エミリーにお任せ
目を覚ますと、女の子が俺に引っ付いていてビビった。
――パーカー一枚なんて随分とエロい格好しているけれど、裸じゃないからたぶんヤってないよな……。
なんて状況を確認しているうちに、昨日のことを思い出した。
透子はまだ眠っていた。夜のうちに透子が冷たくなっているという最悪の展開がなかったことに密かに安堵する。佑久よりも頼れるお兄ちゃんな俺のおかげで、安眠しているようだ。
息子は透子のぬくもりのせいか既に起き上がっていたので、見習って俺もベッドから起き上がることに。
「おっと」
足下にぐにょっとした感触があって、驚いた。
見てみると、エミリーの太ももだった。コイツ、いつの間にか床で爆睡していたらしい。
まあ、眠っているときくらいはそっとしといてやるよ。ってことで動画に納めておいてやる。
テレビを付け、目覚めのコーヒーを飲みながら、お気に入りのアナウンサーさんの美声に耳を澄ませる。
これが俺のモーニングルーティンの一部始終だ。
インターンの日はともかく、俺は大学生であるから、時間に余裕があることが多い。だから別に早く起きる必要もないんだが、毎朝アナウンサーのお姉さんを見る習慣を付けることは、社会に出るうえでこの上なく大事なことだろう。
しばらくすると、まずは透子が起きた。
「松尾早いね。おはよう」
「ああ、おはよう」
すると、
「そうだ。朝御飯作ろうか?」
ふと透子が提案してくる。
「いいのか?」
「もちろん」
それがあまりにも快い返事だから、
「なら頼む」
俺は素直に任せることにした。
そして出来上がったのはスパニッシュオムレツだった。
箸が進む。ウマいうえに、野菜も摂れていいな。
「好きなのか?」
「ん?」
「玉子料理」
「うん、好き」
おおう、大胆な告白だな。もちろん俺に向けられたものではないが……。
俺たちが朝食を食べ終えたところで、
「……おはよう」
エミリーは起きると、ダルそうな足取りで洗面所へ向かった。
戻ってきたら、栄養補助食品を混ぜた牛乳を飲んでいる。
「もしかしてエミリーは朝御飯食べないタイプなのか?」
「うん。燃費いいでしょ」
勝ち誇るようにエミリーが言うと、透子が反応する。
「燃費はどうかは知らないけれど、今日、朝イチで持久走だよ?」
「え、心配してくれるんだ。ありがと……」
ポッと頬を赤くし、デレるエミリー。
「別にそんなんじゃない……。ただ、昨日の晩御飯あまり与えなかったから、責任追及されるのが嫌なだけ」
「もう、素直じゃないんだから!」
「ちょっと……、寝汗がべちょべちょ……」
イジれるチャンスなので間髪容れず、俺も乗っかった。
「匂うぞ。朝風呂浴びてこい」
「失礼ね!」
とは言うものの、エミリーは朝風呂浴びにいった。
「絶対に覗かないこと!」
だから、覗けねえよ!
いよいよJK二人が家を出る時間である。しかも二人で仲良く(?)登校するらしい。いいことだ。
透子がトイレに行っている隙に、俺が透子への不安をエミリーに口にすると、
「私に任せなさい」
エミリーが胸を張ってそう言ってくれた。実に結構なことじゃないか。エミリーがはっきりとそう表明してくれたことは、透子にとっても、望ましい展開であることには違いない。
二人に信頼関係が構築されれば、きっと、徐々に透子もエミリーを頼るようになることだろう。
しかし俺は考えてしまう。
エミリーだけに任せておいていいのだろうか。俺にもできることがあるんじゃないかと。
「そうだ、エミリー。一枚写真いいか?」
「かわいく撮ってよね!」
いいのかよ! じゃあありがたく。
もちろんその後、気づいた透子と一悶着あった。
というわけで俺はSNSを探っていた。SNSは情報の宝庫だ。Twitterでさっきのエミリーの写真(かわいく撮った)の制服から鍋島に特定してもらった学校名を検索すると、生徒が一杯出てくる。予想以上に多くて困ったが、運良くエミリーのアカウントを見つけ、鍵アカじゃないのを良いことに、透子の学校の情報を探っていた。
エミリーの自撮りに透子が写り込んでいた。
エミリーと透子は同じクラスらしい。しかも席が前後っぽい。
それでも透子の学校での様子は掴めない。早まった俺はメルカリで透子の高校の男子の制服を購入しそうになった。
俺は高校に侵入する気になっていた。
だけど、どうすれば侵入できるのかが分からない。
困ったときの鍋島頼りだ。早速電話を掛ける。
すぐに繋がる。
『おい鍋島、学校に侵入する方法ってないか?』
『突然、どうしたんですか? もしや透子さんとの同棲一日目にして、性欲が溜まりすぎて、女生徒の物品を盗んでクンカクンカしたくなっちゃったり?』
『真面目な話なんだが……』
『フム。松尾さんならどうしますか?』
『質問に質問で返すな……。まあいい、制服着て忍び込むかな?』
『なかなか着眼点はいいですね。私も良く使う手段です』
『ほう、例えば?』
『定期検診の患者を装って病院に潜入したりですかね』
『わりとまともだった。でもそっから患者のカルテを盗んだりするんだろ?』
俺の指摘は果たして当たっているのか、それとももっとキワドイことをしてしまっているのかは鍋島のみぞ知る。
『守秘義務がありますので。話を戻しますが。それじゃあ、そもそも道で警察に声を掛けられるかもしれませんね。松尾さんは素人ですし、仕草でバレると思います』
『知ってるだろ。俺、わりとついこの間まで高校生だったんだが?』
『日本の警察甘くみてませんか、怪しければ、即学生証の提示を求められますよ。そもそも、怪しくなくても、声を掛けてきますしね』
『何が言いたい』
『結論から言いますが、リスクが大きすぎます。もしバレたら逮捕されますね。もちろん、大学もインターンも駄目になります。潜入のプロである私にしか取れない手段ですね』
『鍋島、お前、スパイ活動でもすればいいんじゃないか?』
『私は弁護士です。依頼されなければやりません』
『依頼されたらやるのかよ……。やめとけよ』
俺は強い口調で咎めた。鍋島がうっかりするとは思えないが、それでもだ。
『……そうですか。まあ、他国に行くことはありますが、スパイまではしませんよ。流石に弁護士の領分を越えていますしね』
『はて、お前が領分を越えなかったことってあったか?』
『弁護士の領分を越えないようやっているつもりです』
『つもりか。まあいいや、お前と話していたら冷静になった。ありがとう』
『あら、思い止まっちゃいましたか。あなたの弁護ができなくて残念です』
『おいこら、逮捕されるのは遊びじゃねえんだぞ! ――というわけで、また頼む』
電話を切った。
俺は、学校での透子のことは、エミリーを信じて任せることにした。
それが一番のはずだ。
だから、透子を頼んだぞ、エミリー。
昨日からの流れで、今日の通学は香田が着いてくる。松尾と二人きりの夜を迎えられなかったこと以外は、不愉快に思うことはない。
やがて駅に着いた。
改札を抜ける。一気に階段を駆け下りるエミリーに呆れつつ、自分も階段を下りていると、丁度電車が辿り着いたタイミングらしく、サラリーマンらが上がってくる。
向かいから来る彼らを避けながら下りていると、後ろの方から「速くいけよ!」なんて罵声を浴びせられた。私に向けてじゃないかもしれない。けれど怖くて振り返れなかった。だから階段を下り終えたら、逃げるように気配と反対の方へと向かっていた。かりかりしている人はどうも苦手だ……。
電車を逃してしまったからか背後から悪態が聞こえた気がした。私のせいなのだろうか……。
朝から嫌な気分に満たされて、通学したくなくなってくる。電車に飛び込む気は流石にもうないけれど、一旦帰りたいかもしれない。このままUターンしたら、松尾は怒るだろうか。
負の感情が蓄積し、私が今にも帰ろうとしたとき――、
「透子」
後ろから声を掛けられ、肩にそっと手を置かれる。
振り返ると、香田が追い着いてきた。その表情は憮然としていた。
「怒鳴られてたけれど、大丈夫? どうも、透子が階段を下りるペースがお気に召さなかったようね……。でも、そんなに気にすることじゃないわよ。元気出して」
「香田ぁ……」
「よしよし」
弱っているところを励ましてもらい、すっかり甘えてしまった。
香田は頼れるいい友達だ。
そう思っていたのに――、裏切られた。
持久走のとき、私のペースに合わせてくれたまではよかった。だけど、その胸はよろしくない。反則だ……。
並んで走ると比べられてしまうんじゃないかって、気になってしまって集中して走れない。
だから、
「先、行っていいよ」
私の語調から、なにかを感じ取ったのか、
「えー、そう? なら行かせてもらうけど……」
香田は素直に従ってくれた。
私はホッとする。これで乳比べはされない。
だけれど、ビリは目立つから、もうちょっとペースを上げないとな……。
そうやって頑張ったから、終わったときにはもちろん疲れた。
荒い息をついていると、香田が向かって来る。
「透子、おつかれさま!」
「うん」
こうやって声を掛けてもらえると、嬉しいものなのか。私はしみじみと思った。
今まで香田がこんな積極的に絡んでくることはなかった。だから香田とちゃんと友達になったのだと改めて感じた。
朝の体育の授業を終えて、へとへとにはなったけれど、満足感が多少なりともあった。
今日はいつもと同じ、いやいつも以上に平和な一日だ。変態なお兄ちゃんも登場しないし、いい日だなと平穏を噛み締める。
しかし休憩時間に問題が起こった。香田がトイレに立つと、すかさず女子が私の席へと向かってくる。
香田とバッティングするも連れションへの誘いを断って、こちらに来るから、いったいなんだろうかと警戒してしまう。
女子は真っ正面に、私の机に両手を叩きつけ、開口一番に、
「あんたなんかが絵美里と仲良くしないでよ!」
香田と仲良しの女だ。名前は確か、
私が名前を確かめている間にも、矢継ぎ早に文句を言ってきた。
「ずっと不快に思ってたの! 今日なんか絵美里と一緒に登校までして、いったいどういうことよ!」
近藤の剣幕のせいか、しんと静まった教室。
皆の視線が注がれてるのを肌に感じた。
いや、感じるのはそれだけじゃない。
目の前の近藤から殺気を感じる……。
「どういうことって言われても……」
もごもごと呟く。こんな状況は初めてで、私はほとほと困り果てた。
私の様子が気に入らなかったのか、睨み付けてくる近藤に、それ以上何も言い返せない。
こんなとき、どうすればいいんだ……。
しばらく膠着。近藤は私に、ずっと圧を掛けてきてて、身が縮こまる。
そうしてとても長い数分が経過した。
やがて帰ってきた香田は私と近藤の様子にただならぬものを感じたようで慌てて駆け寄ってきた。
「
「だって……」
「ひとまず落ち着いて、透子がビビってるわ」
「そうなの……? 余裕の表情をしてるからつい……」
「透子は表情に出にくいみたいなのよ。とりあえず何があったか聞かせて」
私はすかさず主張する。
「香田と仲良くしないでって言われた……」
「結菜……?」
途端、香田の視線が鋭くなり、近藤を睨む。
ぷるぷると震えている香田は、今にも手を出しそうだった。
「だって……」
近藤は縋るように、香田を見詰めた。
香田は深呼吸し、首を振った。
「透子に謝りなさい」
近藤は動揺した。
「なんで……」
譫言のように呟き始めた。
「どうして……」
いやいやと首を振った。
「透子、透子って……」
それまで香田の方を見ていたけれど、急にキッと私を見据えて、
「私だって、絵美里と一番仲良くしてるのに!」
ばっと教室を出ていってしまった近藤は、泣いているように見えた。
すれ違い様に入ってきた先生の「近藤はサボりか、まったく……」という苦言が休憩時間の終わりを示した。
授業が終わる。結菜のことがあり、あまり集中できなかった。透子も気が気じゃなかったらしく、
「近藤大丈夫かな……?」
「ちょっと見てくるわ」
心配そうな透子を置いて、私は保健室へと向かう。
私が保健室に入ると、そこに結菜はいた。ベッドで横になっている。
「絵美里……」
保健の先生は察してくれたのか、そっと席を外してくれた。
結菜はシーツをぎゅっと引っ張り、
「親友だと思ってた……」
震えた声で言う。
「結菜……」
「ごめん。ほっといて」
拒絶を示された。
けれど私はもう放置することはしない。もう後悔なんてしたくなかったから、無理にでも結菜から話を訊くんだ。
「結菜、ゆっくりでいいから話なさい。思っていることを」
結菜はしばらく躊躇した。けれどやがてぽつぽつと話し始めてくれた。
「なぁーんだ、そんなことだったのね」
結菜が話してくれたことを纏めると、私と仲良くする透子にやきもちを焼いていたというだけの話だった。
だから透子のことが気に食わなくて、先ほどついに文句を言ってしまったらしい。
結菜の話は要領を得ず、解読に時間が掛かったのは内緒だ。
私の浮気調査で弁護士の鍋島さんにあれこれ助言してもらったっていうくだりとか、私の衣服にGPSを仕込んだってのも気になるけれど、ひとまずそれらは置いといて私は言った。
「というかさ、結菜ったら、私のこと好きすぎるんだけどー!」
場を和ませるために言ったつもりだったけれど、なんだか無性にくすぐったくて思わず、大笑いしてしまう。嬉笑。
結菜の話を訊いているうちに、段々と私の笑顔のケージが溜まっていたらしい。ニマニマしながら訊いていたかもしれない。だとしたらちょびっと恥ずかしい。
結菜は思いを吐露するのに夢中だったんだろうけど、私にしてみれば結菜の私に対する好きの暴露だった。
結菜も遅れてそれに気づいたのか、
「……っ!」
真っ赤になってシーツを被ってしまう。
私はそっと捲って、
「まあいいから透子には謝りなさいよ。別に透子だって悪い子じゃないんだから、出来れば受け入れてあげてほしい。これは私の本心よ」
「……」
それだけははっきりと伝えた。結菜はシーツの中で俯いてしまい、すぐの返事はなかったけれど、結菜だって反省しているはずだと信じている。私だって、最近結菜のことを放置プレイ気味だったし、少しは反省している。
「結菜、最近構ってあげられなくて悪かったわ。だから今回はぶつのはよしてあげる。……次はないから」
暗に次やったら絶交だと伝える。
「――!!」
それはかなり効いたらしく結菜はシーツから顔を出し、泣きそうになりながらも、頷いてくれた。
「……うん。わかったよ。絶対もうしないから許して」
「ただ透子に言ったことは許さない」
「話が違うよぉ!」
「違わない。透子だって私の大切な友達なんだから、ちゃんと謝ってくれるまでは決して許さないから」
強要に近い気もするけれど、譲るつもりはない。
結菜が透子に謝るのは絶対だ。
というわけで、早速透子を呼び寄せ、謝罪の場を設けた。
「辺見さん、ごめんなさい。もう二度とあんなことは言いません」
「うん、大丈夫。近藤はちゃんと謝ってくれたし」
「辺見さん……」
うるうるとし出す結菜。
「よかったわ」
それを見て、私はほっと胸を撫で下ろした。
「というわけで、仲直りしよう」
透子はちゅっと結菜の頬にキスをした。
「きゃっ!」
結菜が悲鳴をあげる。転びそうになっていた。
「待って、それはよくない」
私は思わず突っ込んでいた。
一方、突然のキスに理解が追い付かないのか、結菜は「え? なに?」と頬を抑えて困惑している。徐々に頬が赤く染まっていって、口をぱくぱくし始めた。
「え? 女の子同士の仲直りはこうするのがいいってお兄ちゃんが……」
佑久ぅ……!
透子に変な価値観植え付けないで!
悔しいけれど、ちょっとだけいいなと思ってしまう私もいた。
「本当は唇がいいらしいけど、それは流石に恥ずかしかったから……」
唇を抑えて、もごもごと言う透子。
佑久許すまじ。
「ほら近藤も」
「えええ」
結菜はおずおずと透子の頬にキスをした。
そしたら、
「こっち見ないで!」
即座にばっと顔を背けて手で隠してしまう。
けれども頬が紅潮しているのが横からわかる。
副産物として、透子に対する結菜の態度が軟化した。
「ほんとにごめん、ごめんね……。どうかしてたんだ……」
それでも私は佑久を許さない。
そして放課後。
「あはは、酷いことをしたからバチ当たったのかな? 居残りなっちゃった」
小テストの点数が悪かったらしい近藤がそんなことを言うけれど、私にとっては非常にコメントしづらい。
「笑い事じゃないわ。いつもこうなってるじゃない。もうちょっと勉強しなさいよ」
「だって、授業さっぱり分からないんだもん……」
香田と近藤が喋っているのを横から見てたら、近藤がこっちを見て、
「透子ちゃんは勉強出来るんだね」
いつの間にか名前呼びになってる。まあいいけど……。
「まあ人並みには……」
「いいなあー、今度教えてよ」
信じられる? この子さっきまで私に対して殺気たっぷりだったんだよ……。
「まあ、いいけど……」
さっきまでとの温度差に若干引きながら私がそう答えると、近藤は目を輝かせた。
「ありがとー、やっぱり持つべきものは友達だよね!」
両手をむぎゅっと掴まれる。
どの口が言うのかな。
それに満面の笑顔を浮かべてくるし。
「そこまで言われると、なんだか胡散臭い……」
とりあえず、掌を返しすぎておかしくなってないか、確認する。
「そんなこといわないでぇ! 私、ちゃんと透子ちゃんのことも好きになったよ!」
近藤が身体を擦り寄せてくる。
いきなり懐きすぎじゃ……。
ここまで来ると、馴れ馴れしいと思う。
そんな近藤を見て、
「こりゃ重症だわ……」
香田が頭を抱えていた。
そんな香田に仲直りのキスについて口酸っぱく説明されたのはまた別の話。
「一緒に帰ろ! 置いてかないでぇ!」とか鬱陶しくこられたのもあり、結局、近藤を二人で待つことになった。
「結菜はご褒美がないと捗らないタイプだから仕方ないのよ……」
香田はそんなことを言っている。
「甘やかしすぎじゃない……?」
「はっきり言うのね。まあいいじゃない。なんか帰りに奢ってもらってチャラにしましょう」
「私たちは安くないってわけか」
しばらく待っていると、近藤が解放されてきた。
「お待たせー、じゃあ、帰ろっか!」
そういうわけで帰り道となる。
帰り道、近藤が、
「透子ちゃんのこともっと知りたいなぁ」
なんて言うものだから、「いいよ」と答えた。
香田が私に「いいの……?」って訊いてくる。
「別に隠すことでもないし」
「そっ」
というわけで、色々教えてあげることに。でもその前に場所を移動する。
近藤には奢ってもらうことになっていたから。
近くのファミレスへ行き、近藤にデザートを奢ってもらいながら、私はこれまでの経緯を近藤にも話した。
「お兄さんが酷すぎるね……」
「わかる? 佑久はいつかぶん殴るわ」
「透子ちゃん辛かったでしょ……。危うくトドメさすところだった……」
「近藤の心ない発言が私を傷つけた」
「ごめんって。しかしまあ男の人と同棲なんて……。ねえ、結菜もその男のところ行ってもいい?」
「……え?」「……はあ?」
透子が友達を連れて帰ってきた。またエミリーが来るのはわからなくもないが、今度は知らん子が増えていた。なんだか愛らしい雰囲気のある女子高生だ。
「その子誰だ……?」
するとエミリーが答える。
「佑久絶許同盟の三人目よ! 今日は私は泊まれないから扱いは任せるわね!」
「ちょっ! おい、エミリー!?」
慌てて追い縋るも、エミリーには逃げられてしまった。
「近藤結菜です。結菜でいいので」
「ああ、俺は松尾昇だ」
「え?」
と漏らしたのは透子だろう。
俺は特に気にせず、結菜の方を見る。
すると、
「よろしくお願いしますね、昇お兄さんっ」
笑顔で挨拶してくる。人懐っこそうな女の子だ。
「……」
一方、透子が物言いたげな感じで結菜を見ている。
俺はそんな透子を気にし、「あの?」っていう結菜の声に引き戻される。
「え? あ、ああ、よろしく……」
おっぱいはほどほどだけど、なかなか可愛いじゃないか。
「松尾……?」
透子が勘づき、じっと見てくる。
「いや、なんでもない……そんなことより上がってくれ。透子の友達だ。歓迎する」
結菜は目を細めて感心したような顔をして、
「へー」
へーってなんだ? なんのへーだ?
続けて結菜が透子を見て、
「ふーん」
だから何? 何なの? お兄さんにも分かるようにしてほしいな……。
ともあれ俺は結菜を招き入れた。
飛び込みJKを助けたら、同棲することになった アサギリスタレ @asagirisutare
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