第2話

天国と地獄……家族♯2


僕も土手を見つめた。


 暗い土手は何も見えない。

「アンタ、なにやってんのよ!」 母が土手に叫んだ。


 すると、真っ暗闇の土手にスポットライトが当り、暖かそうなジャンパー…僕とお揃いだ。ジャンパーを着て釣竿を持ったオジサンが手を振っている。

「アナタのお父さん…」 母は言った。

「お父さん…昔に死んじゃったお父さん…」 僕は手が震えた。

 僕が産まれてすぐに死んじゃった…。

 一度も見たこと無い、お父さん。

「いやいや、この川は何も釣れないや…」 父は土手を上がってきた。「当たり前じゃない、ここはドブ川よ…バカじゃないかしら…」 「お!ヒロシか!?」

「正人よ!!自分の子供の名前も知らないの?…呆れたわ」

「だって俺が死んでから産まれたんだろ?」

「違うわよ!産まれてからアナタは死んだのよ。手紙送ったって音沙汰無しだったじゃない!」

「あぁ…アレか…」

「何とぼけてんのよ!!覚えてないくせに」 父はヘラヘラしてる。

「ヘラヘラしてんじゃないわよ…何でいるの?」

「神様が行けって…でも、道忘れたから釣りしてたんだよ。そしたらお前から会いに来てくれた…いやぁ嬉しいねぇ」

「相変わらずね…」 母の額に角が生えていた。

 母を殺しちゃったオジサンよりも父の方が優しく見えた。怒ってる母にも笑っていた。

 家族が集まった。

 これからは幸せだ。

 家族がいるから幸せ…。 父は僕の手を引いて歩き出した。

「帰ろうな…マコト」

「僕は正人だよ」

「どっちでもいいさ」

「良くないわよ!バカなんだから…」 父はニコニコして、母はプリプリして、僕はワクワクしながら家に帰った。

 桜並木を歩きながら、父は僕を肩車してくれたが、桜の枝に頭をぶつけた。

 家の中は死臭が漂い白装束の人が二人いた。

 お化けみたいだ。

「こんにちわ、私達はあの世の者です。あなた方は自縛霊に決定したので、ここで暮らして下さい。私達は伝言役なので、文句を言われても何もできません…あらかじめ申し上げます。あんまり文句を言われると辛いので勘弁してください」

 白装束は段々と自己防衛している。

「あなた方は恵まれていますよ。家族一緒ですからね…もっと不幸な方々はいっぱいいますから…」

 もう一人がフォローしている。なんか二人共もビクビクしている。

「そんなにビビらないでいいよ。俺らは生きてたってどうしょうもないんだからさぁ~死んで幸せってのもあるんじゃない?アンタ達に文句なんて無い」 父はニコニコしながら二人に言った。優しいなと思って、握ってる手に力を込めた。父も握り返してくれた。

「冗談やめてよ!この人が嫌だから別れたのよ?別れた後に死んだ人となんで一緒にならないといけないのよ!冗談じゃないわよ」

「いや、だから、こういう文句言われると辛いので勘弁してくださいって…言ったのに…」

「死んだってここにいるんじゃ何も変わらないじゃない!しかも、なんでこのバカ男と?」

「あくまでも個人的な予想ですけど…アナタは地獄を与えられたのでは無いですか?アナタにとっての地獄が家族との生活なのではないでしょうか…」

「何、説教してんのよ!消えろ、ナヨナヨお化け!!」 「ひ、ひどい」

「行こ行こ…では、失礼します」 二人は影の中へ消えて行った。

「自縛霊だって…」 父は呟いた。

 三人の生活が始まった。 しばらくして大家さんが母の死体を発見して、警察がたくさん来た。母を殺しちゃったオジサンは警察に捕まった。違う女の人にも暴力をふっていたみたいだ。家は取り壊されて、原っぱに僕たちは暮らしている。父は母にいつも怒られている。僕は父と仲良しである。僕と父は天国で、母は地獄である。でも、家族は離れない…だから、幸せだよ。

 昨日、父が犬を拾ってきた。母は犬が好きで、少し喜んでいた。僕も嬉しかった。


おわり


父は母に捨てられて風呂無しアパートに住んでいて、銭湯の浴場で転んで頭を蛇口にぶつけて死んだらしい…ケロヨンの桶を取ろうとしたらしい…。

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天国と地獄……家族 門前払 勝無 @kaburemono

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