記を持っているね。高貴な身分の人なら皇居に行くと色々教えてもらえるかもしれないよ。僕は皇居には入れない、身分が低いから仕方ないね。」

「ありがとうございます。コーキョに行ってみます。」

 ヒトラーは皇居に向かう人力車の中で古事記の改定個所を確認した。確かに世襲制であったはずの天皇制がトーナメント制となっている。それに伴い、上皇の記述が削除されている。トーナメント制天皇において引退した天皇などは原理的にあり得ないからだ。

 突然の天皇の死、東条の即位、そして東条の即位を正当化するような古事記の改定。おそらく天皇を殺したのは東条で間違いない。となればやるべきことは一つ、東条の抹殺である。いかなる理由であれ天皇越えの儀式は末代までの大罪である。しかし今の日本における最高権力者は東条。非日本人のヒトラーの手で断罪せねばならない。

 古事記の改定はヒトラーにとって不幸中の幸いであった。古事記の改定個所は東条にとって不都合な箇所。ヒトラーの脳内アカシックレコードに蓄積された改定前の古事記と照らし合わせて改定個所を洗い出せばそれはすなわち東条の弱点のリストとなる。東条断罪に向けてヒトラーは古事記を熟読した。

 皇居につくや否や、すべてを理解ったヒトラーは瞬時に近衛兵たちを洗脳し、天皇執務室で瞑想に入った。これは戦闘の準備であるとともにドイツで待機しているゲーリングへの指示をテレパスするための準備である。

「おいゲーリング。いま私は皇居にいる。アレを皇居に向かって投げろ。昭和天皇が死んだ、緊急事態だ。」


 アメリカ強襲より帰ってきたシャイニング東条を待ち受けていたのは古事記とロンギヌスの槍を携え、天皇とキリストという二人の神に等しい存在から祝福されたアドルフ・ヒトラー、ブレスドヒトラーであった。ブレスドヒトラーに注がれた祝福は皇居の霊力を受けて益々強力になり、シャイニング東条の放つまばゆい光さえ霞むほどであった。

 シャイニング東条はブレスドヒトラーの実力を直感した。ブレスドヒトラーはシャイニング東条に匹敵する実力。さらにブレスドヒトラーは深い瞑想により完璧なコンディションである一方でシャイニング東条はアメリカ強襲の疲れが残っている。シャイニング東条の取るべき戦略はただ一つ、不意打ちである。シャイニング東条は着陸の勢いそのままにブレスドヒトラーに向かい天皇家相伝の秘儀天皇突きを繰り出した。

「ああああああああああ!!!!!!!」

 ブレスドヒトラーは絶叫する。東条の天皇突きは火星をも砕く破壊力。まともに受ければ神の祝福を受けているものであっても到底耐えられるはずのものではない。シャイニング東条の右手はブレスドヒトラーの右胸を貫いたはずであった。シャイニング東条の拳は確実にブレスドヒトラーに届いている。しかし、その拳はブレスドヒトラーを貫いてはいない!

「ドイツ人風情が天皇の拳を受け止められるはずがない!貴様はなぜ死なない!」

 シャイニング東条の拳をブレスドヒトラーは胸で受け止め、そのまま強烈にはじき返した。二人は距離を取り、一足一刀の間合いでにらみ合う。

「東条、貴様の拳が私を貫くことができない理由を知りたいか。」

 ブレスドヒトラーの手に握られていたのはかつて天皇から贈られたあの古事記である。天皇から贈られた古事記が天皇特化型防壁としてブレスドヒトラーの耐久力を爆発的に底上げしていたのだ!

「東条、ヒロヒトの魂は貴様を天皇と認めていないぞ!この古事記はヒロヒトと私の友情の証!偽りの天皇の拳は天皇の祝福を受けた私を貫くことはできない!そしてこの拳はもはや私の拳ではない!ヒロヒトの拳!天皇の怒りを思い知れ東条!」

 ブレスドヒトラーの拳には今は亡き昭和天皇の言霊が宿っていた。『もし私に何かあれば、日本を頼む』。ブレスドヒトラーの古事記には昭和天皇の署名とともにこう書き残されていた。天皇直筆の言霊の宿ったレプリカ古事記はシャイニング東条の持つオリジナル古事記に等しい力を持つ。天皇力は互角。ともにカラテの達人。そして等しく神から祝福された二人の雌雄を決するは思いの強さ。

 天皇を受け継ぎ日本の将来を担う東条の思い、一人の人間として義兄弟ヒロヒトの幸せを願ったブレスドヒトラーの思い。漢たちの思いが拳を通し激しくぶつかり合う。

「昭和天皇は死んだ!もういない!」

「だまれ!ヒロヒトは古事記の中に永遠に生き続ける!」

 ブレスドヒトラー怒りのヒロヒトアタックをシャイニング東条は天皇直伝サンチンの構えで受けきる。究極にまで磨き上げられた東条のサンチンはナパーム弾でも壊せない!ブレスドヒトラーの攻撃の隙を見切ったシャイニング東条の反撃、サンチンの構えから放たれる天皇突きがブレスドヒトラーを襲う。サンチンの構えは攻防一体の最強の構えなのである。

 ブレスドヒトラーはシャイニング東条の突きを正面から受けるもビクともしなかった。そう、ブレスドヒトラーも昭和天皇のサンチンを受け継ぐ男なのだ。

「ヒロヒト、お前のカラテが今の私を生かしている。お前のカラテが東条を打ち砕くぞ!見ているかヒロヒト!!」

「私の拳を受けきれなかった男のカラテに何ができる!そんなに昭和天皇に会いたいのなら私の拳で会わせてやる!あの世で仲良くカラテの稽古をしていればよいのだ!」

 二人の強烈なカラテに耐え切れなかったのはその装備品であった。壮絶な打ち合いの末に三種の神器、古事記、ロンギヌスの槍、すべての装備品は打ち砕かれ、身一つの東条とヒトラーが向き合っていた。


 東条とヒトラーの決戦の後、アメリカは東条による強襲で戦力のほとんどを失ったため降伏宣言を出した。続いてイギリス、ソ連はドイツに占領され、枢軸国が世界大戦を制した。

 戦争に勝利し、平和になった日本の地に一隻のUボートが寄港した。

「ヒロヒト、今年もサクラが咲いているぞ。」

 更地と化した皇居には満開の桜と地鎮祭の跡だけが残っていた。壮絶な決戦は東条の死により決着がついた。名誉アーリア人に過ぎない東条はインボーンアーリア人ヒトラーのカラテに耐え切れなかったのだ。

 東条は天皇を殺し、その後継者を自称するという大罪を犯したものの、結果として日本を勝利に導いたその武勇と、日本の繁栄を願う強い思いを評価され皇居の敷地内に東条神社を設置し、その主神として祀られることとなった。

「ああ、きれいだねアドルフ。」

 ヒトラーとともにサクラを眺めていたのは死んだはずの昭和天皇である。実はヒトラーと東条の決闘と時を同じくして、秘密裏にゲーリングの指示でドイツ軍が昭和天皇の亡骸を回収し、ナチ党が誇る科学技術で天皇の蘇生に成功していたのである。

「ヒロヒトが生きていたと知ってとてもうれしかったよ。ドイツでの生活は大変ではなかったかい?」

「いいや、ゲーリング君がとてもよくしてくれていたよ。」

「そうかそうか。おいゲーリング、お前は今日から総統に昇進だ。私はヒロヒトと日本で隠居する!」

「やったでゲリング!」

「駄目だよアドルフ、君はまだドイツ国民を導いていかなくては。それに敗戦国の面倒を見るのも戦勝国の責務だ。イギリスとアメリカ、そしてソ連が我が国と同じくらいにまで復興するまで総統をやめてはいけないよ。それが全部終わったら、私と一緒に隠居しよう、いいね?」

「わかったよヒロヒト。よし、ゲーリングお前は今日限りで総統をクビだ、いいな?」

「そ、そんなぁ、それはあんまりでゲリング」


 こうして、第二次世界大戦は幕を閉じ、日本とドイツが戦勝国として世界を導いていくのでした。おしまい。

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シベリヤ 脳みそトコロテン装置 @wedder-burn

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